- はじめに
- 1章 「うまくいかない」を変える、「心のてんびん」とその仕組み
- 心は「算数」でできている?
- 心の動きを「てんびん」で見てみよう
- 心の流れを導く、「坂道」のつくり方
- Column 先生だって、「てんびん」に揺れる1人の人間
- 2章 心を動かす「傾き」をデザインする
- なぜ、私たちは「つい、買ってしまう」のか?
- その子が動くのは、どの「スイッチ」?
- Column 4つの法則、どれから使いますか?
- 3章 その「困った行動」にも、隠された「理由」がある
- その「困った行動」、本当に「マイナス」だけですか?
- 「困った行動」は心を守る「盾」?
- 昨日の「ご褒美」が、今日の「罰」になっていませんか?
- 「今の感情」と「未来の幸せ」、どちらを優先する?
- Column その「色メガネ」をそっと外してみませんか?
- 4章 「成長のてんびん」をデザインする
- 子どもが育つ「土壌」を耕す
- 「成長」を軸にした4つの行動指針
- Column 「雪の下」で、キャベツは甘くなる
- 5章 「環境」と「関わり」で、子どもの「やってみたい」を引き出す
- 叱責が減り、笑顔が増える「教室環境」の工夫
- 子どもが輝く、「水や光」の上手な与え方
- Column 最高の支援とは「補助輪」を外してあげること
- 6章 「問題行動」を「成長の機会」へと変えていく
- 「指導」から、温かい「支援」へと変えていくために
- 「静の指導」:声を出さずに、行動をやめさせる
- 「動の指導」:言葉で、子どもの選択を促す
- 「指導」と「承認」は、必ずワンセットで
- 事例1:ノートがなかなか書けないKくん
- 事例2:朝の準備ができないYちゃん
- 事例3:対話をしようとしても、反抗するMくん
- 事例4:告げ口がやめられないSさん
- 事例5:思い通りにならないと、物を投げるAくん
- Column 「悪い子」ではなく「心のクセ」
- 7章 チームで「安心のてんびん」を傾ける
- 「安心」というおもりの存在
- 安心のてんびんを、「担任」に傾ける
- ケーススタディ@:チームで育む、信頼の譲り渡し
- ケーススタディA:対話へと導く「待ち」の姿勢
- ケーススタディB:保護者との連携
- ケーススタディC:「成長の2択」で信頼を手渡す
- ケーススタディD:不登校という、複雑なてんびん
- おわりに
はじめに
「どうすれば、この子の心に言葉が届くのだろう?」
困りを抱えている子どもたちと接する中で、私は何度もこの壁にぶつかってきました。「この子が自信をもって一歩を踏み出せるように」と願って優しく、真剣に語りかけます。しかし、その思いは子どもたちの心に響かず、返事はありません。時には「うるさい!」と拒絶されてしまうこともあります。
「このまま放っておくことはできない…でも、無理やりその子を変えたくはない…」
このようなジレンマの中で、どうすればいいか途方に暮れてしまう。そんな経験は皆さんにもありませんか?
力ずくで変えるのではなく、その子が「やってみたい」「変わりたい」と自然に思えるような温かい支援はできないだろうか?
この問いに対する答えを、私はずっと探し続けていました。その暗闇に一筋の光を投げかけてくれたのが、臨床心理士である奥田健次氏の名著、『メリットの法則 行動分析学・実践編』(集英社新書)との出会いでした。その中でも特に私に衝撃を与えたのが、人の心を「てんびん」の傾きで表現した、1枚のイラストだったのです。
(図省略)
このイラストを見た瞬間、これまでバラバラだった知識や経験が、1本の線でつながる感覚を覚えたのです。
ああ、そうか。
子どもたちは皆、心の中に自分だけのてんびんを持っているんだ。そして、そのてんびんが自分にとって少しでも「良い方」に傾くように行動をしていたんだ。
これまで「なぜ?」としか思えなかった子どもたちの不可解な行動が、全て意味のある、その子なりに合理的な選択に見えてきました。この「てんびん」という視点は、複雑な子どもたちの心を理解するための、確かな「道しるべ」になると直感したのです。
その直感をもとに、日々の実践の中で試行錯誤を重ねながら、私なりに「てんびん」の見方を整理し、体系化したものが、本書でご紹介する3つの視点(てんびん)です。
まず1つ目は、子どもの日々の行動を理解するための、最も基本的な「感情のてんびん」です。この視点をもつことで、これまでただ「困った子」に見えていた行動の裏側にある、その子なりの切実な理由が見えてくるはずです。
しかし、私たちの支援は、ただ子どもの心を「分析」するだけでは終わりません。その子が自ら「やってみたい」と歩み出せるような心の環境を「整える(デザインする)」ための支援をしていく必要があります。そのための視点が、2つ目の「成長のてんびん」なのです。
これは、その子を成長へと導いていけるように、私たちが環境を整えるための大切な視点となります。
そして、時には、損得だけでは説明できない、より複雑な問題に直面します。困り感を抱えている子の心の奥底には「ここは、安心できる場所?」「この人は、本当に私の味方?」という不安が渦巻いていることがあるのです。この、心の土台となる部分に向き合う際に大切になってくるのが、3つ目の「安心のてんびん」という視点です。
もちろん、この本に書かれていることが、全ての子どもに当てはまるわけではありません。しかし、子どもとの関わりの中で「なぜだろう?」と壁にぶつかった時、その子の心をもう一度理解してみようと立ち返るための、1つの「きっかけ」にはなるはずです。
この本でお渡しするのは、子どもの心を見るための、新しい「てんびん」という名のメガネです。このメガネをかけることで、これまで見えなかったものが見えてきます。
なぜ、やらないのか?
なぜ、騒ぐのか?
なぜ、動けないのか…?
それらの行動の裏に隠された、その子なりの切実な理由が、少しずつ、しかしはっきりと、浮かび上がってくるはずです。そして、不思議なことに、子どもの行動の「理由」がわかると、私たち自身の心も、ふっと軽くなるのです。これまで「どうしてわかってくれないの?」と感じていた焦りや不安が、「そうか、そんな気持ちだったのか」という、温かい眼差しへと変わっていく。その、私たち自身の心の変化こそが、何よりも大切なのかもしれません。その変化が、子どもたちとの関係を、より豊かで、穏やかなものにしてくれる、何よりの力となるはずです。
この本を読み終えた後、皆さんの子どもたちを見つめる目が、ほんの少しでも温かいものになるのなら、著者として、これ以上の喜びはありません。この本が、かつての私のように、子どもとの関わり方に悩み、試行錯誤している先生方や保護者の皆さんにとって、確かな「道しるべ」となることを願っています。
さあ、一緒に「てんびん」を巡る、心の探求の旅に出かけましょう。
/古田 直之
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明治図書

















