- はじめに
- 1 いじめの傷が今も疼く
- いじめられた子の心の傷
- たかがいじめ、されどいじめ
- いじめの傷が人間不信を増幅する
- 人間不信が心の安定基地を構築できない
- やられた子がやるという構図
- 2 「荒れ」の背後に心の傷
- 新たな荒れとその広がり
- 荒れを生む「育ち」の問題
- 非行の背後に心の傷
- 心の傷を癒す支援
- 3 食べては吐く少女
- 過食と拒食を繰り返す少女
- 苦悩を吐き出す少女
- 家庭でも先生を演ずる母親
- 親のとらわれに心と体でNOサイン
- 少女の心の傷を癒す
- 親と教師の価値観に変更を迫る
- 今のあなたで素敵だよ
- 4 体罰は体の傷より心の傷を深める
- 体罰は体の傷と心の傷を同時に
- 体罰の恐怖が不登校に
- 尾を引く心の傷
- 体罰による心の傷の深さ
- 心の傷を癒すことの困難さ
- 5 暴走族に心の傷をいやす十四歳の少女
- 暴走族の中に身を落とす少女
- 少女が吐き出した心の内
- ネグレクトという心の傷
- 癒えない傷にさらに深い傷
- 感情を受容し、感情を溶かす
- 6 いじめられた心の傷がいじめを
- いじめといじめられの連鎖
- 厳しい「いい子」育て
- いじめたくなるんです
- 子育てにまつわるいじめの根
- 7 シンナー少年の心の傷と癒し
- 意外とデリケートな子どもの心
- 涙ながらに語ったK男の胸の内
- 傷ついた心の癒しで非行を脱却
- 8 援助交際の少女が口にした言葉
- 哀しいこの言葉の意味
- 母親の直感
- 援助交際少女の心の内側
- 吐き出した親への憎悪
- S子が求めたもの
- 9 キレ少年の心的外傷
- キレる子どもの素顔
- キレる背景に発達の問題
- キレる子どもが吐き出した心の傷
- 突然にキレることなんてない
- キレを生まない大人のあり方
- 10 薄幸の暴力少年が受けた心の傷
- 暴力的子育て
- 転校生いじめの標的から非行集団へ
- 背負い込んだM男の苦悩
- 心の傷は癒さねばならない
- 「オレの兄貴になってくれ」
- 11 非行少年たちが心に抱えているもの
- 非行少年の背後に渦巻くストレス
- 甘えられない辛さ
- 「べき論」で抱えたストレス
- 心身の傷がストレスに
- 「さびしさ」の背後に非行
- 12 不登校児への善意のすべてが心に傷
- 二重三重の強引な登校強制
- 「Y男の不登校は怠けだ」
- 辛い家庭訪問の時間
- 仲間の派遣で心に傷
- 再び不登校
- 不登校時の心に寄りそう対応の大切さ
- 13 中退少年の心の奥にうごめく憎悪
- いい子であったY子
- 謝るか退学するか
- 非行の兄との同一視に苦しむ
- 高校生活楽しからず
- ささいな言葉でも傷になる
- 14 いじめの傷に怯えながら十八歳
- カッターナイフでいじめから身を守る
- 今でも呻き声に目が覚める
- 癒しと育て直しと
- 15 傷ついた子どもの心を癒す
- 癒すことで子どもたちを支える
- 学校は心の傷にどう向き合うか
- 16 傷つきやすい今日の子どもたち
- ―まとめに代えて―
- 仲間体験の減少
- 愛されて育った実感が弱い子
- 父親の接し方と心の育ち
はじめに
「心に傷」という言葉がことさら問題になってきたのは、最近のことである。阪神淡路大震災で悲惨な体験をした子どもや大人の支援に当たって、心の傷についてさまざまな議論がなされ、試みが展開された。また、「いじめ問題」が深刻化する中で、心身のいじめによって、いじめられた子どもたちが深い心の傷を負っているという点からも心の傷が問題となった。さらに、ごく最近では「子ども虐待」という事態で心の傷が問題にされている。
このように「心の傷」は子どもと子どもをとりまく周りの関係の中で、さまざまに発生し、さまざまな事態として子どもの心に影を落とし、子どもの心を支配して、時には子どもを危機的にさえしているのである。そうだとすれば、この問題は教師としても十分に認識しておく必要があるように思われる。本書の意図もこうした背景があってのことである。
本書の内容の多くの事例は明治図書の教育誌「心を育てる学級経営」に昨年度(平成十年四月〜平成十一年三月)連載したものであるが、本書には三事例を新しく追加し、さらに、まとめとして「傷つきやすい今日の子どもたち」を加えたものである。
本書の事例は、あくまでも筆者が臨床的にかかわった事例である。それは「いじめ」の傷に苦しむ子どもであり、親子関係の中で幼児期から受けた虐待的な心の傷であったり、母子関係の中で生み出された、拒食・過食の子どもの事例である。また後半においては、教師の体罰から受けた心の傷に苦悩する小学生、さらに家庭内の父母の葛藤で家出し、暴走族の少年たちの世界に身を落とし、心を癒す十四歳の少女の傷と哀しみ、いい子が援助交際の真只中に身を落としていく事例も痛々しい限りである。そして、キレた中学生の自殺念慮、シンナーに一時の快楽を求める少年たち。
こうしたどの事例にも彼らの必死の叫びを感じる。そうだとすれば、彼らの問題行動はまちがいなく救出を求めるサインなのではないか。私にはそう思えてならないのである。
本書では、子どもの日常に視点をおき、そうした日常に生まれるさまざまな子どもの気になる行動を通して、子どもの心の傷を可能な限り読みとり、その背景を分析しながら、そうした子どもへのかかわりの具体的な在り方を検討してみたいと思う。したがって、各章では具体的事例を扱うが、人権問題もあるので、事例の本質を失わない程度にある部分を変えて記述することを、あらかじめお許しいただきたい。
次に「心の傷」についてであるが、これは「トラウマ」という概念によってその性質が理解されている。すなわち、トラウマは子どもがさまざまなショッキングな体験か、不快な体験にしばしば遭遇することによってできた心の痛みであり、その痛みが時を経ても癒されることなく、子どもの心に著しい障害を引き起こしている状態をさすもので、本書においてもこの概念でトラウマを把握して、書き進めている。
本書がオピニオンシリーズの一冊として出版できたことについては「心を育てる学級経営」連載中に激励をくださった坂元彰氏のお力添え、そして何よりも連載の企画段階での江部満氏の強いご支援があったからである。この場を借りて心から感謝の意を表する次第である。
著 者
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明治図書















