- はじめに
- 第1章 知的障害・発達障害のある子への自立活動の教材作成ポイント
- 01 国語・算数のつまずきと自立活動
- 02 認知特性から学習上の困難さを考える
- 03 自立活動の視点による教材作成のポイント
- 第2章 知的障害・発達障害のある子への自立活動の指導アイデア
- 語彙を獲得すること
- 01 具体物のマッチング〜物の名前を知ろう〜
- 02 絵カードのマッチング〜物の名前を知ろう〜
- 03 絵と具体物のマッチング〜物の名前を知ろう〜
- 04 物と色の名前マトリクス
- 05 時間や場所,人を表す言葉
- 06 用途を表す言葉〜○○のとき使うもの〜
- 聞くこと・話すこと
- 07 ○○はどこ?ポインティングブック
- 08 2つの情報をよく聞いて選ぼう
- 09 似た音をよく聞こう
- 10 ことばビンゴ
- 11 お話を聞いて登場人物を動かそう
- 12 よく聞いて順番に線でむすぼう
- 13 口形・発声模倣のまねっこあそび
- 14 フーフー玉転がし
- 15 「50音表」を使って話そう
- 16 形の名前を使って伝えよう
- 読むこと
- 17 平仮名文字カードのマッチング
- 18 平仮名2,3文字の単語づくり
- 19 ○から始まることば探し
- 20 文字付き洗濯ばさみで単語づくり
- 21 文字の数だけ○を押さえよう
- 22 文字さいころで3文字単語づくり
- 23 単語さがし
- 24 動物さがし
- 25 絵カードしりとり遊び
- 26 文字とりゲーム
- 27 逆さことばづくり
- 書くこと
- 28 立体線なぞり
- 29 凸凹線で指なぞり
- 30 クリップすくい迷路
- 31 両手で線なぞり
- 32 穴の位置をよく見て合わせる型はめ
- 33 カラーマス〜位置をよく見て書こう〜
- 34 よく似たカタカナ文字を見比べよう
- 35 よく似た平仮名文字を見比べよう
- 36 特殊音節の絵単語カード
- 37 4色いろあわせ
- 見ること・イメージすること
- 38 隠れたものを探そう
- 39 形の違いを見分けて入れよう
- 40 木製スティックパズル
- 41 色シールで絵を描こう
- 42 魚みつけ〜図と地の弁別〜
- 43 よく見て印をつけよう
- 44 キャップはめ一対一対応
- 45 木製ピンチの一対一対応&カウント
- 46 半分にしてみよう
- 47 回転させて形を合わせよう
- 48 順番に形を並べよう
- 49 矢印にそって進もう
- 記憶すること・推論すること
- 50 数えるブック〜指示されたものを数えよう〜
- 51 さいころの目と数字のマッチング
- 52 多感覚カウンティング
- 53 10以上の数の点つなぎ
- 54 数字タッチ
- 55 穴埋め順序数
- 56 まとめ数え
- 57 順番に紐通し
- 58 足して5にするペアゲーム
- 59 この数,どのあたり?〜基数性の理解〜
- 60 いくつシールがはれるかな?
- 61 文章題を絵にしてみよう
- 62 カレンダーの記録から読み取ろう
- 資料
- おわりに
- 参考文献
はじめに
本書の目的は,知的障害や発達障害のある子どもが国語や算数で直面する困難やつまずきを改善・克服するための「自立活動」の教材や指導のアイデアを提供することである。
自立活動の目標は,「個々の児童又は生徒が自立を目指し,障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識,技能,態度及び習慣を養い,もって心身の調和的発達の基盤を培う」こととされている。「生活上の困難さ」に対する自立活動は,活動への見通しをもつこと,コミュニケーションスキルを伸ばすことなど,比較的,指導をイメージしやすい。一方,「学習上の困難さ」に対する自立活動はどうだろうか。教科学習のつまずきに対しては,教科学習の中で解決を試みることが多く,自立活動との関連が曖昧になりがちである。特に,知的障害のある子どもを対象とした各教科は,未分化な内容も含まれるため,自立活動と重複し,指導が不明瞭になることが課題である。
自立活動は「自立活動の時間における指導」を中心に,教育活動全体を通じて行われるものであり,各教科における資質・能力を支える基盤として重要な役割を担っている。そのため,教科学習にも自立活動の視点を取り入れ,子どもの実態を多面的に捉えながら指導することが求められる。こうした指導により,学びやすさが向上し,子どもたちの心身の調和的発達が促進されることが期待される。
本書では,学習上の困難やつまずきの背景要因を「認知」の側面から捉えている。認知とは,知識を得る働きであり,目や耳などの感覚器官を通じて外部からの刺激を入力し,脳内で情報処理し,出力・表現する過程である。この一連の過程で行われる「見る」「聞く」「記憶する」「話す」「書く」などの活動はすべての教科学習の基盤となるもので,自立活動の指導内容とも深く関わっている。自立活動は子ども一人一人の実態に基づいたオーダーメイドの指導であり,つまずきに影響する認知機能や学び方の特性を把握することが,自立活動の指導の質を高める鍵となる。そこで本書では,62例の自立活動の教材と指導アイデアを,国語や算数の基盤となる「語彙の獲得」「聞く・話す」「読む」「書く」「見る・イメージする」「記憶する・推論する」の6項目に整理している。また,教科学習を支える自立活動の役割として,次の2つの視点を提案している。
1つ目は「つまずきを小さくする」役割である。教科学習の困難やつまずきの背景にある認知機能を改善・向上させることを目的とし,主に「自立活動の時間における指導」で行うものである。
2つ目は「つまずきを補う」役割である。子どもの得意な学び方を把握し,それを課題解決の手立てとして活用する。この取組により,子どもが「これならできる」と自信をもてるようにすることを目指し,主に教科学習(各教科と関連付けた指導)の中で行うものである。
例えば,「話すこと」の困難に着目した場合,発音の不明瞭さが背景にあるなら,発声や口形を模倣して発音できる言葉を増やす指導は「つまずきを小さくする」取組である。一方,絵カードなど視覚的な手掛かりを活用して意思を伝える指導は「つまずきを補う」取組に該当する。これらの指導は相互に関連付けて行うことで,より効果的になる。
本書を通じて,国語・算数の学習上の困難を自立活動の視点で捉えることの重要性が伝わり,自立活動の指導レパートリーを広げる一助となることを願っている。
著者 /滝澤 健
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- 明治図書