- はじめに
- T 南吉文学の概念
- 1 南古文学の出発
- 2 現実の投影と郷愁の投影
- 3 南吉作品と改作の問題
- U 幼年童話
- 1 南吉童話の「善人性」とは
- 2 「ごん狐」
- V 南吉の小説
- 1 南吉小説の特徴
- 2 南吉と継母
- 3 挫折の青春
- 4 自照文学としての小説
- (A)私小説的傾向の作品 「父」「帰郷」「螢いろの灯」……について
- (B)幼時に取材した自伝的小説──「芍薬」「小さな魂」(原題「川」)等にみる孤独と背信と──
- (C)知人をモデルにした作品
- W 生活童話
- 1 南吉の生活童話に見る特徴
- 2 主人公の挫折的心情をテーマとした生活童話
- 3 子どもに取材した生活童話
- X 民話的メルヘン
- 1 民話的メルヘン
- 2 「百姓の足・坊さんの足」
- 3 「和太郎さんと牛」
- 4 「牛をつないだ椿の木」
- Y 南吉童話の異端「鳥右ヱ門諸国をめぐる」
- 1 平次は鳥右ヱ門の分身か
- 2 調和から脱出を夢みる作家の“業”
- 新美南吉略年譜
はじめに
本著は、1973年新評論社より刊行した「新美南吉の世界」、さらに一部改筆加筆して同81年講談社文庫として刊行したものが、いずれも絶版になったので、あらためて明治図書のご好意で刊行されたという経緯の産物である。
ただし、旧版刊行後も、何人かの研究者、または地元関係者のその後の証言があったことなので、多少加筆した部分もあるが、最後に「南吉童話の異端『鳥右ヱ門諸国をめぐる』」を新たに加筆した。これにはいささかの事情がある。そもそも本著は、新美南吉を認識の文学として断定、「ごん孤」以下、少年小説にいたるまでを人間世界の理想よりも現実を疑視する作家であるとの論調で筆を進めた。大筋にはこのことは言えると思うが、最晩年の「牛をつないだ椿の木」には自己目的に生きた主人公が、さらに「鳥右ヱ門諸国をめぐる」には、認識者にとどまらず行動の狂気に走る求道者の生涯の物語をかいている。なぜ南吉は、ここにいたって自己の文体(認識的)から大きく一歩踏み出して求道の文学を書いたのであろうか。その謎が筆者の胸中にわだかまっていて、新たに論者をこころみ、本著に挿入、あえて筆者の矛盾を読者諸賢のまえに晒すことにした。
また本著は、紙数の都合で生涯編を削除したので、作品理解上必要と思われる部分については年譜の項に挿入した。すなわち旧版に較べて巻末略年譜が大幅に増加になっている。
以上の事情から、旧版とまったく同じタイトルではいかがなものかと思い、編集部の江部氏と相談の上改題することにした。
なお、筆者が新美南吉、およびその作品に関心を抱くにいたった事情については、参考までに、講談社文庫のあとがきを、そのまま採用させていただくことにした。
1998年2月 /浜野 卓也
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- 明治図書