- はしがき
- T これからの情報教育をどう展開するか
- 1 メディア教育と情報教育の相互補完
- 2 情報教育(IT)と情報コミュニケーション教育(ICT)の関連
- 3 情報教育とメディアリテラシーの教育をどうつなぐか
- U 遠隔学習の可能性とそのリテラシー
- 1 情報社会の遠隔学習
- 2 新しいメディアを使った遠隔学習の実践
- 3 これからの遠隔学習とリテラシー
- V 日本におけるメディアリテラシーの展開と課題
- ―メディア論の観点から
- 1 はじめに
- 2 立ち現れつつあるさまざまな営み
- 3 メディアリテラシーが抱える課題
- 4 混成的なメディアリテラシーの必要性
- 5 おわりに:メルプロジェクトの概要
- W 教師のメディアリテラシーに関する調査研究
- 1 メディアリテラシーに関する調査と結果
- 2 調査対象
- 3 調査の方法
- 4 調査結果と考察
- 5 まとめ
- X 学校放送番組連動した共同学習の展開
- 1 共同学習を成立させるために
- 2 共同学習をささえるシステム
- 3 共同学習とメディアリテラシー
- Y 中郷村内の3小学校による地域共同調査
- ―新潟県中郷小学校の実践より
- 1 はじめに
- 2 地域における共同調査の視点
- 3 中郷小学校の視聴覚メディア環境
- 4 共同調査における情報交換の手法
- 5 片貝川の共同環境調査活動
- 6 雪をテーマに
- 7 今後の課題
- 8 地域内交流学習をどう進めるか
- Z メディアと批判的にかかわることを教える教育
- 1 メディアと批判的にかかわる教育がなぜ必要なのか?
- 2 実践例:メディアの向こうに「わたし」が見える
- 3 メディアリテラシー教育のもう一つの意義
- [ まとめにかえて
- ―総合的学習とメディアの活用
- 1 2次元座標に総合的学習の位置づけ
- 2 メディアの位置づけ
- 3 総合的学習とメディア
- 4 具体事例の考察〜地域の探索・実践・交流そして深化発展〜
はしがき
日本のメディア教育にも,やっと新しいページが開かれる時が到来した。
私たちの身の周りには,パソコンやネットワーク,携帯電話,BS・CS放送等が,満ち溢れている。情報の受け渡しをするのにこれまで当然の如く使われてきた手紙,これに電子メールが加わることで時間軸が消えた。図書館でカードを使って文献を検索してきたが,WWWやGopherを使えば自分のコンピュータ上に,自分専用の仮想図書館が作れる。デジタルカメラで撮影してきた写真は,そのまま多数の相手のパソコンにメールで送れるし,自分のホームページに記載して,誰にでも公開できる。携帯電話が4500万台も普及すると,私たちのコミュニケーションの仕方は勿論のこと,予定の立て方,意思決定の仕方までもが,従来の卓上電話と手帳時代とは質的に違ってきた。
これらの変化がこの数年間で,一時に現れてまたたくまに職場や家庭に普及してきた。学校だけがこの変化の波の外にとどまれるわけがない。
文部省は通産省や郵政省と連携して,この5〜6年を取ってみても100校プロジェクト,新100校プロジェクト,こねっと・プラン,学校図書館の情報化,インターネット先進地域指定,先進的ネットワークモデル地域指定,Eスクエア・プロジェクト,通信衛星を利用しての教育情報通信ネットワーク整備事業など,次々とパイオニア的な施策を取ってきた。
そして2002年からの新学習指導要領では,「情報とコンピュータ」の領域を中学校で必修にし,高校では翌年から「情報科(ABC)」を新たに普通科で必修にした。あわせて各校種の教科等では,コンピュータなどの情報関連機器の積極的な活用を促している。コンピュータが操作でき,かつ指導できる教師の比率を一層高めるための教師教育にも更に力を入れ,予算措置も取ってきている。
こうした新しい,しかも急激な時代の流れを見据えて,本書を企画してみた。新しい情報教育やメディア教育の流れ,教師のメディアリテラシー,通信ネットワークを活かした新しい共同学習,テレビジョンとインターネットの組み合わせによる新しいメディア教育の開発研究,などの動きを正面から取り扱う。NHK学校放送部と各地の共同学習をつなぐ新しい企画を指導してきた黒上(金沢大学),黒田(富山大学),関西地区を中心に中学校の各教科や情報基礎で,新しいコンピュータ活用やネットワーク利用の実践を指導してきた森田(大阪教育大学)がX章で紹介する。それに通信衛星やISDNを用いた遠隔双方向授業を精力的に手がけてきた久保田(関西大学)が,U章を担当している。
さらに社会学者で,メディアリテラシーとか,デジタルメディア社会の実体と人間行動を研究してきた水越伸(東京大学)も最新の研究知見を披露して,学校教育という枠を超えた成人のリテラシーのこれからの在り方をV章で俯瞰している。また編者の水越は,これからの情報教育の在り方をT章で概観すると共に,池田(関西大学大学院)と共に,教師のメディアリテラシーに関する調査結果をW章でまとめている。なお「まとめ」において水越は,総合的学習とメディアの関連に焦点を当てている。
本書をまとめている間にも新しい情報技術の開発や,共同学習の新展開,情報関連事業が出てきて,原稿納入が遅れた。最初から一貫して本書の出版を勧めてくださった明治図書の江部満編集長が,事情を理解して辛抱強く待ってくださったことに,改めて感謝したい。原点に戻って新旧を吟味し「温故知新」の原則を守り抜くこと,それと子どもも教師も,成人一般をも対象にした新しいメディアリテラシーの育成を追究していくこと,などを改めて心に刻み込んで今後も学び続けたい。
読者の皆さんのご指導,ご批判に学びたい。
新しい世紀を前にして 編者 /水越 敏行
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- 明治図書