- まえがき
- T 新旧・中学校学習指導要領における選択教科の規定
- 1 旧・中学校学習指導要領における選択履修幅拡大の背景
- 2 旧・中学校学習指導要領における選択教科の規定
- 3 新・中学校学習指導要領における選択教科の規定
- (1) 中央教育審議会の答申における「生きる力」と選択教科
- (2) 教育課程審議会の答申における選択教科のねらいと位置づけ
- (3) 新・中学校学習指導要領における選択教科の規定
- U 選択教科に関する新旧・中学校学習指導要領の比較
- 1 「総合的な学習の時間」の導入に伴う選択教科の質的変容
- 2 選択教科と「総合的な学習の時間」の相違点
- V 新教育課程・選択教科の運営に関する10の基礎知識
- 1 中学校・選択教科の方向づけで留意したいこと
- 2 新教育課程・選択教科で,知っておきたい10の基礎知識
- 〈知識1 〉選択教科をするのは,何のため?
- 〈知識2 〉選択教科と総合的学習の違いは,何か?
- 〈知識3 〉選択教科の「授業時数」は,どうなっているか?
- 〈知識4 〉選択教科の「内容」は,何か?
- 〈知識5 〉選択教科の「種類」は,何か?
- 〈知識6 〉選択教科の「履修数」は,どうなっているか?
- 〈知識7 〉各選択教科の「具体的内容」は,どうなっているか?
- 〈知識8 〉選択教科の「開設と運用」で,学校に何を求めているか?
- 〈知識9 〉「高校入試」で,選択教科はどう扱われるのか?
- 〈知識10 〉結局,「学校に要求されていること」は何か?
- W 新教育課程における選択教科運営のための10課題
- 課題1 各選択教科において開設できる「内容」
- (1) 各選択教科の「内容」の規定
- (2) 選択教科の「開設と運用」の規定
- 課題2 選択教科における「生徒選択」の前提にあるもの
- (1) 選択教科のねらいと,「補充的」「発展的」の意味
- (2) 選択教科の運営に求められる「各学校の主体的な判断」
- 課題3 選択教科の運営に求められる学校の教育的視点
- (1) 各教科の「基礎・基本の獲得」を重視する視点
- (2) 生徒の「個性の発見」を重視する視点
- 課題4 「必修教科」「選択教科」「総合的な学習」における「学び」の差異
- 課題5 選択教科の特性にもとづく「群」「系」の設定
- (1) 「内容系教科」と「表現系教科」の設定
- (2) 「茨城県水戸市立双葉台中学校」の実践に学ぶ
- 課題6 選択教科で取り上げる領域ないしは課題の種類
- (1) 「広島県東城町立東城中学校」の実践に学ぶ
- 課題7 各選択教科における,コース選択ないしは課題選択の方法
- (1) 「興味・関心型」「習熟型」「適性型」の組合せ
- (2) わが国における「教育観」の再構築
- (3) 「埼玉県北葛飾郡杉戸町立広島中学校」の実践に学ぶ
- (4) 「新潟県新潟市立白新中学校」の実践に学ぶ
- 課題8 選択教科の実施期間
- (1) 「福岡県」の実践に学ぶ
- 課題9 選択教科における教師の支援
- (1) 「宮城県栗駒町立栗駒中学校」の実践に学ぶ
- 課題10 選択教科における学習評価の在り方
- (1) 「茨城県水戸市立双葉台中学校」の実践に学ぶ
- (2) 「茨城県つくば市立竹園東中学校」の実践に学ぶ
- X 中学校・選択教科実施の基本的考え方
- 1 学校における「学び」と選択教科の位置づけ
- (1) 「チョークとトークによる授業」からの転換
- (2) 中学校・選択教科を考える二人の生徒の発言
- (3) 中学校・選択教科で,教師が問われていること
- 2 中学校・選択教科の学習活動がねらうこと
- (1) 学習活動における多様性
- (2) 学習活動を具体化するストラテジー
- Y 中学校・選択教科の実施に向けた提案
- 1 選択教科運営の基本理念に関して
- (1) 各教科の「基礎・基本の獲得」という理念
- (2) 生徒の「個性の発見」という理念
- (3) 「なぜ,選択教科を実施するのか」についての整理
- (4) 「選択によって,どんな力をつけるのか」についての整理
- 2 選択教科運営の方法的理念に関して
- (1) 選択教科を「内容系」と「表現系」に分類
- (2) 「内容系教科」と「表現系教科」の両方の選択
- (3) 将来的には,学校外の人材に支援を要請
- (4) 選択教科運営の方法的理念の具現化
- 3 「内容系教科」におけるコース設定
- (1) 「基礎コース」の設定
- (2) 「発展コース」の設定
- (3) 「自分流コース」の設定
- 4 「表現系教科」では学習課題を生徒が選択または発見
- (1) 「コース」ないしは「課題」の設定
- (2) 学習課題の選択または発見のプロセス
- 5 学習形態は,大グループ学習,小グループ学習,個人学習を選択
- 6 学習期間は1年間でなく,学期ごと,半年ごとに設定
- 7 学習評価は「内容系教科」や「表現系教科」の目的に応じて実施
- 8 (付記)各学年ごとの選択教科の運営例
- (1) 第1学年の選択教科の運営例
- (2) 第2学年の選択教科の運営例
- (3) 第3学年の選択教科の運営例
- Z 「移行期」から「実施初期」における選択教科運営の留意点
- 1 学校教育推進のための3点セット
- (1) 「組織」づくり
- (2) 「手順」の決定
- (3) 「期限」の設定
- 2 選択教科を推進する具体的手順
- 3 選択教科がめざす「目標」の周知
- 4 (付記)選択教科の段階的な発展
- (1) 選択教科と「総合的な学習の時間」の時間配分例
- (2) 第1学年の時間配分例
- (3) 第2学年の時間配分例
- (4) 第3学年の時間配分例
- 5 中学校・選択教科における教師の役割
- あとがき
まえがき
新教育課程では「総合的な学習の時間」が脚光をあびているが,これまでの学校教育のあゆみや生徒の実態からみて,学校関係者がとりわけ注意をはらう必要があるのは,むしろ選択教科の方であると思われる。
これまでの学習指導要領の改訂で耳にした「生徒の学習内容が多すぎる」との批判的見解は,この度の学習内容「三割削減」によって見事なまでにくつがえされることになり,長年,学校現場で教鞭をとっていた立場からしてみれば,これで本当に国の将来が成り立つのかと懸念されるほどである。
こうした状況にあって,中学校における選択教科の運営は,生徒個々の発達を支援する意味においても,わが国の教育内容と教育水準を高位に保つ意味においても大きな役割を担っていると思われる。
具体的には,新教育課程における年間総授業時数が980時間であるのに対して,第1学年の選択教科が0〜30時間,総合的学習が70〜100時間,第2学年の選択教科が50〜85時間,総合的学習が70〜105時間,第3学年の選択教科が105〜165時間,総合的学習が70〜130時間と定められた。
つまり,新教育課程において,必修教科の授業時数が大幅に削減される一方で,選択教科と総合的学習の授業時数については,第1学年が合計100時間,第2学年が合計155時間,第3学年が合計235時間と,大幅に確保されたのである。
とりわけ,第3学年の合計235時間は,年間総授業時数980時間の実に約4分の1に相当し,これまで必修教科方式の指導に慣れてきた中学校教師にとって大きな意識改革を迫られる事態となっている。
そして,この新教育課程への移行を円滑に行うために,平成11年6月には「総合的な学習の時間」の先行実施や学習内容の「三割削減」の前倒し実施が特例(移行措置)1)として告示された。
しかしながら,中学校の新教育課程における選択教科の運営課題は,こうした量的拡大がなされたというより,むしろ,その質的変容がなされた点にある。
旧・中学校学習指導要領における選択教科は,昭和62年の教育課程審議会答申2)で強調された「自ら学ぶ力や創造的な能力の育成を図る」ための選択履修幅の拡大と基準の緩和という基本方針によって,結果として,多くの中学校で生徒の生活や地域に根ざした身近なテーマに関する教科の内容を越えた課題学習や講座選択学習が行われることとなった。
ところが,新・中学校学習指導要領においては,こうした生徒の生活や地域に根ざした身近で教科の内容を越える課題学習の趣旨は,主として新設された「総合的な学習の時間」において生かされることになった。
そのため,本来的に教科固有の目標の達成をめざす選択教科は,自ら課題を設定し追究する「課題学習」,必修教科の授業で学習した内容を十分に理解するために再度学習する「補充的な学習」,必修教科の授業で学習した内容よりさらに進んだ内容を学習する「発展的な学習」の3つの役割が期待されることとなり,その運営の理念と指導の方法論が改めて問い直されることとなったのである。
したがって,本書においては,『中学校・総合的学習の導入と教育課程編成の課題』(拙著)3)に引き続いて,新たな選択教科の観点から改めて新・中学校教育課程の在り方と課題について検討することとし,中学校・選択教科の教育課程運営上の課題ならびに学校現場がとるべき対策について考察することにした。
なお,本書で取り上げる中学校・選択教科の研究校については,主に旧・学習指導要領における選択教科の先進研究校として実績のある文部省研究協力校を取り上げ,それらの研究実践の中から新・学習指導要領の趣旨に合致し,また全国の中学校の教育課程の運営に多くの示唆を与えるであろうと思われる優れた実践の要点を紹介することとした。
また,第Y章,第Z章の末に「付記」の項を設けたのは,筆者が25年にわたって国公立中学校の教員および管理職として勤めた中学校現場での問題意識をもとに,中学校教育課程の運営に際して避けてとおることのできない課題と対策について,「蛇足」とのご批判をいただくことを承知の上で,あえて書かせていただくことにしたものである。
それぞれの中学校で,新教育課程における選択教科の運営が現実の課題となった時に,一試案として,お読みいただければ幸いである。
本書の刊行にあたっては,明治図書出版の江部満氏に,企画から編集の細部にわたり的確なご助言と温かい励ましをいただいた。あらためて、ここに感謝申し上げたい。
2001年3月 /長瀬 荘一
-
- 明治図書