- まえがき
- T 批判的読みを取り入れた授業づくり
- 1 求められる「自立した読者」
- 2 身に付けさせたい批判的思考力―「批判的」ということばの意味
- 1 粗探しではない、よいものはよいと評価する力
- 2 反省的(reflective)に思考する力
- 3 見かけに惑わされず、多面的に捉え、よりよい思考を実現する力
- 4 重要性を増す批判的思考力
- 3 批判的読みとは何か
- 1 「筆者に立ち向かう、力強い読者(読み手)を育てる読み方」である
- 2 批判的読みについての主な主張、実践
- U 批判的読みの授業づくりのポイント
- 1 批判的読みの基盤づくり
- 1 本文に向かう構えを
- 2 大きく文章全体を意識する目を
- 2 批判的読みの基本的なあり方
- 1 読みの目的・ねらいについて
- 2 読み・検討の観点について
- 3 読み・検討の対象について
- 3 批判的読みの学習活動の開発
- 1 「本論部」を批判的に読む―事例のあり方に着目して
- 2 「結論部」を批判的に読む―筆者の主張に着目して
- 3 「序論部」を批判的に読む―話題設定のあり方に着目して
- 4 論の展開のあり方を批判的に読む
- 5 表現(ことば)のあり方を批判的に読む
- 6 題名を批判的に読む
- 7 非連続型テキスト(図表・絵・写真等)を批判的に読む
- 8 筆者の立場で、自分の立場で、批判的に読む
- 4 批判的読みで育てる論理的思考力
- 1 論理的思考力の具体化
- 2 論理的思考を促す発問
- 5 学習指導過程における批判的読みの位置付け
- 1 内容を確かめる読みとの関係性 97
- 2 シンプルに位置付ける
- 6 「自立した論理的表現者」を目指して
- V 批判的読みの授業デザイン
- 1 小学校一年 「いろいろな ふね」
- 本文に積極的に取り組み、事例の内容・特質を実感的につかむ
- 2 小学校二年 「どうぶつ園のじゅうい」
- 事例の共通点・相違点に着目し、筆者を意識して読む
- 3 小学校三年 「すがたをかえる大豆」
- 事例の内容・特質と述べ方を関連させて読む
- 4 小学校四年 「『着るロボット』を作る」
- 事例のあり方(内容や種類、順序)を検討する
- 5 小学校五年 「天気を予想する」
- 論の展開と非連続型テキストのあり方を検討する
- 6 小学校六年 「『鳥獣戯画』を読む」
- 文体の特徴を捉えて検討する
- 7 中学校一年 「ニュースの見方を考えよう」
- 筆者の主張に対する自分の考えをもつ読み
- 8 中学校二年 「モアイは語る―地球の未来」
- ことば、写真、図表等の使い方を吟味する
- 9 中学校三年 「フロン規制の物語―〈杞憂〉と〈転ばぬ先の杖〉のはざまで」
- 表現のあり方としての小見出しと図表の検討
- あとがき
- 初出一覧
- 索引
まえがき
批判的読み―この読み方を取り入れることは、説明的文章の授業を改革していくための鍵である。本書では、その意義と内容、そしてそれを取り入れた授業づくりのポイントを具体的、実践的に記した。限られた紙幅の中での不十分さはあるが、研究、実践面での議論が進展することを願って、可能な範囲で体系的、構造的にも示したつもりである。
批判的読みは、PISA調査における読解力(リーディング・リテラシー)として注目されることになったクリティカル・リーディングでもある。批判的ということばは、日本語のニュアンスとしてはマイナスイメージがあるが、この読みは粗探しをするためのものではない。文句をつけることを奨励する読みでもない。納得できることはよしとし、腑に落ちないことはそのまま受け入れることはしない読み、文章(=筆者のものの見方や考え方)に対する自分の意見をしっかりともつ読みである。これは、高度情報社会には必須の読みの力であり、自己を確立していくためにも是非身に付けておきたい力である。
これまで説明的文章領域では、こうした読み方が、研究者や一部の実践家を除いては、なかなか広まらなかった。それでも、先のPISA調査の影響を受けて、ここ十年くらいでずいぶんと様子が違ってきているのも事実である。
折しも、平成二九年版の学習指導要領が告示され、国語科の「内容」の〔知識及び技能〕の項目の中に「話や文章に含まれている情報の扱い方に関する」事項が位置付いた。そこでは「事柄の順序」「原因と結果」「具体と抽象」等の論理的思考力を使って「情報と情報との関係」を理解することが要請されている。説明的文章の学習指導はその担い手として、いっそう重要となった。
また、中学校第三学年の「読むこと」領域の内容には「イ 文章を批判的に読みながら、文章に表れているものの見方や考え方について考えること。」と明示された。義務教育最終学年に、批判的読みが位置付いたということは、小・中学校の九年間をかけて批判的読みの授業を積極的に展開し、こうした読みの力を身に付けさせるように、というメッセージである。
筆者に立ち向かい、自分の考えをつくっていく批判的読み。そうした批判的読みを楽しむ説明的文章の授業が、多くの教室で行われるように願っている。本書が、そのための一助となれば幸いである。
本書の刊行に当たっては、木山麻衣子編集長に格別なご高配を賜った。氏の迅速、的確なご助言がなければ、発刊はまだまだ先であったろうと思う。また校正担当の有海有理氏には、「筆者に立ち向かう、力強い読者(読み手)」を地で行く「批判的読み(クリティカル・リーディング)」でもって、校正作業を遂行していただいた。記して感謝申し上げる。
二〇一七年 六月 兵庫教育大学大学院教授 /吉川 芳則
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- 明治図書
- 吉川先生の本は必ず購入して学ばせていただいています。2021/2/1130代・小学校教員
- 国語の授業づくりが一段レベルアップしました。読み込みと実践を繰り返すことでさらに何段もレベルアップが可能だと思います。2021/2/720代小学校教諭
- 想像よりも学術的に論じられていて、非常に良い内容だった。2021/1/120代・中学校教員
- 説明文の授業の仕方について、批判的に読むことを軸に書かれていて、とても勉強になりました。2021/1/1ケンジ