- はじめに―教壇を去る教師たち―
- 第1章 悩んでいるのはあなただけじゃない
- @ 誰にでも起こり得る「辞めたい」という状況
- A 困難度が増している、学校現場
- B 教師だから起こり得る「ストレス環境」
- C 「辞めたい」と思うのは「弱い」からではない
- D 「柔軟な心」と「しんどさを共有できる職場」を
- 第2章 教師はどんなときに「辞めたい」と思うのか
- @ 教師が陥りやすい状況とは
- A リアリティショックに悩む新任教師
- B 仕事の重責から追いつめられる中堅教師
- C 子どもとの心理的距離が開いたと感じるベテラン教師の揺らぎ
- D 教師に「辞めたい」と思わせるもの
- 1 生徒指導の失敗から自信を失う
- [事例]問題のある生徒に端を発した学級の揺らぎから自信を失う
- 2 自分の学習指導力が不足していると感じる
- [事例]生徒の学力が上がらず、自分の指導力が低いと感じはじめる
- 3 学期スタートの失敗が後を引く
- [事例]学期はじめのつまずきから、生徒対応が怖くなっていく
- 4 自身のプライドが傷つけられたと感じる
- [事例]同僚に言われた何気ないひと言で傷つく
- 5 役職としての責務が負担となる
- [事例]学年主任の仕事が、知らず知らずのうちに重荷に
- 6 保護者とのトラブルがストレスとなる
- [事例]保護者からのクレームで、心身ともに疲れ果てた状態に
- 7 職場環境に戸惑いや閉塞感を感じる
- [事例]職場での疎外感から、ストレスが内に溜まっていく
- 8 上からのプレッシャーが大きな負担となる
- [事例]管理職からの嫌がらせに耐えられなくなる
- 第3章 「辞めたい」状況から抜け出るには
- @ 抜け出るための具体的な方策は
- A 教師を、「辞めたい」気持ちに追いつめるもの
- B 「辞めたい」状況から抜け出るための具体的な方策は
- 1 「自分のせい」だと過度に思い込まない
- [事例]弱音を吐くことが、危機を乗り越える第一歩
- 2 自分の状況を、もう一度俯瞰的な視点で見てみる
- [事例]今の自分を見直し、他の先生から協力を得られることを探す
- 3 「自分への期待」を現実的なレベルのものにする
- [事例]今できることを少しずつ上げていくことが状況の打開に
- 4 「すべてがうまくいくわけではない」という割り切りも大事
- [事例]先輩からのアドバイスで、発想を切り替えることが心を軽くする
- 5 学び合う場をもつことで、新たな視点に気づく
- [事例]家族の支えと、研究会での他校の先生たちとのつながりが立ち直りのきっかけに
- 6 取り組み方を変えることで、状況を好転させる
- [事例]一人で抱え込まず、問題を手放すことが大切
- 7 「移る」「休む」「辞める」という選択肢もある
- [事例]一度離れたことで見えてきた、教師として生きていく道
- 第4章 「辞めたい」と思う状況になる前に
- ―日頃の教師生活から気をつけておきたいポイント―
- @ 自分主体で仕事ができる職場環境づくり
- A 「悪い状況」を想定しておくことの大切さ
- B バーンアウトの危険度を知っておく
- C 教師を孤立させない職場環境づくり
- D 職場を「しんどさを共有できる居場所」にする
- おわりに
はじめに
―教壇を去る教師たち―
最近、新聞や雑誌で、「学校が危ない」「燃え尽きる教師たち」「先生が辞めていく」など、学校危機や教師の心の変調に関する記事が、以前にも増して目につくようになりました。実際、定年を待たずに辞めていく教師も少なくありません。しかし、教壇を去る無念さとともに、「むしろ、辞めることができてホッとしている」と、安堵の気持ちが語られることもあります。また、熱心に頑張っている現職の教師から、「自分の子どもに、教師という仕事を勧める気はない」と言われ、意外な思いにとらわれたこともあります。
いじめ・不登校・暴力・児童虐待・ネット犯罪・性非行・薬物乱用・自殺など、子どもの問題行動の多様化・深刻化に伴い、教師を取り巻く状況は、ますます困難なものとなっています。行政サイドからの管理強化や成果主義の導入、教師バッシングともいえるマスコミの圧力、保護者・地域からの過大な要求などの存在も、困難の度合いを一層強める要因となっているのではないでしょうか。多岐にわたる子どもの問題や各方面からの要請に対して、すべてに妥当する答えなど見いだせぬまま、しかし何らかの具体的応答をそれぞれに向けて発しなければならないという綱渡りのなかで、日々の教育活動を続けているというのが学校現場の実情です。
「雑務に忙殺され、子どもとじっくり向き合う時間がとれない」「年齢構成の偏りが大きく、生徒指導での共通理解が図れない」「価値観が急激に変化するなかで、子どもや保護者にうまく話が通じない」等々の声は、至るところから聞こえてきます。教育が大きく揺れるなかで、若手も、中堅も、ベテランも、多くの教師が疲れ果てているのは大きな問題です。
教師にとっての職場である学校が、仕事に託する意味や希望から遠く隔たり、互いの夢を語る場でなくなったときに、「教師を辞めたい」という気持ちが起こってくるのではないでしょうか。残念ながら、夢や希望を語り合うことが難しい危機的状況に陥っている学校は、少なくないように思われます。
今日の学校現場にあって、多くの教師たちが、自分の夢と現実との間にどのような違和感を抱いているのか、「辞めたい」と思うまでに追いつめられるのはどうしてなのか、また、そのような危機をどのようにして乗り越えていくことができるのか、ということについて、教師自身の語り(事例)をもとに明らかにしていくことが、本書のめざすところです。
教師や教育関係者、教職を志す学生は勿論のこと、保護者をはじめ、教育に関心をもつ多くの方々にお読みいただき、学校現場で苦悩する教師が、一人でも多く元気に働ける状況をつくり出すために、本書が役立てられることを願っています。
/新井 肇
辞めようか未だに悩んでいますが、自分だけが悩んでたことじゃないと知れて良かったです。
悩める若手、悩める同僚達の「悩み」を構造的に分解し、組織としてのフォローの在り方を熟考させられました。
そのための視点が示唆されているからです。