- まえがき
- 本書で参照している「UDLガイドライン」について
- 1 学びの“GOAL”を軸に授業と環境を変える
- 1 教室に「やる気のない子」はいるのか?
- 〜学びのユニバーサルデザイン(UDL)の枠組みで子どもの学びを捉える〜
- 2 学びの“バリア”を取り除く
- 3 UDLの3原則とガイドラインをもとにオプションをデザインする
- 4 オプションは“足場的支援の考え方”で設定する
- 5 エピソードから見る「バリア」を取り除く授業〜インプット編〜
- 6 エピソードから見る「バリア」を取り除く授業〜アウトプット編〜
- 7 “GOAL”は,なぜ大切なのか?〜UDLとGOAL〜
- 8 GOALってどんなもの?
- 9 エピソードから見る“学びの舵取り”と“GOAL”
- 10 実践!〜GOALとWHYを軸にUDLの授業をデザインする〜
- 2 主体性とやる気を引き出す!学びの“GOAL”づくり
- 1 GOALづくり「3つの視点」
- 2 「価値」を見出せるGOAL
- 3 視点1「興味をもてる」GOALをつくる
- 〜その1 興味をもてる工夫で価値が高まる〜
- 4 視点1「興味をもてる」GOALをつくる
- 〜その2 GOALにオプションを添える〜
- 5 視点1「興味をもてる」GOALをつくる
- 〜その3 テーマに選択肢を設ける〜
- 6 視点2「生活との結びつきを感じられる」GOALをつくる
- 7 視点3「もっとステップアップしたい」と思えるGOALをつくる
- 8 「自分の学びの姿をイメージできる」GOALをつくる
- 9 “I can 〜”でGOALをつくる
- 10 学習指導要領を読み解き,GOALをつくる
- 11 教師も子どもも「わかる」ようにGOALをつくる
- 12 「バリアのない」GOALをつくる
- 13 GOALに対する仮説をつくる時間を設ける
- 14 GOALをいつでも「アクセス可能」にする
- 15 GOALを「リマインド」する
- Column1 葛藤をどう受け止めるか
- 3 自ら“GOAL”に向かう子を育てる!環境づくり
- 1 環境づくりの重要性
- 〜もしGOALに興味がもてなかったら??〜
- 2 「試してみよう」と思った時に「試せる」環境をつくる
- 3 「自分に合ったインプット」ができる環境をつくる
- 4 「自分に合ったアウトプット」ができる環境をつくる
- 5 「ICTを活用できる」環境をつくる
- 6 「自分で学びをガイドできる」環境をつくる
- 〜その1〜
- 7 「自分で学びをガイドできる」環境をつくる
- 〜その2〜
- 8 「自分で学びをガイドできる」環境をつくる
- 〜その3〜
- 9 「すぐに相談できる」環境をつくる
- 10 「友達との学びを選択できる」環境をつくる
- 11 「協働的に学ぶことのよさを体感できる」環境をつくる
- 12 「自分の立ち位置」をモニタリングできる環境をつくる
- 13 「学びの舵取りをするのは自分」と感じられる環境をつくる
- 14 「学び方を試行錯誤できる」環境をつくる
- 15 「学びやすい空間」をつくる
- 16 「安心して学べる環境」をつくる
- Column2 仲間と一緒なら楽しめる
- 〜まずはおしゃべりから〜
- 4 “GOAL”に向かう子どもを支える!教師の“考え方・捉え方”
- 1 「オプションづくりのスタート地点」を考える
- 2 「うまくいかない」時は「まだバリアがある」と捉える
- 3 「教室で変えられるもの・変えられないもの」を考える
- 4 「よい学び方の答え」は「子どもの中にある」と考える
- 〜その1〜
- 5 「よい学び方の答え」は「子どもの中にある」と考える
- 〜その2〜
- 6 「子どもからの提案」を歓迎する
- 7 「安心して学べているか」を気にかける
- 8 「甘えになってしまっていないか?」と感じる時は
- 9 「うまくいかないなあ」と感じた時がチャンスと考えてみる
- 10 「子どもの学習者としての成長」を楽しむ
- Column3 私たちにできること
- 5 “GOAL”への道のりを共にたどる!教師の伴走
- 1 教師の関わりで学びの舵取りをサポートする
- 2 「学びの全体像」を見せる声がけをする
- 3 「GOALまでの道のり」を一緒に歩いてみる
- 4 「あの時はどうしたんだっけ?」と聞いてみる
- 5 「どんなものがあれば学べそう?」と聞いてみる
- 6 「その子の興味のあることとGOAL」を結びつける
- 7 GOALやルーブリックをもとにフィードバックをする
- 8 「学びについてのおしゃべり」をする
- 9 教室全体を「試す場」にしていく
- 10 教師による伴走から子ども自身の学びの舵取りへ
- あとがき
- 参考文献
まえがき
学びたいという子どもたちの願い
私はある年,小学校5年生のAさんという子どもと出会いました。Aさんは,私と出会ってすぐ,日記に「今年は頑張れそうです。たくさん勉強したいので,これからもよろしくお願いします」と書いてくれました。
しかし,しばらくするとAさんは,授業の中で学習に取り組むことが難しくなってきました。おしゃべりは止まらず,隣の子にちょっかいをかけたり,友達のノートに落書きをすることもありました。私に注意され,それに対して大声を上げることもありました。
私は今でも後悔しています。「これからたくさん勉強したい」というAさんの願いを,十分に叶えてあげられなかったと感じてきたからです。「学びに向かいたいと願いながら学べない子どもたち」のために授業をどのように変えていけばよいのか……,これが私にとって,長い間の大きな問いになりました。
UDL(学びのユニバーサルデザイン)との出会い
大きな転機になったのが,本書のテーマであるUDLとの出会い,そして学習のGOALについての実践研究の機会をいただいたことでした。
UDLは,アメリカのCAST(The Center for Applied Special Technology)が提唱した,障害の有無にかかわらず,全ての学習者の学びを支えるための枠組みです。UDLでは,学習者が学習につまずいた際,障害は学習者の側ではなく,カリキュラム(教材,教具,GOAL,評価,方法)の側にあると捉え,授業をデザインしていきます。
UDLを実践するようになってから,「これまで学ぶことが難しかった子が学べるようになった」という経験を数多くしてきました。そして,Aさんのような「学びたいという思いをもつ子どもたち」が学べなかったのは,やはり「こちらが用意する環境」にあったのだと強く感じるようになりました。私の授業観や子どもを捉える目,実践は大きく変わってきました。
UDLは「学習者の学びの舵取りの力を育てる」という点で,現在求められている,「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」「学びの自己調整」などの概念とも親和性の高い考え方です。
本書のテーマ“GOAL”
そして私は,北海道教育大学教職大学院において,UDLについてさらに実践研究を進めました。実践研究を進める中で,より多くの子が主体的に学ぶためには,学習のGOALが大切だということがより鮮明になってきました。
そのような中,本書の執筆の機会をいただきました。UDL,そしてGOALを中心のテーマに据え,「主体的な学習者が育つ環境づくり」について,皆さんと一緒に考えていけるよう記しました。
本書をお読みいただく前に
本書に書かれた内容は,「これをすれば全てがその通りになる」というものではありません。UDLの授業,GOALについて,私も試行錯誤の道半ばです。
ただ,これまでの「実践」。さまざまな方に伴走していただきながら「試行錯誤してきたこと」。その中で変化してきた「考え方」や,「明らかになってきたこと」などを,「子どものエピソード」を大切にしながら,テーマごとに整理したつもりです。UDLの実践をしていく上で最も重要なのは,「共に実践していく仲間」だと私は思っています。この本を手に取ってくださった皆さんが実践をしていく上で,「あれ? こういう時ってどうすればいいのかな?」「本当にこれで大丈夫かな?」など,疑問や不安を抱えた時にふっと開ける,そんな仲間の一人として,この本を迎えていただければと思います。そして本書が,子どもたちと「学ぶことができた」と共に喜び合える日々を願う皆さんの,少しでもお役に立てたら幸いです。
/原 隼希
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- 明治図書