- まえがき
- 第一章 「逆算」の発想が必要
- 一 逆算の発想とは
- 二 教育の世界の積み上げ方式の例
- 三 進路指導も例外ではなかった
- 第二章 子どもの世界で進む二極化現象
- 一 学力・体力の二極化が進む
- 二 進路の二極化が進む
- 第三章 「稼ぐ」スピリットを育てるインターンシップ
- 一 「稼ぐ」と「儲ける」の違い
- 二 「稼ぐ」スピリットを育てるインターンシップ
- 第四章 小学校からのキャリア教育の必要
- 一 教師・親の怠慢―しつけの放棄
- 二 小中学校の疑問・質問
- 三 中学生の勤労観・職業観はどこで作られるか
- 第五章 キャリア教育に有効な教科内容
- 一 中学三年生の勤労観・職業観の四タイプ
- 二 四タイプは生活体験とどう結びつくか
- 三 四タイプは教科内容とどう結びつくか
- 第六章 ユニークな小学生の職場体験
- 一 千葉県が始めた就業密着観察
- 二 子どもたちはどんな感想を持ったか
- 第七章 高校生にもキャリア教育をしよう
- 一 教育困難校の体験学習の意味
- 二 オープンキャンパスの意味
- 三 出前授業は高校生にどんなインパクトを与えるか
- 第八章 教師の職場体験研修はなぜ必要か
- 一 異職種体験研修がもたらすもの
- 二 教師になぜ職場体験が必要か
- 第九章 どんな職業体験をさせればよいか
- 一 どんな職業体験をしているか
- 二 職業と将来に対する構えがはっきりする
- 三 生活体験が職業体験を高める
- 第一〇章 職業体験の教育的効果は何か
- 一 兵庫県の事例
- 二 千葉県の事例
- 三 どんな効果があったか
- 第一一章 キャリア教育の“即効的”な支援施策
- 一 「フリーター・ニート」の四つのタイプ
- 第一二章 フリーター・ニートを育てないために
- 一 就職を忌避しない層を育てる施策
- 二 キャリア教育のカリキュラム開発
- 三 大学と地域での事例
- 結 び
- 参考資料 「希望の持てる職業社会の実現をめざして〜夢・仕事・生きがい〜」
- 千葉県職業能力開発審議会専門部会報告書 平成一七年度
- あとがき
まえがき
これまでの進路指導は破綻した。残念ながらそういわざるをえない。進路指導がうまくいっておれば、今日いわれるフリーター・ニート問題は生まれなかったであろう。
確かに、国は鳩山邦夫文部大臣の時から進路指導を偏差値に頼らないものへと大きく転換した。どこの高校に進学するかではなく、どのような人生を過ごすのかという生き方教育に力点を置いた。
しかしそれでも問題の解決にはならかった。それはなぜか。進路担当者にとどまらず教師と親が、次のような五つの視点を持ち得ていなかったからである。
@ 社会構造の変化を見据えた進路指導をしてこなかった。いうまでもなく進路選択は学校選択であり、職業選択である。職業は社会構造と密接に関わっている。しかし、学校関係者は職業と社会の変化には疎い。学校社会だけで自己完結しがちである。子どもの夢やなりたい職業の中味と変化を知らなすぎた。社会の変化と子どもの変化についていけなかったのである。
A 学校の教師は「逆算の発想」を持っていなかった。小学校を卒業させた教師は、この子どもたちの大半が六年後高校を卒業し、どんな進路を歩むか想定しなかった。どんな中学生になるかはうっすら想像できたか、高校までは想定外であった。
多くの教師は積み上げ方式の発想をしている。これは単年度主義である。次の年次を考えていない。学校で一番活気があるのは新学期の四月である。そして静かなのが卒業式の日を除いた三月である。
こうした積み上げ方式の発想は何も教師の世界だけではない。役所もそうである。道路工事は二月に多い。それは単年度で予算を消化しなければならないからである。
ここからは子どもたちの人生を制度設計するという視点は生まれてこない。
B 「稼ぐ」と「儲ける」の区別ができていなかった。生きるためには働かねばならない。働いて稼ぐことで食べていけたのである。これが「食い扶持を稼ぐ」ということである。これは人間が生きていく上で最低のルールである。
それが「稼ぐ」と「儲ける」を混同して進路指導では「稼ぐ」ことを軽視したか、無視してきたのである。生き方を表面的にしか捉えてこなかった。「稼ぐ」と「儲ける」は基本的に違うのである。
C 親や教師が子どもたちの素朴な疑問・質問に答えてこなかった。「なぜ働かなければならないの」「なぜ税金を納めなくてはならないの」「なぜ勉強しなければならないの」という疑問・質問に正対して答えてこなかった。こうしたことは社会に出ていけばわかるだろうと勝手に思い込み、無視するか避けてきた。
なぜ働くのか、どんな人生がいいのかということを考えるチャンスを与えてこなかった。決められたレールを走ればよいという生き方を身につけさせてきたのである。
D 進路指導を一部の教師だけに任せてきた。進路指導は中学校三年生の担任か、進路指導主任、それから三年生を持った保護者がすればよい、としか思っていなった。
だから、勤労観・職業観の意識はどうやって生まれるか、どんな体験が子どもの勤労観・職業観に影響を与えるか、そして学校はキャリア教育のためにどんなカリキュラムを用意すればよいか、という視点は乏しかったのである
家庭教育、学校教育、それから地域での体験活動が子どもたちの勤労観・職業観を中心としたキャリア意識を育てている、という捉え方がなかったのである。
本書ではこれまでの進路指導が持っていた弱さを指摘し、それはどのようにすれば克服できるか、その道筋を示した。
そうすることによって、今日のフリーター・ニート問題に象徴される、日本が抱える青少年問題の解決の手がかりを得ることができるだろう。
二〇〇六年五月 /明石 要一
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- 明治図書