- まえがき
- 本書の使い方
- こころ
- [作品研究]『こゝろ』の掛け橋/〈読み〉の革命―新しい作品論のために―
- [教材研究]「こころ」の教材研究
- [授業構想]「こころ」の授業構想
- 羅生門
- [作品研究]『羅生門』の〈読み〉の革命―〈近代小説〉の神髄を求めて―
- [教材研究]「羅生門」の教材研究
- [授業構想]「羅生門」の授業構想
- 舞姫
- [作品研究]『舞姫』の〈語り手〉「余」を相対化する〈機能としての語り手〉―二人の女性と識閾下の太田豊太郎―
- [教材研究]「舞姫」の教材研究
- [授業構想]「舞姫」の授業構想
- 山月記
- [作品研究]『山月記』再考―自閉の出口/批評の《入口》―
- [教材研究]「山月記」の教材研究
- [授業構想]「山月記」の授業構想
- 神様 2011
- [作品研究]川上弘美「神様 2011」が描き出すもの―「《神》の非在」と対峙する「わたし」―
- [教材研究]「神様」「神様 2011」の教材研究
- [授業構想]「神様 2011」(「神様」「神様 2011」)の授業構想
- 鏡
- [作品研究]村上春樹「鏡」における自己と恐怖―その克服への希望と危険性―
- [教材研究]「鏡」の教材研究
- [授業構想]「鏡」の授業構想
- 総論 第三項理論が拓く文学研究/文学教育
- 学問として〈近代小説〉を読むために
- 〈困った質問〉に向き合って―文学作品の「教材研究」の課題と前提―
- 第三項理論に基づいた授業の姿―問い続ける学習者を育てる―
- あとがきに代えて
- ―ゼノンの逆説を解放する〈近代小説〉の神髄―
まえがき
わたくしたちは、文学研究、とりわけ近代文学研究と国語科教育の実践/研究の停滞・混迷を超え、ポスト・ポストモダンの時代を拓いていくために本書を編みました。田中実氏の第三項理論による〈新しい作品論〉の提起を前提にした「教材研究」と「授業構想」によって、〈新しい作品論〉の提起を教育と研究の現場に開いていこうと考えました。第三項理論とは、〈主体〉と〈客体〉の二項による世界観認識ではなく、〈主体〉と〈主体が捉えた客体〉と了解不能の〈客体そのもの〉の三項による世界観認識のことです。この理論は、物語・小説の読書行為(「読むこと」の授業)の根拠と、〈近代小説〉と〈近代の物語文学〉の違い(それぞれの教材価値)についての決定的な提起として、展開していきます。
周知のように、小学校・中学校の次期学習指導要領が二〇一七年三月に、高等学校のものは二〇一八年三月に告示されました。次期学習指導要領では、各教科の目標の前提として「見方・考え方」が提示されています。「国語科」の「目標」は「言葉による見方・考え方を働かせ」と書き出され、このことは「対象と言葉、言葉と言葉との関係を、言葉の意味、働き、使い方等に着目して捉えたり問い直したりして、言葉への自覚を高めること」(文部科学省『解説』)であるとされています。ここで、まず注視しなければならないことは、「対象」が〈主体が捉えた客体〉であるにもかかわらず、〈客体そのもの〉の如く把握されてしまっていることです。こうした実体主義には初歩的な、そして根源的な誤謬が潜在しています。この事態は、「国語科」の始まりとともに前提とされてきた事態なのですが、今日まで看過され続けてきました。このことが、ときに正解到達主義の現れとなり、ときに正解到達主義批判の現れとなり、両者の混濁、エセ価値相対主義の現れの源泉になってきました。ナンデモアリという事態です。この二項論は「国語科」を停滞させ、腐敗させてきました。高校「国語科」の科目の再編成においても汎用的な「資質・能力」の育成が前面に出されていますが、事態は放置されています。こうした事態は文学研究にも及んでいます。「読むこと」の根拠と方法をめぐる混迷として、です。
第三項理論は〈客体そのもの〉の〈影〉としての〈本文〉の成立を課題にしています。次期学習指導要領はこれからの時代を「予測困難な時代」であるとし、こうした事態に応える「資質・能力」を「国語科」にも求めているのですが、そうであるならば、第三項理論によって拓かれる世界観認識を等閑視していていいのでしょうか。こう問いかけたいと思います。世界の同時存在(パラレルワールド)という事態にいかに向き合うのかが、今日の激しい《神》と《神》の闘いの時代において問われているからです。〈自己倒壊〉と〈主体〉の再構築が課題とされているからです。
本書の刊行が、第三項理論によって拓かれる〈読み〉の新たな地平との対話の呼び水となっていくことを願っています。学問としての文学研究/文学教育研究、「国語科」にはこうした問い直しが求められています。なお、本書は科学研究費の助成を得た研究(基盤研究(C)(一般)16K04711)の成果を基にしたものです。この研究は、田中実、難波博孝、齋藤知也、山中正樹、中村龍一、相沢毅彦、そして須貝千里の、七名を中心にして進められてきました。
/須貝 千里
-
- 明治図書
- 著者田中実の本を何冊か読み、共感はしていたが、実際授業でどうすれば良いのか難しいと思っていましたが、本書を読み、具体的イメージが湧きました。2021/8/2250代・高校教員
- 第三項理論とその実践との「架橋」についてより詳細な記述が必要だと思いました。2019/4/2750代・大学勤務