- 序 ユニバーサルデザインで学級をつくる――小1担任の学級経営と授業づくり
- T これが小学校1年生の姿だ!
- ――子どもの実態に応じた学級づくり
- 1.1年生の発達の姿とは
- 2.気がかりな子どもの変化
- 3.「気になる子」を含めた学級づくり 基本原則10か条
- U 入学前/全仕事
- 1.就学時健康診断の進め方と配慮
- 2.就学相談と体験入学
- 3.幼・保からの情報等との対応――就学情報と校内委員会
- 4.学級編制の配慮
- V 学級開き/全仕事
- ――入学式前後2週間 準備と初期指導をどうするか?
- 1.入学式前の準備@――学びの環境づくり
- 2.入学式前の準備A――記録ノートづくり
- 3.入学式前の準備B――学級経営のビジョン
- 4.入学式の準備@――心の準備
- 5.入学式の準備A――入学式と当日の流れ
- 6.学級開きの準備と進行@――分かりやすい学級づくり
- 7.学級開きの準備と進行A――大好きな学級づくり
- 8.入学式後の1週間
- 9.1年生のデビュー――対面式・1年生を迎える会
- 10.初めての保護者会
- W 生活場面での指導/全仕事
- ――生活・行動面での指導をどうするか?
- 1.安全な登下校のための指導
- 2.始業前の支度をどのように援助するか
- 3.朝の会
- 4.友だち関係を育てる休み時間の効果的な活用
- 5.給食
- 6.満足感いっぱいの帰りの会
- 7.放課後の活用
- X 学級活動と学校行事/全仕事
- ――集団への適応を促すためにどうするか?
- 1.学級活動の年間計画と集団づくり@――みんな友だち,みんな仲良しの学級づくり
- 2.学級活動の年間計画と集団づくりA――年間の見通しをもった学級活動の計画
- 3.班づくりと席替え――仲良しをたくさんつくる班活動
- 4.係・当番活動――みんながいてよかった係・当番活動
- 5.教室環境の整備――落ち着きと集中力が増す教室環境づくり
- 6.学校行事の準備と取組@――運動会で一人一人が活躍できる出番をつくる
- 7.学校行事の準備と取組A――安全に万全を尽くす遠足・校外学習
- 8.学校行事の準備と取組B――目当てをしっかりもった儀式的行事への参加
- 9.はじめての夏休み(長期休業日)を迎える準備――課題意識を共有して迎える長期休業日
- 10.学年末をどのように迎えるか――1年間の成長を共に喜ぶことができる学級納め
- Y 「気になる子」への個別支援/全仕事
- 1.子ども理解の基本的な姿勢とアセスメントの進め方
- 2.個別の指導計画の作成と支援の実際
- 3.個別の教育支援計画の作成と様式例
- 4.落ち着ける教室環境
- 5.学校全体としての支援へのかかわり
- Z 授業のユニバーサルデザイン/全仕事
- 1.授業計画の工夫@――個人差への対応を取り入れた指導計画の作成
- 2.授業計画の工夫A――授業体制の工夫
- 3.授業計画の工夫B――1単位時間の授業の組み立て方の工夫
- 4.授業展開の工夫@――授業開始前の準備
- 5.授業展開の工夫A――子どもの特性に応じた学習方略を
- 6.授業展開の工夫B――発問や指示,説明の仕方の工夫
- 7.授業展開の工夫C――板書の仕方の工夫
- 8.授業展開の工夫D――机間指導の仕方
- 9.評価の工夫――授業過程での評価と通知表,指導要録の作成の工夫
- 10.特別支援学級や特別支援学校との交流及び共同学習の推進――障害のある子どもとともに学ぶことで育つもの
- [ 保護者,関係機関との連携/全仕事
- 1.保護者との連携の実際
- 2.保護者への理解啓発の実際
- 3.幼稚園・保育所との連携の実際
- 4.学童保育との連携の実際
- 5.関係機関との連携の実際
- \ 学級運営・学級事務/全仕事
- 1.年間の学級運営計画
- 2.指導記録の取り方と評価の工夫
- 3.つうしん簿・指導要録等の取り扱い
- 4.安全の確保
- 5.校内組織間の連携
序ユニバーサルデザインで学級をつくる
――小1担任の学級経営と授業づくり
近年,小学校の通常の学級に在籍する発達障害等の子どもの存在が大きな注目を集めています。このことについて国は,学校教育法等の一部改正(平成19年4月1日施行)により,特別支援教育を法制化し,発達障害の子どもも含め障害のある児童生徒に対して,学校全体としての支援体制を整備し,計画的・組織的に対応することを求めています。
文部科学省の調査(2002年実施)によれば,発達障害の子どもが約6%の割合で通常の学級に在籍している可能性があることが示されています。これらの子どもは,知的発達に遅れはないものの,学校における学習活動や集団生活を円滑に進める上で様々な難しさをもっています。通常の学級には,自閉症,学習障害,注意欠陥多動性障害など発達障害の子どもばかりでなく,通級による指導の対象となる,言語障害,自閉症,情緒障害,弱視,難聴,肢体不自由,病弱・身体虚弱など,様々な障害のある児童生徒が在籍しています。
学級担任は,これらの子どもへの個別的な対応とともに,学級全体の指導を行っていかなければならず,指導に苦慮するケースが多く報告されています。とりわけ,学校生活を初めて送る1年生は,学習態勢ができていない子どもも多く,学級担任の苦労は並大抵ではありません。「小1プロブレム」といわれる現象が発生する理由もあるわけです。
では,どのように学級づくりを進めていけばよいのでしょうか。
本書では,通常の学級における小1担任の学級づくりと授業づくりに光を当て,それを個の視点に立った指導・支援とともに,「ユニバーサルデザイン」(5ページ参照)の発想に立って取り組んでいくことを提案します。つまり,「子どもは一人一人みな違う」という考え方に立ち,障害のある子どもも障害のない子どもも,学級のかけがえのない大切な一員として,互いに認め合い,育ち合う,そのような学級づくりと授業づくりへの提案です。
特定の子どもだけを考えるのではなく,学級全体を育てていく学級経営,授業改善を進めていくことで,障害のある子どもにとっても,わかりやすく楽しい学校生活を築いていこうとするものです。いわば,「すべての子どもにとって学びやすい。教師誰もが実践できる。教師・子ども・保護者みんなが楽しくなる」。ユニバーサルデザインとは,そのようなものでなければならないと思うのです。
そこで本書では,小1担任が行うべき「仕事」を1年間の学校生活の流れに沿って取り上げ,ユニバーサルデザインの観点から見直すとどうなるのかを,できるだけ具体的に示すことにしました。本書で読者のみなさんをご案内し,共に考えるパートナーを紹介します。
○のぞみ先生
私は,山川のぞみといいます。
教職3年目で初めて1年を担任することになりました。発達障害のある子どもを担任するのは初めてでちょっと不安ですが,いつも明るくチャレンジをモットーにしていますから,大丈夫。
がんばります。
○伸一先生
星伸一です。
教職9年目,本校は2校目の学校です。のぞみ先生と1年生を担任することになりました。特別支援教育の研修会で学んだ「ノーマライゼーションの理念」を実現するのが夢です。
のぞみ先生は,少し不安をもっているようなので,子どもたちへの指導・支援について,これから一緒に考えていこうと思っています。
本校は,各学年2学級,特別支援学級(知的障害)が1学級設置されており,合計13学級の学校です。特別支援教育推進のために校内委員会が設置され,特別支援学級の担任の先生が特別支援教育コーディネーターに指名されていますが,教職員の発達障害などについての理解はまだ十分ではなく,いろいろな考えの先生がいるのが実情です。これから始まる1年間,それぞれの場面で,のぞみ先生,伸一先生をとりまく校長先生以下さまざまな先生などが登場することになりますが,私たちと一緒に,子どもたちみんなが「学校大好き」といえる1年をつくっていきましょう。
本書では,通常の学級に就学することとなった特別な教育的支援を必要とする子どもの一人として「ただし君」という子どもを登場させています。少々落ち着きがなく,友人との関係を築いたり,教科の学習を行ったりすることに難しさをもっている子どもです。ただし君は,特定の子どもを想定しているわけではありませんので,本文中のエピソードには,いろいろな困難な状態が出てくる場合があることをご了解ください。
のぞみ先生,伸一先生とともに,ただし君をはじめとする子どもたちとの出会いを大切にし,直面する様々な課題にしっかり向き合い,子どもたちの健やかな成長を支えていきましょう。本書を通じて,小1担任となられた先生方が,充実した学級づくりを進めていただくことを祈念しております。
ユニバーサルデザインとは?
ユニバーサルデザインとは,「年齢や障害の有無にかかわらず,すべての人が使いやすいように工夫された用具・建造物などのデザイン」(『広辞苑第6版』)と定義されており,もともと建築や工業デザイン分野の用語でした。
教育指導の分野においても,このような考え方を取り入れて授業の方法や教室環境の工夫を進めようとする動きがあります。たとえば,授業で板書するとき,特に注目させたい箇所を枠で囲って示せば,注意の集中が困難な子どもばかりでなく他の子どもにとっても分かりやすくなります。教室の机やいすにテニスボールなどの柔らかい素材でできたカバーを装着すれば,教室内が劇的に静かになり,先生の話が聞き取りやすくなります。
障害の有無にかかわらず,子どもは一人一人学び方の違いなど,さまざまな個性というべき特性をもっています。そのことを想定し,授業や学級経営の計画・実施に当たって具体的な指導・支援の工夫を進めることが大切です。特別支援教育の知見は,すべての児童にとって「居心地のよい」教育環境を提供するものといえましょう。
また,ユニバーサルデザインの考え方に立てば,専門的な知見をもつ一部の先生だけでなく,教師誰もが無理なく実践できることも大切な要件です。そのためには,学校内外で蓄積された教育手法などを可能な限り教師間で共有することに努め,弾力的なマニュアル化を図りつつ,組織的に対応できる環境をつくっていくようなことを考える必要がありましょう。
このような教育環境を構築することは,子どもにとっては「学ぶ喜びのある学校」であり,保護者にとっては「安心と信頼で結ばれた学校」となりましょう。
ユニバーサルデザインを学校教育で実現することは,「すべての子どもにとって学びやすい。教師誰もが実践できる。子ども・教師・保護者みんなが楽しくなる」学校づくりなのです。
-
- 明治図書