- はじめに
- INTRODUCTION 大人の苦しみ 子どもの苦しみ チーム対応の重要性
- 寸田先生の日常
- 問題を1人で抱える担任の苦しみ
- 会いたくない担任に会わなければいけない子どもの苦しみ
- 理解のない学校に向き合う保護者の苦しみ
- 桃崎先生の日常
- チーム対応は桃太郎で
- 第1章 不登校の子どもを支える3つの機能
- 3方向で支える
- 話を聞いてくれる大人―犬養先生の場合
- 一緒に楽しむ大人―猿井先生の場合
- 背中を押してくれる大人―雉本先生の場合
- それぞれの機能をコーディネートする大人
- 第2章 子どもの現在地から考える
- 子どもの心の居場所を視覚化する
- 心の居場所は
- 現在地を知るために―子どものレベル 家庭編
- 現在地を知るために―子どものレベル 学校編
- 子どもの現在地=家庭レベル×学校レベル
- A地点での対応
- B地点での対応
- C地点での対応
- D地点での対応
- E地点での対応
- F地点での対応
- G地点での対応
- H地点での対応
- I地点での対応
- J地点での対応
- K地点での対応
- L地点での対応
- M地点での対応
- N地点での対応
- O地点での対応
- P地点での対応
- Q地点での対応
- R地点での対応
- 第3章 チームの役割
- 誰がそれをするべきか
- 自室の森
- 休み始めたとき
- 先生が子どもに会えないとき
- 特定の人物を嫌悪しているとき
- 自宅島を脱出するために
- 考え方をアップデートする
- 自己イメージをアップデートする
- 学校島や学び島へ
- 第4章 チーム対応の勘所 子ども対応の「あいうえお」
- 成果をもたらすチームとは
- 停滞パターン
- 孤立パターン
- 協同パターン
- 成果を生み出せる学校とは
- 子ども対応の「あいうえお」
- 温める
- イライラしない
- 疑わない
- 選ばせる
- 押し付けない
- どうしても子どもに優しくなれないという先生へ
- 第5章 保護者の現在地から考える
- 保護者の気持ちと行動 4つの分類
- オロオロ型
- ビクビク型
- ガミガミ型
- サバサバ型
- 保護者と子どもへの支援
- オロオロ型の場合
- ビクビク型の場合
- ガミガミ型の場合
- サバサバ型の場合
- 会えない子どもと会わそうとしない親
- 子どもを会わせたがらない母親との会話例
- 先生と会いたがらない母親との会話例
- 第6章 保護者の気持ち 子どもの気持ち
- インタビュー 佐々木祥子さん(十勝子どもの居場所・学びネットワーク協議会 輪〜む)
- 居場所をつくるということ
- 不登校という呼び方が生むもの
- 子どもの不安と負担
- 親の不安と負担
- 学校への願い
- 安心のある学校に
- 学校の枠を超えて
- 出会った子どもたち
- 第7章 実践事例@ 小学校と中学校の継続した支援体制の構築
- インタビュー 佐藤育子さん(中札内村教育委員会)
- 取り組みの経緯
- チェックシートで児童生徒の段階を共有する
- ガイドラインで対応を共有する
- 取り組みの事例
- 第8章 実践事例A 不登校支援システム
- インタビュー 清末有二さん(芽室町教育委員会)
- 取り組みの経緯
- 取り組みの実際
- 共通言語をもつために
- 前向きに休むために
- 定期的に取り組むということ
- 予防の方策
- 不登校支援の中心的な価値観
- おわりに
はじめに
もし日本の違う時代に生まれていたら,今の子どもたちは生きていけないよ。
首をかしげながら,そう嘆く先生の声を耳にしたことはあるでしょうか。
しかし,今の子どもたちも日本の違う時代に生まれたら,その時代環境に適応して暮らしていきます。反対に昔の子どもたちが,今の時代に生きていれば令和の子どもと同じような課題をもつでしょう。
時代は移り変わります。時代環境の変化によって令和の子どもたちは,かつてと違う価値観,行動様式や性質をもっています。ところが学校は,昭和の価値観,指導法が根強く残っています。
著しい不登校の増加について,コロナ禍が原因だとか,すぐに休ませる家庭の問題だとか,様々な声が聞こえてきます。私は不登校の増加の原因,それは昭和の学校と令和の子どもたちとのミスマッチによるものだと考えています。そのミスマッチは子どもだけでなく,教員のなり手不足など,大人にも及んでいます。不登校の子どもに対して首をかしげる前に,学校の時代適合性にこそ首をかしげるべきなのかもしれません。
時代によるミスマッチという観点をもたないと,不登校はあくまでも個々の問題になってしまいます。個々の問題となると誰かを批判したくもなります。しかし個々の問題で片づけられないほど,不登校の子どもたちは増えています。あきらかにヒューマンエラーではなくシステムエラーなのです。
システムエラーから子どもが不登校に追いやられるとき,子どもの心には何があるのでしょう。それは端的に言うと不安と負担です。みんなにどう思われるんだろうという不安。みんなと同じようにはできないよという負担。令和の子どもと昭和の学校とのギャップは,様々な不安や負担を生み出します。
そして持続する不安や負担は心と身体をすくませます。それは高所恐怖症と本質的には変わりません。その状態で大人が説教しても,叱っても,子どもの足は,ますます学校に向かなくなります。必要なのは安心と自信を与えることなのです。
子どもは一時的に心と身体がすくんで教室に入れないだけです。何も失っていないし,何もあきらめることはありません。上手に休めば多くの子どもは自ら動き出すものです。
学校の在り方・やり方を見直し,個々のペースを大切にしながら向き合っていくことが求められます。そのためには,担任が1人で対応するのは不可能です。では,どうすれば良いのでしょう。その答えは過去の教育実践にはありません。現在只今の子どもたちの中にこそあります。子どもをよく観察し,声を聞くことが大切です。学校にそのセンサーがなければ,ただただ,子どもの変化を嘆く評論家になってしまいます。そうではなく声を聞き,考え,動くチームが必要です。
チームには様々な個性や機能をもったメンバーが必要です。互いに尊重し合い,それを組み合わせることで強いチームが生まれます。本書では桃太郎を例にして説明しています。
そしてチーム対応は,もはや待ったなしです。自ら命を絶つ子どもに関する調査研究があります。それを見ると,自ら命を絶つ子どもの10人に1人は不登校状態なのです。かつてないほど子どもの命は危機にさらされています。命を守るためにも,まずは不登校に適切に対応することが必要です。大人が手を取り合って命を救う投網をつくっていかなくてはなりません。
本書では,不登校の子どもたちを回復させるための方法(必ずしも再登校を意味するわけではありません)を具体的に論じています。それは空理空論ではなく,実際の指導場面をもとにしています。本書を契機として,不登校の子どもにチームで対応できる学校が増えることを願っています。
/千葉 孝司
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- 明治図書