- はじめに―これまで物語・小説を「読む力」をつけることができてこなかった
- 第一章 物語・小説についての三つの指導過程と三つの国語の力
- 第1節 三つの指導過程「構造よみ―形象よみ―吟味よみ」
- 1 三つの指導過程には、それぞれ二つの要素が含まれる
- 2 読者が物語・小説を「読む」という行為を、三つの要素に分けてみる
- 第2節 「出会いよみ」と「深めよみ」
- 第3節 三つの読む方法=三つの国語の力=三つの教科内容
- ―構成・構造を読む方法、形象・技法を読む方法、吟味・評価をする方法
- 第4節 これまでの指導過程と教科内容に関する実践・研究
- 第5節 本書の構成―三つの指導過程と三つの教科内容を解き明かす
- 第二章 「構成・構造」に着目したあたらしい「読み」―構造よみ
- 第1節 「構成・構造」に着目すれば物語・小説の面白さが浮き上がってくる
- 1 「構成・構造」を読むことの意味
- 2 物語・小説の「典型構成」がわかると作品が楽しく見通せる―「構成」の読み
- 3 「四部構成」の物語・小説
- 4 「三部構成」と「二部構成」の物語・小説
- 第2節 「発端」への着目と「導入部」の発見―「構成」の読みで見えてくるもの
- 1 「導入部」の発見
- 2 「発端」に着目し作品の組み立てを大きくつかむ
- 第3節 「クライマックス」への着目と事件の関係性の発見―「構造」の読み
- 1 「クライマックス」という最も刺激的な文学装置
- 2 物語・小説の四つの「典型構造」
- 第4節 「説明」と「描写」、「ストーリー」と「プロット」が区別できると物語・小説は面白い
- 1 「説明」と「描写」、「描写」の密度ということ
- (1)「説明」と「描写」/(2)「描写」の密度
- 2 「ストーリー」と「プロット」を区別すると物語・小説の仕掛けが見える
- 第5節 第一読で「構成・構造」を読むことの意味
- 第三章 「形象・技法」に着目したあたらしい「読み」―形象よみ
- 第1節 作品の「鍵」となるところに着目し形象を読む
- 1 形象を読むとは、作品に隠された意味や仕掛けを発見すること
- 2 「鍵」の語や文に自力で着目できること―「取り出し」の過程
- 第2節 導入部で「鍵」にどう着目しどう読み深めるか
- 1 導入部で「鍵」となるのは「人物」の設定
- 2 導入部の「人物」の設定を読み深める方法
- 3 導入部の「時」の設定への着目と読み深める方法
- 4 導入部の「場」の設定への着目と読み深める方法
- 5 導入部の「先行事件」への着目と読み深める方法
- 6 導入部で見える「語り手」の設定と「語り手」の予告・解説
- (1)「語り手」の設定/(2)「語り手」の予告・解説
- 第3節 展開部・山場で「鍵」にどう着目しどう読み深めるか
- 1 展開部・山場で「鍵」となるのは「事件の発展」と「新しい人物像」
- 2 「クライマックス」から主要な事件の「鍵」が見えてくる
- 3 「事件の発展」に着目する
- (1)人物相互の関係性の発展/(2)人物の内的・外的な発展/(3)事件の発展とひびきあう情景描写
- 4 「新しい人物像」に着目する
- 5 「事件の発展」を読み深める三つの観点
- 第4節 作品の「主題」への総合
- 1 「主題」をどう考えるか
- 2 形象を総合し「主題」をとらえる
- (1)「スイミー」の主題/(2)「お手紙」の主題/(3)「一つの花」の主題/(4)「少年の日の思い出」の主題
- 第四章 「形象」を読み深めるための様々な方法
- 第1節 技法・工夫された表現に着目しながら形象を読み深める方法
- 1 普通とは違うまたは不整合な表現・内容に着目して読む
- 2 比喩―直喩・隠喩・換喩・提喩・声喩に着目して読む
- (1)直喩と隠喩/(2)換喩と堤喩/(3)声喩
- 3 反復に着目して読む
- (1)狭い範囲の反復/(2)広い範囲の構造的反復
- 4 倒置、体言止めに着目して読む
- (1)倒置/(2)体言止め
- 5 聴覚的効果、視覚的効果に着目して読む
- 6 象徴に着目して読む
- 第2節 差異性・多様な立場から形象を読み深める方法
- 1 整合性のある表現・内容に替え、その差異に着目して読む
- 2 別の表現・内容に替え、その差異に着目して読む
- 3 表現・内容を欠落させ、その差異に着目して読む
- 4 肯定・否定の両義性に着目して読む
- 5 立場・視点を替え、その差異に着目して読む
- 第3節 文化的・歴史的前提と先行文学を意識しながら形象を読み深める方法
- 1 文化的前提と歴史的前提に着目して読む
- 2 先行文学と定型表現に着目して読む
- 第4節 語り手に着目しながら形象を読み深める方法
- (1)一人称の語り/(2)三人称の語り
- 第五章 「吟味・評価」に着目したあたらしい「読み」―吟味よみ
- 第1節 物語・小説を「吟味・評価」することの意味
- 第2節 「吟味・評価」をするための方法
- 1 語り手に着目して吟味・評価する
- (1)語り手を替えることによる吟味・評価/(2)語り手と人物との関係を替えることによる吟味・評価
- 2 人物設定と事件展開に着目して吟味・評価する
- (1)人物設定を替えることによる吟味・評価/(2)事件展開・人物像の見直しによる吟味・評価/(3)事件展開を替えることによる吟味・評価
- 3 構成・構造、題名に着目して吟味・評価する
- (1)ストーリーは変えずに構成・構造を替えることによる吟味・評価/(2)題名を替えることによる吟味・評価
- 4 海外作品の複数翻訳および改稿・異本などの比較により吟味・評価する
- 5 作品を総括的に吟味・評価する―主題、思想、ものの見方・考え方の総括的な吟味・評価
- (1)「大造じいさんとガン」の吟味・評価/(2)「少年の日の思い出」の吟味・評価/(3)「読むこと」から「書くこと」への吟味・評価の発展
- 第一章 「ごんぎつね」(新美南吉)のあたらしい「読み」の授業
- 第1節 「ごんぎつね」の構造よみ―構成・構造を読む
- 1 「ごんぎつね」の構成をつかむ―発端への着目
- 2 「ごんぎつね」のクライマックス―最大の事件の節目
- 3 「ごんぎつね」の構造表
- 第2節 「ごんぎつね」の形象よみ―「鍵」に着目し形象を読み深める
- 1 「ごんぎつね」の導入部の形象と技法
- (1)名前読み、そして「きつね」を読む/(2)「ぼっち」と「小ぎつね」を読む/(3)山場につながる「いたずらばかり」を読む
- 2 「ごんぎつね」の展開部の形象と技法
- (1)展開部のごんと兵十の「すれ違い」を読む―「鍵」の取り出し/(2)「ちょいといたずら」と「ぬすっとぎつねめ」のすれ違いを読む/(3)ごんの兵十に対する見方の変容を読む/(4)ごんの兵十に対する共感を読む/(5)ごんの「つぐない」のエスカレートを読む/(6)ごんの兵十に対する不満を読む
- 3 「ごんぎつね」の山場の形象と技法
- (1)「その明くる日も」の「も」を読む/(2)兵十のごんへの見方の顕在化を読む/(3)兵十が躊躇なくごんを撃つことの意味を読む/(4)兵十が異変に気づく/(5)クライマックスから主題を総合/(6)情景の象徴性を読む
- 第3節 「ごんぎつね」の吟味よみ―吟味・評価で物語を再読する
- 1 冒頭の一文の意味を吟味・評価する
- 2 なぜこういう悲劇が生まれたかを推理する
- (1)人間と獣という関係が悲劇を生んだという推理/(2)言葉の不在が悲劇を生んだという推理/(3)ごんの「ひとりぼっち」の境遇が悲劇を生んだという推理
- 3 この後兵十はこの出来事をどう語ったか
- 第二章 「走れメロス」(太宰治)のあたらしい「読み」の授業
- 第1節 「走れメロス」の構造よみ―構成・構造を読む
- 1 「走れメロス」の構成をつかむ―発端への着目
- 2 「走れメロス」のクライマックス―事件の二つの大きな節目
- 3 「走れメロス」の構造表
- 第2節 「走れメロス」の形象よみ―「鍵」に着目し形象を読み深める
- 1 「走れメロス」の冒頭を読む―冒頭は「危険地帯」
- 2 「走れメロス」の展開部に挿み込まれている人物設定
- (1)「政治がわからぬ」ことの肯定面・否定面を読む/(2)「メロス」の名前よみ/(3)メロスの職業と性格を読む/(4)メロスの家族を読む
- 3 「走れメロス」の展開部の形象と技法
- (1)「暴君ディオニス」の人物形象を読む/(2)メロスの自信を読む/(3)メロスの挫折を読む
- 4 「走れメロス」の山場の形象と技法
- (1)山場そして二つのクライマックスから主題を総合/(2)題名「走れメロス」を読む
- 第3節 「走れメロス」の吟味よみ―吟味・評価で小説を再読する
- 1 メロスの人物像に共感できるかどうかを吟味・評価する
- 2 王の変容とメロスの変容に共感できるかどうかを吟味・評価する
- 3 別の事件展開の可能性を想定し山場をとらえ直す
- 4 作品の冒頭と末尾を比べてみる
はじめに
―これまで物語・小説を「読む力」をつけることができてこなかった
この本は何をめざして書かれたのか
これまで物語・小説を「読むこと」に関する実践の試みや研究は様々に行われてきた。しかし、いずれも不十分な成果しか残してくることはできなかった。特にどういう手順どういう過程で指導をしていけば、子どもたちに確かな「読む力」がついていくのかについての解明、つまり「指導過程」の解明が不十分だった。様々な提案はあったものの、まだ全く未完成の状態である。またどういう力をつけると子どもたちは豊かに物語・小説が読めるようになるのかについての「読む力」の解明、つまり「教科内容」の解明も極めて甘かった。だから義務教育修了段階までに是非身につけさせるべき物語・小説に関する「読む力」=「教科内容」について、体系的と呼べるものは今に至っても出来上がっていない。これら二つの解明の不十分さは相互に関連する。
物語・小説を「読む力」を子どもにつけることができていないという状態を大きく乗り超えるために、本書を書いた。本書では子どもたちに物語・小説を豊かに確かに「読む力」をつけていくための新しい「指導過程」を提案した。そして、その際にどういう力を子どもたちに身につけさせていけばいいかという「読む力」つまり「教科内容」の具体を新たに提案した。
小学校そして中学・高校の国語の先生方にとって、明日からすぐに生かしていける具体性・臨床性も重視した。国語科教育について現在学んでいる学部生・院生の皆さん、国語科教育の研究者の方々も読者として想定している。「スイミー」「お手紙」「ごんぎつね」「一つの花」「大造じいさんとガン」「注文の多い料理店」「カレーライス」「やまなし」「少年の日の思い出」「走れメロス」「故郷」「羅生門」など、現行の教科書教材を豊富に例示しつつ、わかりやすい提案となるようにこころがけた。
PISAを評価しつつPISAを乗り超える
OECD(経済協力開発機構)のPISA(生徒の学習到達度調査)「読解力」が、日本の国語科教育に大きな影響を与えている。PISA「読解力」は、「言語の教育」の立場をとり作品の「批評」なども重視しており、先進的と言える。物語・小説では「技法」「伏線」「構成」「評価」などの要素を明確に位置づけている。小説の前半の導入部の設定が「伏線」として後半の山場でどういう意味をもつかを問う設問、「暗示」を問う設問、作品の最後の一文が「このような文で終わるのは適切か」自分の考えを書く「批評」の設問などがある。
その影響を受けて、二○○七年から全国学力・学習状況調査が始まった。その国語の「B問題」には、たとえば「蜘蛛の糸」(芥川龍之介)を取り上げ、その「三」の場面は「ない方がいい」か「あった方がいい」か、自分の考えを答えさせる設問がある。もちろん「本文中の表現や内容に触れ」ながら理由を述べることという条件がついている。小説を「批評」することを求めるものである。そして、二○○八年の学習指導要領も、PISAの影響を受け「言語の教育」としての立場を一層明確にした。「登場人物の相互関係」「登場人物の設定」「比喩や反復などの技法」「構成や展開」などが明確に位置づいた。また小説の「評価」「批評」も明記された。学習指導要領解説「国語」には物語の構成例として「状況設定―発端―事件展開―山場―結末」といった具体的な記述まで出てきた。
その意味で今、国語科教育は大きな節目を迎えていると言える。そして、これらは本書で私が提起しようとしている「構造」「形象」「吟味」の指導過程・教科内容とかなりの程度重なる。しかし、残念ながらそれらには不十分な点、不徹底な部分も多くある。本書は、それらを一定程度評価しつつも、それらを超えることをめざした。特に、今回の一連の動きの中で大きな役割を果たしているPISA「読解力」を重視しつつ、同時にそれを乗り超えることを強く意識している。
この本の問題提起の骨子と本書の構成
国語科教育について考える時、私は五つの枠組みを用いる。「目的論」「内容論」「教材論」「指導過程論」「授業論」である。国語科でめざすべき目的を論じる「目的論」、国語科で身につけさせるべき教科内容を論じる「内容論」、そのためにどの教材を取り上げどう教材を研究していくかを論じる「教材論」、それにもとづきどういう手順・過程で授業を展開し指導するかを論じる「指導過程論」、そして実際の授業をどう構築するかを論じる「授業論」である。本書で取り上げるのは、そのうちの「内容論」と「指導過程論」である。
「指導過程」は次の三つを提案する。
1 物語・小説の構成・構造を読む指導過程―構造よみ
2 物語・小説の形象・技法を読む指導過程―形象よみ
3 物語・小説の吟味・評価をする指導過程―吟味よみ
はじめに物語・小説の「構成・構造」を読む。次にそれを生かしながら各部分の「形象」や「形象相互の関係」を読む。その際に様々な「技法(レトリック)」や工夫、仕掛けなどに着目する。その延長線上で主題をつかむ。最後にそれらの読みを生かしながら作品の「吟味・批評」を行う―という指導過程である。それらを通して子どもは「読む力」を身につけていく。(ここでの「形象」とは英語の「image」のことである。作品を読むことで立ち上がってくる具体的な姿・行動、形・様子、考え・感情、意味などを含む用語である。)
三つの指導過程を提案する中で、それぞれの過程で子どもに学ばせるべき「読む方法」を提示する。それが「教科内容」である。子どもは「読む方法」を学び習熟させていく中で「読む力」(国語力)を身につける。
「教科内容」としての「読む方法」は次の三つを提案する。
a 構成・構造を読む方法
b 形象・技法を読む方法
c 吟味・評価をする方法
右の具体的なものとしては、たとえば「クライマックス」への着目の方法、作品の鍵となる(重要箇所)への着目の方法、比喩・反復・倒置・体言止め・象徴などに含まれる形象を読む方法、語りの仕掛けに着目しながら形象を読む方法、作品の主題を多様に読みひらいていく方法、別の語り手を想定しながらオリジナルの語りを吟味・評価する方法などである。それぞれの章で「教科内容」として多くの方法(指標)を示したが、実際の授業では学年や学習段階に合わせて、そこから大胆に取捨選択していってほしい。
本書は、大きく二部構成になっている。
第1部では多くの教科書教材を取り上げながら物語・小説の「構造よみ」「形象よみ」「吟味よみ」の「指導過程」と、それぞれの「指導過程」で身につけさせる「教科内容」についての解明を行った。第一章で指導過程と教科内容の大枠を示し、第二章で「構造よみ」について、第三章と第四章で「形象よみ」について、第五章で「吟味よみ」について述べた。
第2部では小学校の代表的な教材「ごんぎつね」(新美南吉)と、中学校の代表的な教材「走れメロス」(太宰治)を取り上げ、第1部の「指導過程」「教科内容」の活用の具体例を示した。これまで解明されることのなかった新しい教材の読みの切り口も示した。
「読む方法」を意識していく中で、物語・小説が、人間や世界の認識の仕方・見方を読者に知らせ感じさせ考えさせる力を、どれほど多様にもっているかが見えてくることと思う。
教材研究の方法、授業づくりの方法も織り込んだ
右記の解明の中で、先生方が物語・小説の教材をどのように研究したらいいかも見えてくる。また、「たぬきの糸車」「スイミー」「お手紙」「ちいちゃんのかげおくり」「モチモチの木」「ごんぎつね」「一つの花」「大造じいさんとガン」「わらぐつの中の神様」「注文の多い料理店」「カレーライス」「やまなし」「少年の日の思い出」「オツベルと象」「走れメロス」「形」「故郷」「羅生門」などの教材を引用しながら具体的に解明を進めた。村上春樹や井上ひさしの小説、さらには「平家物語」「万葉集」なども必要に応じて取り上げた。その意味で「教材研究論」に関わる要素も少なからず含まれている。
さらに実際の授業での指導の在り方―発問や助言の在り方などについても言及している。その意味で部分的に「授業論」にも触れていることになる。
*
本書は、日本教育方法学会、全国大学国語教育学会などの学会での研究、「読み」の授業研究会などの研究会での研究、全国の先生方との共同研究の成果を生かす形で書いた。内容についての責任はすべて阿部に帰するものだが、成果はそういった全国の研究者・先生方との共同研究が背景にある。最後になるが、本書の出版にあたって温かく励まし援助してくださった明治図書の木山麻衣子氏に厚く感謝申し上げる。
秋田大学 /阿部 昇
読んでみると、内容もすごく具体的で分かりやすくすぐに授業に生かすことができる内容ばかりでした。
コメント一覧へ