- 1章 「特別の教科 道徳」の授業&評価のポイント
- 「特別の教科 道徳」の評価の考え方
- 1 新学習指導要領が目指す道徳評価の姿
- 2 今までとこれからの道徳評価の違い
- 3 指導要録への記載と通知表での示し方
- 道徳教育評価と道徳授業評価
- 1 学校全体で行う道徳教育と1時間の道徳授業
- 2 年間を通した道徳授業での評価
- 3 1時間の道徳授業での評価
- 4 評価規準・評価観点作成のポイント
- 道徳授業の評価の方法とポイント
- 1 作文の活用とポイント
- 2 ノートやワークシートの活用とポイント
- 3 質問紙(アンケートなど)の活用とポイント
- 4 発言や行動の観察とポイント
- 5 面接法とポイント
- 評価を生かした道徳授業づくりのポイント
- 1 授業改善につなげる評価
- 2 子どもの発言やノートをもとにした授業の評価と改善
- 3 子どものアンケートによる授業の評価と改善
- 2章 「特別の教科 道徳」の授業&評価ガイド
- 低学年の授業&評価ガイド
- 1 「かぼちゃのつる」の授業&評価ガイド(Aの視点)
- 2 「どうぞのいす」の授業&評価ガイド(Bの視点)
- 3 「黄色いベンチ」の授業&評価ガイド(Cの視点)
- 4 「ハムスターの赤ちゃん」の授業&評価ガイド(Dの視点)
- 中学年の授業&評価ガイド
- 1 「まどガラスと魚」の授業&評価ガイド(Aの視点)
- 2 「心と心のあく手」の授業&評価ガイド(Bの視点)
- 3 「雨のバス停留所で」の授業&評価ガイド(Cの視点)
- 4 「ヒキガエルとロバ」の授業&評価ガイド(Dの視点)
- 高学年の授業&評価ガイド
- 1 「手品師」の授業&評価ガイド(Aの視点)
- 2 「ロレンゾの友達」の授業&評価ガイド(Bの視点)
- 3 「マイルール」の授業&評価ガイド(Cの視点)
- 4 「一ふみ十年」の授業&評価ガイド(Dの視点)
- 中学校の授業&評価ガイド
- 1 「負けない!クルム伊達公子」の授業&評価ガイド(Aの視点)
- 2 「アイツとセントバレンタインデー」の授業&評価ガイド(Bの視点)
- 3 「選手に選ばれて」の授業&評価ガイド(Cの視点)
- 4 「明日もまた生きていこう」の授業&評価ガイド(Dの視点)
- 3章 「特別の教科 道徳」の通知表の記入文例集
- 記述式評価で何を書くのか
- 1 評価は子どもの満足を支持するメッセージ
- 道徳教育の評価と道徳授業の評価の書き分け方
- 1 評価は子どもと教師の感動の共鳴
- 道徳の通知表記入文例集
- 1 低学年の文例集
- 2 中学年の文例集
- 3 高学年の文例集
- 4 中学校の文例集
- 文例記入のQ&A
- 1 肯定的な内容だけでなく,伸ばしたいことも書くべきでしょうか?
- 2 書くことが思い浮かばない子どもがいるのですが,どうすればよいでしょうか?
- 3 毎学期,同じような評価になってしまうのですが,違いをどう出せばよいでしょうか?
- 4 保護者から記入に対する質問がありましたが,どう答えればよいでしょうか?
- 5 特別なニーズをもつ子どもには,どのような記入をすればよいでしょうか?
- 6 人権の問題で使ってはいけない言葉などはありますか?
はじめに
平成27年3月27日,小・中学校学習指導要領が一部改正されて「道徳の時間」が「特別の教科 道徳」,つまり「道徳科」になった。この道徳教育・道徳授業改革は,果たしてどのよう意味をもつものなのであろうか。こと道徳授業に限定していうなら,教科外教育から教科教育への「格上げ」? それとも,学校の教育課程における一領域を成していた「道徳の時間」から教科教育へ組み込まれたのであるから実質的な「格下げ」? どう判断するのであろうか。
いうまでもなく,学校教育全体を通じて行う道徳教育やその道徳教育を束ねる「要の時間」としての道徳授業は,それを指導する教師のためにあるのではなく,あくまでも,自らの人生の在り方を考え,よりよく生きようとする子どもたちのためにあるわけである。つまり,道徳授業を通してこれからの時代を生きる子どもたちに道徳的諸価値についてただ理解させるだけでなく,その価値理解の先にある子ども一人一人の資質・能力をどう育んでいくのか,その点を問われるのが21世紀型道徳授業と考える次第である。
平成27年8月26日,中央教育審議会教育課程企画特別部会が平成28年度中に予定されている次期学習指導要領改訂の基底となる「社会に開かれた教育課程」と称される「論点整理」を公表した。そこで提起されているのは「新しい時代と社会に開かれた教育課程」という考え方である。つまり,21世紀型学力観の提唱である。これからの時代を生きる子どもたちに求められるのは,「何を学ぶか」→「どのように学ぶか」→「何ができるか」というアクティブ・ラーニング(主体的・能動的。協働的な学び)の考え方に立った資質・能力育成観である。そこでは,ただ「何を知っているか,何ができるか」(基礎力)だけに留まらず,「知っていること・できることをどう使うか」(思考力),さらに「どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか」(実践力)という各学校レベルでの子どもたちの資質・能力形成に向けたカリキュラム・デザインが求められることとなるのである。そのようなカリキュラム・デザインと対になって,表裏一体のものとして問われるのが「特別の教科 道徳」つまり,道徳科授業評価の進め方である。
他の教科教育とは異なる子ども一人一人の内面に迫る道徳科授業評価をどう進めていくのかと問うとき,これまで授業評価をあまり意識した指導がなされてこなかった現実を踏まえなければならない。道徳が教科になることで授業がどう変わり,どう子どもたちの資質・能力の育みを具体的に見取っていかなければならないのかという各学校の道徳授業マネジメントの問い直しが課題として与えられたと理解すべきであろう。しかし,それは改めて最初から取り組むような大きな問題ではない。これまで個々の子どもの道徳的成長を願って取り組んできた従前の道徳教育・道徳授業を前提にしつつ,その肯定的な道徳性評価の在り方を可視化して子どもたちに伝え,より一層の道徳的成長を昂揚するような評価にすればよいとするのが基本的な立場である。本書で綴られる道徳評価実践のコンセプトはここにある。
/田沼 茂紀
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