- はじめに
- ―「深い学び」は深い教材研究なしには生まれない
- 第一章 国語力をつける物語・小説の「読み」の授業
- ―力をつけるための指導過程と「言葉による見方・考え方」としての教科内容
- 第1節 三つの指導過程「構造よみ―形象よみ―吟味よみ」
- 1 三つの指導過程で高い国語力=言語の能力を育てる―「言葉による見方・考え方」
- 2 読者が物語・小説を「読む」という行為を三つの要素に分けて学習する
- 3 表層のよみ(出会いよみ)と深層のよみ(深めよみ)
- 第2節 構成・構造を読み深めながら作品の全体像を俯瞰する―構造よみ
- 1 「構成・構造」に着目すれば物語・小説の面白さが浮き上がってくる
- (1)構成を読むということ
- (2)「発端」に着目し作品の構成を大きくつかむ
- 2 「クライマックス」への着目と事件の関係性の発見―構造の読み
- 第3節 作品の鍵に着目し形象・技法を読み深める―形象よみ
- 1 作品の「鍵」となるところに着目し形象を読む―形象を読むとは、作品に隠された意味や仕掛けを発見すること
- 2 導入部で鍵にどう着目しどう読み深めるか―導入部で鍵となるのはなんといっても人物
- 3 展開部・山場で鍵にどう着目しどう読み深めるか―展開部・山場で鍵となるのは「事件の発展」と「新しい人物像」
- 4 作品の「主題」への総合
- 第4節 構造よみ・形象よみを生かし作品を吟味・評価する―吟味よみ
- 1 物語・小説を「吟味・評価」することの意味
- 2 吟味・評価をするための方法
- 3 「読むこと」から「書くこと」への吟味・評価の発展
- 第二章 「スイミー」(レオ=レオニ/谷川俊太郎訳)
- 第1節 「スイミー」の構成・構造―構造よみ
- 1 発端―小さな魚たちとまぐろ
- 2 クライマックス―主題を大きく担う事件の決定的な節目
- 第2節 「スイミー」の形象・技法―形象よみ
- 1 導入部の形象―スイミーの人物設定
- 2 展開部の形象―スイミーの絶望と回復
- 3 山場の形象―クライマックスを意識しながら主題に総合
- 第3節 「スイミー」の吟味・評価―吟味よみ
- 1 「スイミー」で好きなところを見つける
- 2 「スイミー」の主題について考える
- 3 原文(英文)と谷川俊太郎訳を比較・検討する
- 4 レオ=レオニの他の作品と読み比べる
- 5 「まぐろ」を吟味する
- 6 「全体主義」批判を吟味する
- 第三章 「お手紙」(アーノルド=ローベル/みきたく訳)
- 第1節 「お手紙」の構成・構造―構造よみ
- 1 冒頭=発端―導入部のない作品
- 2 クライマックス―がまくんの大きな喜び
- 3 山場の始まりと結末そして終結部
- 第2節 「お手紙」の形象・技法―形象よみ
- 1 展開部・前半の謎―かえるくんがいるのになぜがまくんはふしあわせなのか
- 2 登場人物「かえるくん」と「がまくん」を読む
- 3 展開部・後半の謎―かえるくんはなぜ自分で届けずかたつむりくんに頼んだのか
- 4 山場の謎―がまくんはなぜこんなに喜んだのか
- 5 終結部の謎―中身のわかっている手紙をなぜ二人はしあわせに待つのか
- 6 「お手紙」の七つの謎を解読する―主題を読む
- 第3節 「お手紙」の吟味・評価―吟味よみ
- 1 七つの謎をもつ魅力的な作品
- 2 がまくんの「ふしあわせ」は本当に解決したのか
- 3 がまくんの人物設定を授業でどう扱うか
- 第四章 「一つの花」(今西祐行)
- 第1節 「一つの花」の構成・構造―構造よみ
- 1 発端―人物と時の設定から出征へ
- 2 「花」が大きな意味をもつクライマックス
- 3 山場の始まりと結末そして終結部
- 第2節 「一つの花」の形象・技法―形象よみ
- 1 冒頭の形象を読む
- 2 導入部の形象
- (1)ゆみ子、お父さん、お母さんの人物像―「人物」の設定
- (2)「時」の設定―特に時代設定
- (3)「三人称客観視点」の語り
- 3 展開部の形象―お父さんを見送りに行く
- 4 山場の形象―コスモスの花のクライマックス
- 5 終結部の形象―主題がより明確になる
- 第3節 「一つの花」の吟味・評価―吟味よみ
- 1 「一つの花」の象徴性と主題
- 2 戦争の悲惨さということについて
- 第五章 「大造じいさんとガン」(椋鳩十)
- 第1節 「大造じいさんとガン」の構成・構造―構造よみ
- 1 導入部から発端へ―前置きと事件の始まり
- 2 大造の見方の変容としてのクライマックス
- 第2節 「大造じいさんとガン」の形象・技法―形象よみ
- 1 導入部の形象―物語の経緯を語る
- 2 展開部の形象―大造と残雪の戦い
- (1)展開部の「残雪」紹介と事件設定
- (2)展開部の事件展開―大造のしかけ→大造の期待→大造の見方の変容
- 3 山場の形象―クライマックスにおける大造の見方の変容
- 4 終結部の形象―爽やかさと主題の深化
- 5 情景描写の象徴性
- 第3節 「大造じいさんとガン」の吟味・評価―吟味よみ
- 1 明快で爽やかな主題
- 2 形象を異化する―いくつかの疑問
- 3 常体と敬体―二つの本文を比較・検討する
- 第六章 「海の命」(立松和平)
- 第1節 「海の命」の構成・構造―構造よみ
- 1 発端―太一の弟子入り
- 2 クライマックス―太一の変容
- 3 山場の始まりと結末そして終結部
- 第2節 「海の命」の形象・技法―形象よみ
- 1 導入部の形象―伏線としての人物設定と先行事件
- 2 展開部の形象―太一と与吉、太一と母、太一とクエ
- 3 山場の形象―クライマックスに向かっての太一の変容
- 第3節 「海の命」の吟味・評価―吟味よみ
- 1 二人の人物の生き方から主題が見えてくる
- 2 太一は父の生き方とどう向き合ったのか
- 3 終結部の太一の家族像をどう見るか
- 4 クライマックスのとらえにくさをどう評価するか
- 第七章 「少年の日の思い出」(ヘルマン・ヘッセ/高橋健二訳)
- 第1節 「少年の日の思い出」の構成・構造―構造よみ
- 1 二つの時と二人の語り手
- 2 クライマックス―事件のとらえ方でクライマックスが変わる
- 第2節 「少年の日の思い出」の形象・技法―形象よみ
- 1 導入部の形象
- (1)「客」=「僕」が思い出を話すに至る経緯
- (2)情景描写がもつ意味と効果
- (3)「私」と「客」の人物像
- (4)呼称のもつ意味
- 2 展開部の形象
- (1)「僕」の取り憑かれた熱情を読む
- (2)「僕」のエーミール評を読む
- (3)「僕」の盗みを読む
- 3 山場の形象―クライマックスからいくつのことが読めるのか
- 第3節 「少年の日の思い出」の吟味・評価―吟味よみ
- 1 典型的な少年期との決別
- 2 「語り」の構造を意識してもう一つのエーミール像を読む
- 3 語り手は十二歳の「僕」なのか、大人の「僕」なのか
- 第八章 「字のない葉書」(向田邦子)
- 第1節 「字のない葉書」の構成・構造―構造よみ
- 1 発端―暗示的な導入部から事件へ
- 2 クライマックスへの仕掛けを俯瞰する
- (1)クライマックス―劇的な父親像の変容
- (2)山場の始まりと終結部
- 第2節 「字のない葉書」の形象・技法―形象よみ
- 1 題名「字のない葉書」を読む
- 2 導入部の形象
- (1)伏線としての父親の人物設定
- (2)これから始まる事件が「私」の中でもつ意味
- 3 展開部の形象―妹の葉書の変化と父親の姿
- 4 山場の形象―クライマックスの三つの文をどう読むか
- 5 終結部の形象―淡々とした後話の効果
- 第3節 「字のない葉書」の吟味・評価―吟味よみ
- 1 伏線からクライマックスへの心憎い仕掛け
- 2 三十年以上経過していることの意味をどう評価するか
- 第九章 「故郷」(魯迅/竹内好訳)
- 第1節 「故郷」の構成・構造―構造よみ
- 1 発端―「私」が故郷に降り立つ
- 2 山場と終結部の二つのクライマックス
- 第2節 「故郷」の形象・技法―形象よみ
- 1 導入部の形象
- (1)否定的ベクトルの冒頭と導入部を読む
- (2)「わびしい村々」そして弁証法的煩悶
- 2 展開部の形象
- (1)ルントウとの思い出が劇的に蘇る
- (2)ヤンおばさんとの出会い
- 3 山場の形象
- (1)ルントウとの三十年ぶりの再会
- (2)ホンルとシュイションの存在
- 4 終結部の形象
- (1)船上での「私」の「希望」
- (2)「私」の強い絶望=自己否定
- (3)「希望とは、もともとあるものともいえぬし、ないものともいえない。」を読む
- (4)「私」の弁証法的思考構造
- 第3節 「故郷」の吟味・評価―吟味よみ
- 1 人間と社会との関係ということ
- 2 宇佐美寛の「故郷」批判を吟味する
はじめに
―「深い学び」は深い教材研究なしには生まれない
教材研究を深めることで「深い学び」が生まれ「言葉による見方・考え方」が育つ
二○一七年・二〇一八年学習指導要領で「深い学び」が前面に位置づけられた。それと関わり「見方・考え方」が明記され、国語科では「言葉による見方・考え方」が示された。言語能力の向上も重視されている。
国語の授業で「深い学び」を展開し、「言葉による見方・考え方」を鍛え、言語能力を育てていくためには、教師の高い授業力が求められる。その際に、質の高い教材研究ができているかどうかが鍵となる。
しかし、これまで国語の授業は、この教材研究が不十分なままに展開されることが少なくなかった。表層の読みとり、指導書レベルの読みとりで授業に入っていた。だから、学びが浅くなり言語の能力も育たない。
本書は、「読むこと」分野の物語・小説の代表的な教材を八つ取り上げ、丁寧にそして深く研究を進めた。これまでの国語科教育の研究・実践の成果に学びつつも、同時にそれらを批判的にも検討し、質の高い読みを目指した。取り上げた教材は、「スイミー」(L=レオニ)、「お手紙」(A=ローベル)、「一つの花」(今西祐行)、「大造じいさんとガン」(椋鳩十)、「海の命」(立松和平)、「少年の日の思い出」(H・ヘッセ)、「字のない葉書」(向田邦子)、「故郷」(魯迅)である。いずれも複数の教科書に長年採られてきたものである。
小学校・中学校の先生方にとって、すぐに生かせるかたちで多様な観点から教材研究を行った。ここまで読めていれば、「言葉による見方・考え方」を生かしながら「深い学び」を実現することができる。
「言葉による見方・考え方」は国語科の高次の教科内容である
新学習指導要領の「言葉による見方・考え方」は、知識・技能といったレベルの教科内容を超えた言語による高次の認識の仕方・対象のとらえ方・考え方のことである。第一章では国語科の高次の教科内容を、それを育てるための指導過程とともに示した。そして第二章から八つの小中の物語・小説教材の研究を行った。
本書の教材研究では、数多くの「言葉による見方・考え方」を使っている。本書は「言葉による見方・考え方」を駆使して教材に向かえば、ここまで読むことができるということを証明したものであるとも言える。
たとえば、物語・小説のクライマックスに着目しながら、作品の全体構造を読みとる。導入部に着目し人物設定の意味を、全体構造と関連付けながら発見する。展開部・山場では、作品の大きな事件の枠組みを意識しながら、大切な事件の節目に着目する。着目したところでは、比喩・反復・倒置・体言止め・象徴などの技法(レトリック)の特徴を重視しながら読み深める。それらを総合しながら、作品の主題を多様に読みとる。また、作品を多面的に吟味・評価する。―などの「言葉による見方・考え方」を使っている。(その概要が第一章に書かれている。ただし、第一章を飛ばして第二章からお読みいただいても構わない。)
物語・小説を読むことは、楽しく心躍る過程である。右の「言葉による見方・考え方」を生かして読み深めていくと、これまで以上に楽しく新しい作品世界が見えてくる。優れた作品(教材)は、こちらのアプローチが豊かで鋭いと、その魅力を一層顕在化させてくれる。
本書では教材研究、教科内容としての「言葉による見方・考え方」、指導過程を提案している
国語科教育について考える時、私は五つの枠組みを用いる。「目的論」「内容論」「教材論」「指導過程論」「授業論」である。国語科では何を目指すのかを論じる「目的論」、身につけさせるべき国語の力を論じる「内容論」、そのための教材選択・教材研究のあり方を論じる「教材論」、それに基づきどういう手順で授業展開するかを論じる「指導過程論」、そして一時間の授業をどう構築するかを論じる「授業論」である。
本書の中心部分である第二章〜第九章では、そのうちの「教材研究」に特化して追究を行った。そして、第一章では、その前提となる教科の「内容(言葉による見方・考え方)」と「指導過程」について述べた。
私が提案している指導過程は次の三つである。それに沿って教科内容を提示し、教材研究を展開した。
1 物語・小説の構成・構造を読む指導過程―構造よみ
2 物語・小説の形象・技法を読む指導過程―形象よみ
3 物語・小説の吟味・評価をする指導過程―吟味よみ
まず全体の「構成・構造」を読む。次いでそれを生かしながら各部分の「形象」や形象相互の関係を読む。その際に様々な「技法」や、仕掛けに着目する。その延長線上で主題をつかむ。最後にそれらの読みを生かしながら「吟味・評価」を行う―という指導過程である。それらを通して子どもに「読む力」を身につけさせる。
それらの過程で、子どもたちは物語・小説を「読む方法」を学び、読む力を身につけていく。その「読む方法」が、国語科の高次の教科内容としての「言葉による見方・考え方」である。第二章〜第九章の教材研究は、それぞれ右の三つの指導過程に沿うかたちで提案した。
教材研究が、探究のイメージ―目標・ねらい、学習課題・発問・助言を導き出す
教材研究が深いからといって、直ちに国語の授業の質が上がるわけではない。しかし、教材研究が弱いために、せっかく手厚い指導の工夫をしても深い学びにつながらないことが多い。教材研究が深ければ、この授業で子どもたちにこういう探究をさせるというイメージが湧いてくる。すると、探究によってこういう国語の力(言葉による見方・考え方)を育てるという具体的な目標・ねらいが見えてくる。学習課題や発問・助言などの指導言も浮かび上がってくる。教材研究が、深い学びの授業を実現する大きな鍵を握る。
本書では丁寧に教材研究を示した。ただし、これらすべてをこのまま授業化するということではない。子どもたちの到達度に合わせて絞り込むことが必要である。その絞り込みのためにも深く豊かな教材研究が必要となる。特に「吟味よみ」については作品研究の領域に踏み込んだものもある。だから、それらをそのまま授業で取り上げなくてもよい。ただし意外なくらいこれに近い感想を子どもは出してくる。その際に教師の深い吟味が生きる。いずれにしても深い吟味的な読みができていることが、授業を豊かなものにする。
*
「はじめに」の最後に三つのことを申し上げたい。
1 本書と合わせて、本書の姉妹編である拙著『国語力をつける物語・小説の「読み」の授業』(明治図書)をご覧いただきたい。二冊を合わせてご覧いただくことで教材研究、教科内容がより立体的に見えてくる。そこでは「ごんぎつね」(新美南吉)と「走れメロス」(太宰治)の詳細な教材研究も提示している。
2 本書は、日本教育方法学会、全国大学国語教育学会などの学会や「読み」の授業研究会などの研究会での研究、全国の先生方との共同研究の成果を生かして書いた。内容についての責任はすべて阿部に帰するものだが、本書にはそういった全国の研究者・先生方との共同研究が反映されていることを知っていただきたい。
3 今回は各教材の先行研究・先行実践の引用・検討は必要最小限に留めた。頁数の制約、時間的制約による。そのことをご了承いただきたい。先行研究・先行実践の検討については、次の機会に丁寧に行いたい。
*
本書が、これまでの国語の授業を見直し、新しい授業のあり方を見出す糸口となることを願う。そして、それにより国語の授業ですべての子どもに確かで豊かな国語の力が保障されるようになっていくことを望む。
秋田大学 /阿部 昇
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- 明治図書
- 定番教材についての解説も、改めて勉強になる一冊です。2022/5/21iroirotomaton
- 3年になると共感できる内容が難しくなり山場の扱い方と読み取りのヒントになった。2020/4/2しいちゃん
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