- はじめに
- 一 ここが問題だ 池田敏雄
- 二 知的好奇心が運命を拓く ジョン万次郎
- 三 五十二年後の名誉回復 杉原千畝
- 四 もうひとつの日露戦争 小村寿太郎
- 五 開国を見据えた先見性 島津斉彬
- 六 喜びを分かちあいたい 五嶋みどり
- 七 五十歳からの出発 伊能忠敬
- 八 退き際の見事さ 本田宗一郎・藤沢武夫
- 九 イヌイットを救った日本人 フランク安田
- 十 振幅の大きな人生 野口英世
- 十一 気宇壮大な洋行 岩倉使節団
- 十二 木に学ぶ人生の知恵 西岡常一
- 十三 自助努力による財政再建 二宮尊徳
- 十四 実証主義を貫く 高木兼寛
- 十五 異文化の軋轢を越えて 津田梅子
- 十六 「尽くすことによって尽くされる」 上杉鷹山
- 十七 技術者たちの群像
- あとがき
はじめに
「日本人の気概」を真剣に考えるようになったのは、ここ数年のことだ。
それまでの私は、欧米に比べると日本は研究、教育、文化の面で一段低い存在という意識を払拭できていなかった。
創造力に秀でたスケールの大きな国アメリカ、重厚な伝統が息づくヨーロッパの国々。それらと比較すると、模倣中心で画一的な国、日本はみすぼらしく見えた。
折しも九〇年代初頭には、これまで一流ともてはやされていた日本経済の評価までもが後退の一途をたどり、「物まね国家」日本の国際的地位は下落しつつあった。
日本には創造的な知見や研究は生まれないのではないか。そんな悲観的な考えが、私の頭を何度もよぎったものである。
しかし、そのような捉え方はまったくの誤りだった。たとえば日本の技術は、他の国々が簡単には模倣しえない独創性にあふれており、それを支える人々には揺るぎない自信と誇りが満ちていたのである。
私は九〇年代の前半に唐津一、山根一眞両氏の著作を何冊か読み、日本の技術力のどこがどのように優れているのかを具体的に知った。両氏の著作には、元気の出るエピソードがたくさん綴られていて、バブル崩壊後、自信を喪失しがちな日本人の鬱屈した心に「夢」や「希望」という光を投げかけてくれる。
この「夢」と「希望」が今の時代には必要である。そして、「夢」と「希望」の実現に向けての意欲を支えるものは、人間としての自信と誇り、要するに気概なのだという私の見方は、大きく間違ってはいないはずである。
私は社会科(公民科)の教師として、十数年、高校や養護学校などの教壇に立ってきた。今、その年月を振り返ってみて、授業で「夢」や「希望」を十分に伝えてはこなかったという反省にとらわれている。
環境問題の授業では、解決の難しさを印象づけるだけで終わってしまったのではないか。歴史を語るときに、生き生きと生きた先人たちの人生を肯定的に紹介してこなかったのではないか。日本を必要以上に否定的に捉えてはいなかったか。
人生に「夢」や「希望」、そしてそれらを支える「気概」が必要なことは改めて言うまでもないが、それはもちろん授業にも当てはまる。「夢」や「希望」、そして「気概」は生徒の生きる力をはぐくむからである。
今、世界はグローバル化の渦中にある。だが、グローバル化というのは、日本人としてのアイデンティティーという足場を失うことと同義ではない。このような激動の時代だからこそ、しっかりした足場が必要であり、その足場を築くために、先人の気概や人生を肯定的に読み直してみる必要があるのではないだろうか。
本書では、気概にあふれた日本人のエピソードを十七話採り上げた。それらは単に人生をなぞったものではなく、私の目を通して描き直したものだ。だから、そこでは現代的な話題との関連や特定の場面のクローズアップなど、伝記とは異なった角度からの切り込みがなされているのである。
これらを読んで、日本人の気概の一端を感じていただければ嬉しい。
/渡辺 尚人
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明治図書















