- まえがき
- 第1章 授業づくりにおける教師自身の要因
- [1] 教師のスマイルパワーと授業づくり
- 1 「楽しそうに教える」という技術
- 2 教師の「表情」と「態度」の大切さ
- 3 子どもが「朝食が美味しい」と感じるとき
- 4 大学教員に「出前授業」ができるか
- 5 「楽しそうに教える」を生み出すもの
- [2] 教師のモデリングと子どもの学習意欲
- 1 「小1プロブレム」が警鐘すること
- 2 孟子と荀子の教え,教師の役割
- 3 「してみせる教育」としてのモデリング
- 4 子どもが学級担任に似てくる心理
- [3] 「チョークとトークの授業」からの脱出
- 1 「わかりましたか」「はーい」
- 2 「わかったつもり」からの出発
- 3 「わかった」が確認できる方法
- 4 チョークとトークから原体験へ
- (1) 「納得」のある授業
- (2) 「表現」のある授業
- (3) 「自己評価」のある授業
- 5 「子どもの学力」と「教師の授業力」
- [4] 教師の赤ペンと新「絶対評価」の意味
- 1 人を育てるための2つの道筋
- 2 日本人教師は,よくない点を指摘する
- 3 教師の赤ペンと子どもの意欲
- 4 赤ペンと新「絶対評価」の関係
- 5 絶対評価が学習意欲を引き出すワケ
- [5] 授業のマクロ的改善とミクロ的改善
- 1 学校で語られる「考える力」の意味
- 2 授業をダイナミックにかえるマクロ的改善
- (1) 「到達,未到達」で判定しない学習目標の設定
- (2) 子どもの論理による学習テーマの選択
- (3) 学習活動の自由度の保障
- (4) 学習成果を共有するための発表と討議
- (5) 学びのプロセスを重視する学習評価
- 3 授業の細部に目を向けるミクロ的改善
- (1) 既成概念を揺さぶる発問の工夫
- (2) 書かせる活動の工夫
- (3) グループ討議を活性化させる工夫
- [6] 自分の授業を振り返る方法と技術
- 1 授業分析で気づかなかった自分を発見する
- 2 自分だけの力で授業を見直す
- (1) カセットテープやMDに録音して聞く
- (2) 授業の録音をテープに起こし文字にする
- (3) ビデオテープに録画撮りして見る
- (4) 授業中に思ったこと感じたことをメモする
- (5) 授業のあとで授業記録を書く
- 3 子どもから得られる授業の情報
- (1) テスト,作品,発表で学習のようすを見る
- (2) 質問紙をつくってアンケートをとる
- (3) 感想や要望を自由に書いてもらう
- (4) 面接によって感想を聞く
- 4 参観者から得られる授業の情報
- (1) 質問紙をつくってアンケートをとる
- (2) 自由記述カードに書いてもらう
- (3) 面接によって助言をもらう
- (4) 研究協議会で指導や助言をもらう
- [7] 新「絶対評価」が提起している教師の課題
- 1 新「絶対評価」の2大特徴
- 2 「教育の手続き」としての絶対評価の意味
- 3 こんなにしてまで絶対評価をするワケ
- (1) 学習指導法の改善
- (2) 子ども一人ひとりの学力保障
- 4 学校教育のあり方を問いかける新「絶対評価」
- 第2章 子どもの「やる気」が生まれる心理
- [1] 「勉強したくなる」が生まれる心理的枠組み
- 1 子どもは何との関係で勉強したくなるのか
- 2 「対内容関係」から生まれる学習意欲
- 3 「対目標関係」から生まれる学習意欲
- (1) 目標の明確性
- (2) 目標の魅力性
- (3) 目標の達成可能性
- (4) 目標の選択性
- 4 「対方法関係」から生まれる学習意欲
- 5 「対人間関係」から生まれる学習意欲
- 6 「対評価関係」から生まれる学習意欲
- [2] 子どもの「やる気」を生む3つの学説
- 1 子どもの「やる気」と学習の成果
- 2 スキナーによる「一歩一歩説」
- 3 ワイナーの「何かの原因説」
- 4 アトキンソンの「やる気の公式説」
- 5 子どもの「やる気」が生まれる授業の構造
- (1) 目標の明確性
- (2) 目標の魅力性
- (3) 目標の達成可能性
- (4) 目標の選択性
- 6 「目標の魅力」を刺激する学習材
- [3] 「五感力」がはたらく学習の仕組み
- 1 「五感力」が提起する教育課題
- 2 「五感力」に求められる相互に関わり合う関係
- 3 総合的学習の行き詰まりと打開の糸口
- 4 『メダカ達のSOS』が教えること
- 5 「五感力」をはたらかせるための課題
- 6 「五感力」は相互作用のなかではたらく
- [4] 学習における構成的競争の心理
- 1 教育における構成的競争と破壊的競争
- 2 生活場面における競争の心理
- 3 人間の「やる気」が生まれる心理
- 4 学習における競争原理の導入
- 5 構成的競争は教師の意識と態度でつくられる
- 6 構成的競争を成立させる条件
- [5] 「オン・ユア・オウン」の学習場面づくり
- 1 教師が教えすぎてはいないか
- 2 能動的な学習が学ぶ喜びを生みだす
- 3 自己教育力の基礎になる「学び方の技能」
- 4 さまざまにある「学び方の技能」
- [6] 思考力,判断力,表現力の指導と評価力アップ
- 1 学習評価の手順,基準,優先順
- 2 思考力,判断力,表現力の評価の基本
- 3 学習評価の具体的手順
- 4 学習評価の評価基準
- 5 相対的基準,絶対的基準,個別的基準の優先順
- 6 評価方法の選択と組み合わせ
- [7] 子どもの「やる気」を評価する枠組み
- 1 人間が学習意欲をもつメカニズム
- (1) 知識・理解が意欲の源泉になる
- (2) 達成体験の積み重ねが意欲を生む
- (3) 達成可能性と目標の魅力とが関係する
- (4) 知的好奇心は人間の本性である
- (5) 向上心を機能させる学習領域がある
- (6) 効力感をはたらかせ見通しをもたせる
- (7) 社会的相互性も意欲の誘因となる
- 2 学習意欲の評価を生かすことの意味
- 3 学習意欲を評価する基本的枠組み
- (1) 受 容
- (2) 反 応
- (3) 価値づけ
- (4) 価値の体制化
- (5) 価値による人格化
- 第3章 子どもが勉強したくなる教室環境づくり
- [1] 「ことばの温度計」がある教室
- 1 「ことば」という子どもの学習環境
- 2 教師のことばが与える心理的影響
- 3 欧米文化における「魔法のことば」
- 4 「くだけたことば」と「公式のことば」
- 5 日本人に弱い話しことばの能力
- 6 論理的なことばという言語環境
- [2] 学級集団への声かけ・語りかけ
- 1 子どもと出会う学級担任の第一声
- 2 自分の目で平らかに子どもを見る
- 3 「喜び」が共有できるように話しかける
- 4 「みんなの前でほめる指導」を工夫する
- 5 子どもの人格を傷つけないで叱る
- 6 黙ったときに教師の力量がわかる
- 7 教師のサイレンスパワーを生み出すもの
- [3] ナイス・トライのある授業は楽しい
- 1 元総理大臣がみせたナイス・トライ
- 2 教師に必要なナイス・トライ
- 3 大学教員がみせたナイス・トライ
- 4 勉強したくなる授業のための15課題
- 5 録画で授業分析をするナイス・トライ
- [4] 「勉強したくなる」が育む子どもの学力
- 1 「勉強したくなる」は子どもの学力にせまる営み
- 2 子どもの学力を考える3つの視点
- (1) 学習した結果として身につけた力
- (2) 学習に取り組むことのできる力
- (3) 学習に向かっていく力
- 3 「勉強したくなる」が生まれる3つの視点
- 4 子どもは教師の姿勢を感じとっている
- [5] 「自ら学ぶ力を育てる」ための学習環境
- 1 大震災が学校教育に教えたこと
- 2 「自ら学ぶ力」の視点からみた学習指導の課題
- 3 「自ら学ぶ力」を育てる指導のあり方
- (1) 自ら学ぶ心を養う
- (2) 自ら学ぶ学び方を育てる
- (3) 自分で学ぶ環境を整える
- 4 「自ら学ぶ力」の育成で忘れてならないこと
- (1) 基礎・基本の習得を軽視してはならない
- (2) 集団として学ぶ力を養う
- (3) 特別活動や道徳の領域を活性化させる
- 第4章 子どもの発達と個性に合わせた授業づくり
- [1] 「わからせたつもり」からの脱出
- 1 「わかった」の到達レベル
- 2 「指導と評価の一体化」の教育手続き
- 3 教育マニフェストとしての評価基準表
- 4 教科目標をめざして配慮された授業づくり
- 5 単元における形成的評価の成立
- 6 個人差に対応する教育システムづくり
- [2] 学習の臨界期を見逃していないか
- 1 「目かくし猫の実験」が教えること
- (1) 能動的な学習体験の必要性
- (2) 学習成果があがる臨界期
- 2 人間の学習における臨界期
- (1) 「記憶する」学習の臨界期
- (2) 「ノー文句で覚える」学習の必要性
- (3) 「疑問をもつ」学習の臨界期
- (4) 「感動する」学習の臨界期
- (5) 「話せる英語」学習の臨界期
- 3 「勉強したくなる」のインフラ整備
- 4 カリキュラム編成の3原理
- (1) 子どもの興味・関心が優先する学習
- (2) 大人の論理が優先する学習
- (3) 現実社会への対応が優先する学習
- [3] 子どもの「よさ」を見つける枠組み
- 1 「よさ」を見つけることの教育力
- 2 発達段階に応じた子どもへの対応
- 3 「よさ」を見つけるための発想の転換
- 4 生活場面で「よさ」を見つける枠組み
- 5 学習場面で「よさ」を見つける枠組み
- [4] 個人差に対応する指導と評価のシステム
- 1 少人数指導と多人数指導のメリット
- 2 少人数指導における教科特性の差異
- 3 「評価規準」と「評価基準」の設定と提示
- 4 個人プロフィールに基づく形成的評価と個別支援
- 5 補充的学習,発展的学習のコース設定
- 6 ST,SSコミュニケーションの活性化
- [5] 習熟度別学習の成功・不成功の分岐点
- 1 21世紀における学習指導の課題
- 2 カリキュラム編成の原理と習熟度別学習
- 3 内容系,表現系教科における習熟度の意味
- 4 習熟度別学習と評価規準・評価基準の関係
- 5 習熟度別学習の成功・不成功の分岐点
- [6] いい習熟度別学習,わるい習熟度別学習
- 1 「学校の先生」と一般市民の感覚
- 2 新しい教育課題について学校が考えるべきこと
- 3 習熟度別学習の理念,方法論,付随する課題
- (1) 習熟度別で求められる教育の再構築
- (2) 習熟度別学習に必要な基礎・基本の明確化
- (3) いい習熟度別をつくるのは教師の意識と態度
- [7] 無気力と思われている子どもとの対話
- 1 反応が見えなくても心は動いている
- 2 対話のための「きっかけ探し」
- 3 子どもの無気力の種類を見分ける
- 4 無気力に対する教師の心得
- (1) 反応が見えないことに慌てない
- (2) 教師の尺度で子どもを見ない
- [8] LD,ADHDの子どもへの学習支援
- 1 LD,ADHDが意味すること
- 2 LDやADHDの子どもの学習心理
- 3 子どもの「つまずき」をみる2つの視点
- 4 治療ではなく,「つまずき」に対応する
- 5 個の学習を成立させる学習支援
- (1) 漢字の学習に見られる障害
- (2) 観察記録の記入に見られる障害
- 6 個と集団,双方の学習成立をめざす
- 第5章 子どもから授業評価を受ける試み
- [1] 子どもによる「教師の授業力」診断
- 1 教師と医者は評価されるのがイヤ
- 2 ベテラン教師と若い教師はどこがちがうか
- 3 「面白い」という感情が意味すること
- 4 教師による授業診断―10の着眼点―
- (1) 授業目標は妥当であるか
- (2) 学習内容はレディネスに合っているか
- (3) 学習材(教材)は適切か
- (4) 教師の説明,指示,発問は明確か
- (5) 発言や発表についてのKR情報は適切か
- (6) 板書はていねいで構造化されているか
- (7) 学習展開が多様で工夫されているか
- (8) 学習規律が整っているか
- (9) 学習過程に「遊びの要素」があるか
- (10) 子どもとの関係が温かいか
- [2] 教育マニフェストとしての「評価基準表」
- 1 魔法のことば「マニフェスト」
- 2 絶対評価で必要になる「評価基準表」
- 3 「評価基準表」は教育マニフェスト
- 4 学習指導における「評価基準表」の役割
- 5 子どもの学ぶ意欲と教師の指導目標
- 6 よい「評価基準表」を見分けるポイント
- 7 授業に役立つ「評価基準表」の7つの条件
- [3] 評価基準表の学習者との共有
- 1 指導と評価の一体化に必要な評価基準表
- 2 到達目標の明確化は指導目標の明確化
- 3 よい評価基準表は学習指導の改善に役立つ
- 4 指導者と学習者による評価基準の共有
- 5 診断的・形成的・総括的評価による指導と評価の一体化
- 6 発展的学習・補充的学習システムの構築と個の支援
- <付 録>
- 「教師の授業力」診断表―子どもからの通信簿―
- ・せんせいへの「おしらせ」 (1)〜(3)
- ・先生への「通信簿」 (1)〜(4)
- あとがき
まえがき
「子どもが勉強したくなる心理」で,考えてみたいことがある。
ひとつは,マラソンの実況中継で見られるランナーの姿。
多くの人は,道路を走る姿を見て,たいへんだろうなと思ってしまうが,当のランナーは,かならずしもそうではないらしい。
大脳生理学には「ランナーズ・ハイ」という現象があって,長距離ランナーが,一定以上を走り続けると,それが快感となり「もっともっと走り続けたい」と思うようになるそうである。
なんでも,中脳にあるA10神経といわれる神経が刺激をうけ,走ることが快感にかわるのだそうである。
これは,別名,「快感神経」とよばれるらしい。
これを勉強にあてはめると,勉強も一定以上続けると,「もっともっと勉強したい」と思うようになるのかもしれない。
たしかに,わたしたち人間がする仕事や勉強には,はじめはイヤでも,続けているうちに調子にのってきて面白くなることがある。
きっと,これは仕事や勉強の「快感神経」が刺激されているのだろう。
もうひとつは,新聞の政治欄を,面白いと思う人と,そう思わない人の違いである。
これを,「その人が,もともと政治に関心があるかどうかだ」という人は,頭のかたい人であり,そこで問題になるのは,その興味・関心がどこから生まれるかである。
なかには,オギャーと生まれたときから,先天的に政治が好きという人もいるだろうが, ほとんどの人は,成長する過程で,好きになったりならなかったりするのである。
これを解く鍵のひとつに,スキーマ理論がある。
「スキーマ」とは,一言で言うと「ある事柄についてのまとまった知識」のことである。
人間の好ききらいには,感情や生理的なものが原因になることもあるが,知的な好ききらいは,その事柄についてのスキーマのあるなしが関係する。
新聞の政治欄が好きな人は,政治についてのスキーマをもっている人,スポーツのサッカー欄が好きな人は,サッカーについてのスキーマをもっている人である。
となると,勉強では,子どもに算数が好きと思わせたければ,算数のスキーマをもたせればよく,理科を好きにさせたければ,理科のスキーマをもたせればよいことになる。
もっとも人間は,大脳をふくめて体内に複雑なメカニズムをもつ動物であるから,ことは簡単に解決しないのであるが,本書では,そんな子どもの勉強したくなる心理について,
第1章 授業づくりにおける教師自身の要因
第2章 子どもの「やる気」が生まれる心理
第3章 子どもが勉強したくなる教室環境づくり
第4章 子どもの発達と個性に合わせた授業づくり
第5章 子どもから授業評価を受ける試み
の枠組みで,考えてみることにしたい。
2005年8月 /長瀬 荘一
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- 明治図書