- まえがき
- T なぜいま「知識」のあり方を問うのか
- 一 「知識」を問うきっかけになったこと
- 二 変化する社会のなかで主体的に生きるために
- U 「知識」はどうとらえられてきたか
- 一 「知識」とは何か―と問われて
- 二 研究者の分析する知識観
- 三 わたくしの体験的知識観
- V 「知識」の重層化を考える
- 一 知識にはレベルがある
- 二 知識はどのように重層化しているか
- 三 知識の重層化から学びの構造を考える
- W 生きて働く「知識」をどうとらえるか
- 一 知識のもつ機能性
- 二 変わりうる知識と変わらない知識
- 三 転移的な要素を具備した知識
- 四 生活と結びついて生きた知識となる
- X 生涯学習時代の新しい知識とは
- 一 人生の通過点としての学校教育
- 二 学習の仕方を教えているか
- 三 社会に出て必要となる知識は何か
- 四 社会的教養としての知識
- Y 子どもの創り出した「知識」から学ぶ
- 一 子どもの「光る発言」との出会い
- 二 子どもの創造した「知識」あれこれ
- 三 子どもの創造した「知識」から学ぶこと
- Z 「知識」と思考・表現との関連を考える
- 一 能動的な営みとしての知識の獲得
- 二 知識を獲得する基礎的思考力
- 三 表現することによって知識を明確にする
- 四 知識の獲得と思考・表現との往復運動
- [ 「知識」の獲得と体験的な活動
- 一 知識と体験とのかかわりを考えるエピソード
- 二 体験をとおして知識を納得して理解する
- 三 体験をとおして知識をより確かなものとする
- 四 子どもは体験の過程で知識を獲得していく
- \ 「知識」の獲得と子どもの問題意識
- 一 疑問や問題は知識獲得の第一歩
- 二 子どもの知識欲、知的好奇心を満たす
- 三 知識獲得のエネルギーはどうつくられるか
- 四 どんな出会いをすると疑問や問題が生まれるか
- ] 「知識」の獲得と学び方の習得
- 一 子どもに学び方は身についているか
- 二 子どもによる知識の獲得を支援する教材の開発
- 三 「学び方カード」の実際
- ]T 「知識」の獲得と学びのネットワーク力
- 一 なぜ、学びのネットワークなのか
- 二 学びのネットワークを具体的に考える
- ]U 獲得した「知識」の評価をどうするか
- 一 高校入試問題作成者の話
- 二 知識の評価はどう考えられてきたか
- 三 ペーパーテストの内容構成―「知識・理解」に関する問題の検討―
- 四 ペーパーテスト観を変える
- 五 応用場面を提示して知識の獲得状況を評価する
- 六 「知識」の獲得状況を多面的、関連的に評価する
- あとがき/ 参考文献
まえがき
わたくしは、特に「知識」ということについて深く研究しているわけではない。しかし、この間、「知識」の問題について一貫して関心をもち続けてきた。その問題意識の所在は、次のようなところにある。
子ども一人一人のよさや可能性を生かし、自ら学ぶ意欲や思考力、判断力、表現力などの資質や能力の育成を重視する学力観は、教師の指導観や評価観はもとより、子ども観や教材観などあらゆるものの見直しと転換を求め、従来の伝統的な考え方を大きく揺さぶった。この見直しと転換は、「知識」に対する考え方やあり方に対しても、けっして例外ではない。
わたくしは、「子どもの学ぶ意欲や、考える力、表現する力などの資質や能力の育成を重視する学力観は、知識を軽視しているのか」という質問や指摘をたびたび受けてきた。
そのような折、雑誌『現代教育科学』(一九九四年一月号、明治図書)で「新学力観は『知識』否定の学力観か」というテーマで小論を書く機会を得た。わたくしは、そのなかで「答えは、もちろん『ノー』である。新しい学力観に立つ教育が、知識を軽視しているわけではない。しかし、その際『知識』をどうとらえるか、知識の役割が新しい学力観に立って検討されなければならない。」と述べ、「知識」のあり方について論及した。
また、知識は実際の授業において、それを理解する(あるいは獲得する)学習者の意識や思考、活動などと無関係に成立することがないことから、授業構成とのかかわりで考える機会があった。それが「記憶中心の受動的学力は時代遅れか」(雑誌『現代教育科学』一九九七年一〇月号)であった。わたくしはそのなかで、「『知識』獲得型の授業へ」「『学ぶ力』習得型の授業へ」「実践型授業へ」などの授業改善の視点を提案した。
このことがきっかけになって、雑誌『現代教育科学』で一九九八年四月から一か年間「子どもに獲得させたい『知識』とは何か」というテーマで連載することになった。
わたくしは、この間一貫して問題意識として強く抱いていたことは、「知識を軽視してはならない。しかし、知識をどうとらえるかが問題だ。」ということであった。すなわち、「知識」を生きて働くものにすること、そのための授業構成を工夫する必要があるということであった。新しい知識観と授業論との関係を考察することであった。
雑誌『現代教育科学』編集長の江部満さんによると、「子どもに獲得させたい『知識』とは何か」というテーマによる連載の内容は、読者の先生方からも高い関心が寄せられ、「好評だった」ようである。そして、江部さんから、「『知識』の問題をこれほど深く掘り下げた論文はこれまでなかったと思う。連載の内容をベースにしてまとめ、『オピニオン叢書』の一冊として世に問うたらどうか。」という、出版の勧めがあった。
本書『新しい知識観に立つ授業の改革』は、こうした経緯から生まれたものである。
本書は、「知識」をキーワードに据え、知識の質(内容)、思考や表現、活動や問題意識との関係、評価のあり方などについて、多面的な考察を加えたものである。
本書が、生きる力につながる知識を子どもに身につけるために、少しでも参考になれば、これ以上の喜びはない。しかし、まだまだ勉強不足のところがあり、さらに研究を深めていかなければと思っている。いろいろとご指導やご叱正をいただければ幸いである。
本書をまとめ出版するに当たっては、江部満さんから多くのアドバイスと励ましの言葉をいただいた。心からお礼を申しあげたいと思う。
平成一一年二月 /北 俊夫
-
- 明治図書