- はじめに
- 本書の使い方
- Part1 脳を育てるコーディネーション運動とは
- 1 脳の発達の3段階
- 2 脳の実行機能
- 3 実行機能は自分をコントロールする機能
- 4 脳の報酬系
- 5 子どもの報酬系
- 6 ネガティブ制御
- Part2 歩く動作・走る動作を取り入れたコーディネーション運動10
- 歩く動作・走る動作を取り入れたコーディネーション運動のポイント
- 1 動きクイズ
- 2 ワッショイ・ぐるぐる
- 3 ミックスジュース
- 4 ラインフェイク
- 5 ふたりオニ
- 6 カウントダウンオニ
- 7 Let’s goフープ
- 8 3人守りオニ
- 9 突然オオカミ
- 10 いろいろボール送り
- Part3 跳ぶ動作を取り入れたコーディネーション運動10
- 跳ぶ動作を取り入れたコーディネーション運動のポイント
- 1 飛び石ダンス
- 2 スキップモグラオニ
- 3 飛ぶかくぐるかフープ
- 4 忍者の修行・動物に変身
- 5 忍者の修行・手裏剣をよける術
- 6 忍者の修行・煙玉の術
- 7 ジャンプジャンプジャンプ
- 8 いぇいいぇいジャンプ
- 9 ゴールまで何歩?
- 10 さるとバナナ
- Part4 投げる動作・捕る動作を取り入れたコーディネーション運動10
- 投げる動作・捕る動作を取り入れたコーディネーション運動のポイント
- 1 空気タッチ
- 2 フリスビードッジ
- 3 リアクションボール
- 4 ボール投げリレー
- 5 エアーボール合戦
- 6 ぎりぎりスロー
- 7 ボールスローイン
- 8 ケンケンスロー
- 9 フープ通し1・2・3
- 10 ボンバーゲーム
- Part5 全身を使った動きを取り入れたコーディネーション運動10
- 全身を使った動きを取り入れたコーディネーション運動のポイント
- 1 ぐるぐるジャンケン
- 2 スネークラン
- 3 イモムシオニ
- 4 座ってジェスチャー
- 5 ボールで花火
- 6 動物ものまね
- 7 ポーズでストップ
- 8 まねっこオノマトペ
- 9 忍者の修行・移動の術
- 10 忍者の修行・木に変身
- Part6 用具・道具を使った遊びを取り入れたコーディネーション運動10
- 用具・道具を使った遊びを取り入れたコーディネーション運動のポイント
- 1 ジャンケンカード
- 2 メモリーブロック
- 3 選択あちこちボール
- 4 バウンド何回
- 5 フープジャングルジム
- 6 コーン倒しドッジ
- 7 お手玉バランス
- 8 ドリブルキャッチ
- 9 変身フープくぐり
- 10 スルスルロープ
- Part7 運動会でできるコーディネーション運動10
- 運動会でできるコーディネーション運動のポイント
- 1 ボーン人形
- 2 選んでまねっこ
- 3 ポーズでまねっこ
- 4 ペアでまねっこ
- 5 バリアンリレー
- 6 パパまて〜
- 7 いろいろポーズでダンス
- 8 コーン移動リレー
- 9 みんなでおっとっと競争
- 10 フープで移動競争
- Part8 英語を取り入れたコーディネーション運動10
- 英語を取り入れたコーディネーション運動のポイント
- 1 Yes No ジャンプ
- 2 CAT体操
- 3 なりきりインタビュー
- 4 色探し
- 5 形探し
- 6 サークルジャンプ
- 7 サークルボール送り
- 8 勝ち負けジャンケン
- 9 アクションジャンケン
- 10 ぎりぎりストップ
- 参考文献
はじめに
子どもにとっての運動とは?
私たちは,子どもたちとの関わり合いを通じて,運動とは「生きること」そのものではないかと感じています。「生きるために」運動をしているともいえるのではないでしょうか。たとえば生まれてすぐに,「オギャー」と泣くことから,寝ながら目で動くものを追うこと,そして寝返り・ハイハイなどすべて運動です。しかも,本能としてもって生まれてきます。つまり運動には,「生きるために」必要な様々な「タネ」が埋まっているのではないかと思っています。特に子どもにとっての運動は,決められたことを一斉にすることよりも,生活の中で自然に出てくる動きが大切ではないかと考えています。
具体的には,保育者が乳児を抱き,ほどよく揺らしながらあやすことは,実は5つのコーディネーション能力から見ると,バランス能力やリズム能力を高めることにつながっています。あるいは,お散歩のとき,ときどきつなぐ手を変えたり,相手を変えたりすることは触覚を通じてそれぞれの認知能力や操作能力を刺激しています。「いないいないばぁ」は,反応能力を刺激することになります。そして私たちのからだは,「使うと伸びて,使わないと退く」というルーの法則で支えられています。
一方,「幼児期運動指針」(文部科学省,2012)では,幼児期における運動の実践は,心身の発育に極めて重要であるにもかかわらず,十分に体を動かす機会に恵まれているとはいえない現状があると指摘されています。幼児期運動指針が提示され10年以上経過して,子どもたちの様子や環境はいかがでしょうか? 私は「子ども主体の保育」が,「保育所保育指針解説」(厚生労働省,2018)に明記されたことの影響もあり,大きく変化したと感じています。たとえば,どんな遊びをするか決めるのは子どもたち自身。保育士は子どもたちの意思を尊重し,子どもたちの遊びが深まるように見守りサポートします。これまでのみんなが一斉に同じことをするような保育から,子どもが興味をもって遊んでいるときに豊かな学び・育ちがあるという考え方に変わってきています。
動くから楽しい!
「悲しいから泣くのではなく,泣くから悲しい。楽しいから動くのではなく,動くから楽しい!」というジェームズ・ランゲ説があります。シンプルにいうと動くという体の反応があってから,楽しいという感情が湧くということです。これからの子どもの運動を考える際の,重要な視点になると思います。子どもたちは,「生きるために」運動をしているという立場から,その運動が楽しい! という感情を引き出しているかどうかがとても大切ではないでしょうか。
たとえば,みんなで運動するときに座ってしまい,運動に参加したがらない子どもがいたとします。そんなときは,「お友だちの動きを見ていて,できそうになったらおいでね」とその子どもの意思を尊重します。実は,ミラーニューロンという神経細胞の働きによって,「見る」だけでも脳は実際に体を動かしていると判断しています。そして,見ている(動いている)うちに楽しくなって,参加してきます。私は,子どもはもともと好奇心旺盛で,活動意欲があり,動きたくて仕方ない存在であると考えています。子どものペースに大人が合わせ,子どもが自ら動くことを信じて待つようにしてはいかがでしょうか。
運動は脳にいい!
幼児のためのコーディネーション運動(COE)シリーズをはじめ,「脳を鍛えるには運動しかない!」(ジョンJ.レイティ,2009)や「運動脳」(アンデシュ・ハンセン,2022)など国内外で,運動は脳にいいことが分かってきました。特に今回はどんな運動を行うといいのか,どのように行うといいのかという問いを中心に,新たに分かってきた科学的根拠(とはいいましてもまだまだ仮説段階です),脳科学の視点や心理学や生理学などの知見に基づき,子ども主体の保育や子どもの発育発達を考慮した,「脳にいいコーディネーション運動」を紹介します。
コーディネーション運動は,本書p.10に掲載の5つの能力で構成されています。実はこれらの能力は,運動や遊びのときをはじめ,前述しましたように日常生活でも使われています。つまり,すでにコーディネーション運動を行っていたということになります。たとえば,子どもたちに「ぴょんぴょんする動物は?」と聞いて自由に動いてもらいます。子どもたちは,それぞれの想像力を働かせていろんな動物に変身します。保育者は子どもの様子を観察してどんな動きをしているか見つけます。あるいは,「それは何の動物かな?」と問いかけます。私たちがやってほしい動きではなく,子どもたちがイメージする動きをどんどん行います。子どもたちは,喜んで楽しんで取り組みます。
コーディネーション運動は,@シンプル:単純な動きでいつでも,どこでも,誰でもできるような内容,A簡単:運動が苦手な子どもができている動き・知っている動き,Bファン:できたという喜びをはじめ,工夫する面白さ,仲間と一緒につくる楽しさ,さらには,予定調和を崩すような驚きなどの感情を自由に表現するようにしています。
2025年5月 /東根 明人
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明治図書















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