- はじめに
- Part1 幼児のためのコーディネーション運動とは
- 1 「遊ぶ」経験が足りない子どもたち
- 2 文部科学省「幼児期運動指針」で指摘された,体力・運動能力の低下
- 3 コーディネーション=「体を巧みに動かす神経系の能力」
- 4 コーディネーション能力の5つの要素,4つの形式
- 5 遊びながら,能力を伸ばすカイヨワの遊びの4要素
- 6 「行動体力」と「防衛体力」を育むコーディネーションの効用
- 7 年齢やレベルに応じたコーディネーション運動を導入
- 8 アレンジにチャレンジ!
- 9 コーチングとコーディネーションはセット
- Part2 歩く動作・走る動作を取り入れたコーディネーション運動10
- 歩く動作・走る動作を取り入れたコーディネーション運動のポイント
- 1 ストップ&ゴー
- 2 じゃんけんシャトラン
- 3 バリアンゲーム
- 4 噴水コーデ
- 5 逆オニ
- 6 モグラオニ
- 7 お約束ゲーム
- 8 スペースチェンジ
- 9 リアクションラン
- 10 じゃんけんダッシュ
- コーチングの視点 じゃんけんシャトランの場合
- Part3 跳ぶ動作を取り入れたコーディネーション運動6
- 跳ぶ動作を取り入れたコーディネーション運動のポイント
- 1 グーパージャンプ
- 2 リアクジャンプ
- 3 ジャンプジャンプレボリューション
- 4 リズムジャンプ
- 5 おっとっと
- 6 動物ジャンプ(ウサギ・カエル・バッタなど)
- コーチングの視点 グーパージャンプの場合
- Part4 投げる動作・捕る動作を取り入れたコーディネーション運動9
- 投げる動作・捕る動作を取り入れたコーディネーション運動のポイント
- 1 クラップキャッチ
- 2 タッチキャッチ
- 3 風船タップ&キャッチ
- 4 メンコ投げ
- 5 背面スロー
- 6 ころころイン
- 7 ころころ的当て
- 8 爆弾ゲーム
- 9 ジャンプタッチ
- コーチングの視点 風船タップ&キャッチの場合
- Part5 全身を使った動きを取り入れたコーディネーション運動10
- 全身を使った動きを取り入れたコーディネーション運動のポイント
- 1 いろいろお座り
- 2 いろいろタッチ
- 3 図形体操
- 4 足うらタッチ
- 5 クマ歩き
- 6 クロスタッチ
- 7 進化ゲーム
- 8 バリアオニ
- 9 いろいろ移動
- 10 音楽コーデ
- コーチングの視点 いろいろお座りの場合
- Part6 用具・道具を使った遊びを取り入れたコーディネーション運動15
- 用具・道具を使った遊びを取り入れたコーディネーション運動のポイント
- 1 移動ジャンプ(縄)
- 2 跳ぶかくぐるか(縄)
- 3 フィッシング(マット)
- 4 川跳びの術(マット)
- 5 島オニ(マット)
- 6 フープコーデ(フープ)
- 7 フープジャンプ(フープ)
- 8 フープくぐり(フープ)
- 9 足変えの術(平均台)
- 10 雀ジャンプ(平均台)
- 11 ボール送り(ボール)
- 12 セブンボール(ボール)
- 13 フットアップ(ボール)
- 14 ボールギャザー(ボール)
- 15 オセロゲーム(オセロ)
- コーチングの視点 フープジャンプの場合
- Part7 効果的に行う!コーディネーション運動のプログラム
- 1 効果的なプログラム作りのポイント
- 2 プログラムの記入例と活用する際のポイント
- 3 すぐ使える!コーディネーション運動プログラム30
- 走る運動が楽しくなるコーディネーション運動
- プログラム1(3歳向け)・プログラム2(4歳向け)・プログラム3(5歳向け)
- 跳ぶ運動が楽しくなるコーディネーション運動
- プログラム4(3歳向け)・プログラム5(4歳向け)・プログラム6(5歳向け)
- 投げる運動が楽しくなるコーディネーション運動
- プログラム7(3歳向け)・プログラム8(4歳向け)・プログラム9(5歳向け)
- 全身運動が楽しくなるコーディネーション運動
- プログラム10(3歳向け)・プログラム11(4歳向け)・プログラム12(5歳向け)
- 用具を使った運動が楽しくなるコーディネーション運動
- プログラム13(3歳向け)・プログラム14(4歳向け)・プログラム15(5歳向け)
- リズム能力を高めるコーディネーション運動
- プログラム16(3歳向け)・プログラム17(4歳向け)・プログラム18(5歳向け)
- バランス能力を高めるコーディネーション運動
- プログラム19(3歳向け)・プログラム20(4歳向け)・プログラム21(5歳向け)
- 操作能力を高めるコーディネーション運動
- プログラム22(3歳向け)・プログラム23(4歳向け)・プログラム24(5歳向け)
- 反応能力を高めるコーディネーション運動
- プログラム25(3歳向け)・プログラム26(4歳向け)・プログラム27(5歳向け)
- 認知能力を高めるコーディネーション運動
- プログラム28(3歳向け)・プログラム29(4歳向け)・プログラム30(5歳向け)
- おわりに
はじめに
子どもたちが元気に園庭を走り回る。みんなで楽しそうに運動をしている。いつ見てもワクワクさせられる光景ではないでしょうか。額に汗をにじませ,笑顔いっぱい,時には真剣なまなざしで思い思いに体を動かしている。そんな自由で気ままではあるけれど,子どもらしい環境をいつまでも保ってあげたい。私はそんな素朴な思いから,コーディネーション運動に取り組んでいます。子どもたちの自由な発想,豊富な好奇心,時にはケンカになることもあるけれど,自分の意思を素直に言う,友だちと一緒に遊びのルールを考える等々,私は,コーディネーション運動を通じて日本の教育の在り方に一石を投じる検証を,ライフワークと位置付けています。
文部科学省から「幼児期運動指針」(2012)が出され,幼児(3歳から6歳の小学校就学前の子ども)は様々な遊びを中心に,毎日,合計60分以上,楽しく体を動かすことが大切だということが提唱されています。幼児期運動指針では,動きを現象的側面からとらえ,「体のバランスをとる動き」「体を移動する動き」「用具などを操作する動き」に分類していると思われます。
これに対してコーディネーション運動は,動きを機能的側面からとらえたコーディネーション能力を基準に作成しています。動き(随意運動)は,意図や目的,周囲との関係性や必要性から生ずるものであり,そこには合目的性が存在します。換言するならば,ベルンシュタイン(1967)が言う,「あらゆる状況ならびに条件下において,解決策となる運動を見つけること」と「制御の機能」という意味です。今回の拙著では,子どもたちに運動が大好きになってもらいたいという願いを込め,幼児期運動指針を踏まえ,コーディネーション能力の視点から基本的な運動例を紹介したいと思います。
加えて,スポーツ現場においても,Evidence-based coaching(根拠に基づいた指導)が重要であると言われています。経験やカン,模倣だけではなくデータや科学的根拠による指導や説明が求められています。私たちの研究チームが発表した学術論文(Mochizuki, Sudo et al, 2014, Mochizuki, Sudo et al, 2013, Sudo, Mochizuki et al, 2011, Mochizuki, Kirino et al, 2010,など)と実践結果に基づき,メニューを組み立てました。特に,ジャンプ動作,ペアやグループでゲーム性を持たせて実施,そして正確さ(質)より素早さや種類(量)を求める点が特徴的であると考えます。
例えば,私たちの研究(2009?2012:科研基盤C #21500604)において,コーディネーション運動を行う前と後,単純運動を行う前と後に,心地よい感情をよぶ写真(かわいらしい動物・ヒトの笑顔の写真)と不快感をよぶ写真(ヘビ・ゴキブリ,恐怖におののいた人の顔の写真)を見せ,運動の前後での情動(感情や情緒)の変化を比較してみました。その結果,心地よい刺激に対して,情動を司る脳の外側面の奥,側頭葉と頭頂葉下部を分ける外側溝の中に位置している「島(insula)」の活動が増加していました。単純運動後には,脳の活動に変化は認められませんでした。つまり,楽しさや面白さを伴った運動の方が脳はより活発に働くということです。子どもたちにとって,単調な運動より変化に富み,面白さを伴う運動が適切であることを裏付けていると思われます(Brain activation associated with motor imagery of coordination exercises and social abilities. European Journal of Sport Science. 2014. DOI:10.1080/17461391.2014.893019)。
私がコーディネーション運動と出逢い,もうすぐ20年になろうとしています。この間に仲間と共に取り組んだ実践と研究を通じ,単にコーディネーション運動を行うのではなく,なぜ行うのかという目的,意図,根拠の体系化を図ってまいりました。同時に,最大のテーマであるコーディネーション運動の指導による指導法(こちらは,30余年の研究と実践)の構築にも力を注いでいます。つまり,楽しく運動をする,体を動かすことが楽しくなるという表面的な目標(戦術:コーディネーション運動)もさることながら,本質(戦略:コーチングサービス)の整理統合とも言えます。コーチングサービスとは,「目的を達成するために,コーチとプレーヤーが共同で取り組む知的活動を促進する行為・技能」と定義します。
真の教育とは何かを問い続けた元宮城教育大学学長の林竹二(1986)は,教師に求められる第一の資格は,「謙虚」そして「学ぶ能力」と言い,授業は教師と子どもが一緒に生きる場にならなければならない。授業が一定のことを教えて覚えさせる仕事ではなく,深いところにしまい込んであるそれぞれに形態の異なる子どもの大事な,「たから」を探し当てたり,掘り起こしたりする仕事でなければならないとしています。教師を保育者,授業を保育と置き換えても全く同じことではないでしょうか。
またソクラテスは,教師には作品はないと言いました。なぜならば,相手が生命を持った人間の子だからです。生命の中には,絶えず成長する力があり,その成長を助ける以上のことは人間にはできないと言っています。子どもたちは,絵画や陶芸あるいは工場でつくられるモノではないということです。もし,子どもを自分の思い通りにしようとしているならば,「傲慢」と言うでしょうね。
そこで本書では,「保育者が子どもと一緒に考え,創り,喜び合う」ことを大きなテーマのひとつにしました。そのためにPart7では,保育者の皆さんが現場に現れた事実を記録出来るようにしています。子どもから学ぶ能力を教わり,子どもたちの宝物探しをしてみましょう! きっと子どもと一緒に成長する自身を実感します。その経験がさらに次の創意工夫につながるという好循環を生み出すと考えます。
2015年6月 /東根 明人
この本に至るまでの願い が書かれているところがよい
イメージしやすい。