- はじめに
- (1) 果たして少人数学級はよいか
- (2) 効果のある習熟度別少人数学習集団の編成
- T 算数科における習熟度別授業の効果分析
- 1 何を明らかにするか
- 2 目標
- 3 研究仮説
- 4 研究の内容・方法
- 5 仮説1の考察
- (1) 学習内容は定着したか
- (2) 指導過程に対する児童の反応はどうか
- (3) 算数学習はよくわかったか
- (4) 算数学習への参加意欲はどうだったか
- (5) 授業中の教師との関わりはどうだったか
- (6) 授業の子どもの感想
- (7) 仮説1のまとめ
- 6 仮説2の考察
- (1) 授業中に児童から出された考え方の種類
- (2) 変形の考えはどの程度定着したか
- (3) 比較検討は機能していたか
- (4) 子どもの感想
- (5) 仮説2のまとめ
- 7 成果と課題
- U 検証授業計画
- ――検証授業指導案:第5学年 算数科学習指導案――
- 1 単元名
- 2 単元について
- (1) 教材観
- (2) 児童の実態
- (3) 指導観
- 3 単元の目標
- 4 指導計画(10時間扱い)
- 5 展開
- (1) 事前指導
- (2) 第1時
- (3) 第2時
- (4) 第3時
- (5) 第4時
- (6) 第5時
- (7) 第6時
- (8) 第7時
- (9) 第8時
- 終わりに――新しい学習集団の形成を目指して
- (1) 少人数授業が定着する背景
- (2) 習熟度別授業はなぜ有効か
- (3) 習熟度別授業の課題
- あとがき
はじめに
(1) 果たして少人数学級はよいか
少人数学級をすすめる風潮が強い。少人数学級をすすめない都道府県は遅れているとする言説がある。それほど少人数学級はもろ手をあげて誉められるものだろうか。ただ学級の人数を減らすだけでよいのだろうか。
文部科学省は40人学級は堅持するが,小,中学校では教科別の少人数の授業を推進する方針を打ち出している。
例えば,これまでの学級概念を変えホームルームなどの生活集団と学習集団を区別してもよい。そして,学習集団は教科の特性,児童・生徒の習熟度などに応じて学級規模を少人数化してよい,という。
さらに,国の学級標準は上限と捉え,都道府県がこれを下回る人数の学級編制基準を定めることができる,という学級編制の弾力性を認めた。
これに伴い各都道府県や市町村では少人数学級や少人数学習の試みがすすめられるようになった。埼玉県の志木市のように独自に25人学級を実施しているところが現れている。
その背景には,学級を少人数にすれば,学級崩壊が少なくなり,子ども一人一人をよく見ることができ,学力が身につくという前提があるようだ。
果たしてそうだろうか。小規模の単学級の学校では,これまで25人前後の学級はかなり多くあった。そこでは授業の理解度が大規模の多人数学級より高かった,という報告はあまり見られない。
というより逆のデータも出てきている。手許に子どもを対象にした学級サイズ別に見た授業の理解度を調べた調査結果がある。(「少人数教育について」千葉県教育委員会少人数学級検討会議。平成13年1月)。対象は小中学校生約1200名(学校数15校)である。
それによると,授業の楽しさはどの教科においても大クラス(31人以上のクラス)の数値が一番高かった。
音楽や体育では少人数より多人数のほうが楽しいのはわかる。しかし,国語,算数(数学)では大クラスの子どものほうが理解している。と答えている。
授業の理解度でもやはり小クラス(20人以下)より大クラスのほうが効果があるようだ。これは1学年1クラスの小規模校におけるデータである。
なぜそうなっているか。教師の対応の結果か。学校の教員文化の影響か。そのことの解明は大切であるが,ここでは少人数の学校のほうが授業が楽しく,理解が進むとはいえない,という指摘にとどめる。
この調査結果からも少人数のクラスの授業は,現実の授業スタイルのままでは決して効果がある,とはいえない。40人学級のまま一斉授業のスタイルを保ったままでは効果が薄い,ということである。
また,現場の教師の中では,単学級の少人数の学級では人数が少ないため,子どもの学級内での地位が固定されクラスが活性化されない,という否定的な意見もある。
子どもにしてみれば,学級の人数が多いと様々な人と友だちになれるし,クラス対抗でも他のクラスに勝つことが可能になる。ホームルームなどの生活集団では必ずしも少人数の学級がよいとはいえない,という。
こうしてみると少人数学級はかならずしもばら色とはいえない。何のために学級のサイズを小さくするか,が問われてくる。
その前提になるのが生活集団と学習集団の違いの自覚である。つまり少人数の学習集団は何を狙って編成したのか,の自覚が必要なのである。単に人数を減らせば効果が表れる,という楽観的な考えは慎むべきである。
(2) 効果のある習熟度別少人数学習集団の編成
一般的に少人数の学習集団はよい,とされる。しかしそれはどの教科,どの単元でいえるのか,そしてどの学年から有効か,さらに教師は一人がよいのか,T・Tがよいのか,学習集団はどのように編成すればよいか,という課題に答えきれていない。
千葉県の教育委員会は平成14年2月に「少人数教育について」という報告書を出している。そこでは次のような提案をしている。
1. 小学校低学年では一学級の児童数をできるだけ少なくして指導することが望ましい。
そして,学校に慣れるために生活集団と学習集団を一致させた方が望ましい,とも言っている。実際,小学校の低学年では,38人学級を実施している。
2. 小学校3年から中学生においては,生活集団は今のままの規模を維持し,学習集団は少人数化をはかるのが望ましい。そして,学習集団は児童・生徒の習熟度に応じた自己選択コースを導入するのが望ましい,と提案している。
少人数の学習集団を編成するとき,大きく分けて次の3つのパターンがある。
1つは例えば,40人の学級を名簿の偶数奇数別に機械的に20人ずつに分ける方法である。「機械的な学習集団編成」と呼ぶことができる。
2つ目は,学習するテーマごとにグループを3つか4つに分ける方法である。社会科や理科でよく行われる「テーマ別の学習集団編成」と呼ぶことができる。
3つ目は理解の習熟度別に,例えば理解の早い子どものための「発展コース」,理解の普通の子どものための「標準コース」,理解の遅い子どものための「じっくりコース」を用意する方法である。「習熟度別の学習集団編成」と呼ぶことができる。
千葉県の例を見ると少人数学習は機械的にクラスを分けるのではなく,習熟度別に分けるほうがよい,という。
しかも,習熟度のどのコースで学習するかは教師が決めるのではなく,子どもに決めさせる「自己選択コース」の導入がよい。
子どもにクラスを選択させると「間違った」クラスを選ぶ可能性が高い,という疑問を耳にする。子どもは自分で学習集団を選べない,というのである。
そういう人は子どもを理解していない。例えば,小学校3年生のある子どもは,最初は自分では「発展コース」がよいと思いそこで勉強するが,ついていけないと思うと,「先生,標準コースに変わっていいですか」と言う。
1学期は「発展コース」で勉強したがついていけなく,2学期は「標準コース」に変わり学習意欲が高まったケースがある。子どもは柔軟性を持っている。自分で合っていないと思ったらすぐに変更する。教師・学校の方が子どもに対応できない可能性がある。
また学習集団のクラスを教師が勝手に決めると親の支持を得られない。習熟度別の学級編成の導入について意見を聞くと,きれいに賛成と反対に二極化する。
ところが,子どもにクラスを「選択」させる,というと親の反対は少なくなる。親も子どもが授業に満足すると反対しなくなるのである。
調査結果を見ると,教師が機械的に少人数に編成したとき,確かに学級の子どもの平均点は少し上がる。しかしその中味をよく見ると,子どもの学業成績は中位の子どもたちは伸びるが,上位と下位の子どもの成績は伸びない。この層はあまり変化しないのである。
それが,子どもが決める自己選択コースを導入すると,中位の子どもの成績はもとより,上位と下位の子どもの成績まで伸びているのである。
それはなぜだろうか。これからは私の解釈であるが,機械的に分けたクラス編成では教える教師の指導方法は40人学級のときと変わっていない。
これまでどおり中位やそれより少し下の子どものレベルに合わせた授業を行っている。これだと,成績が中位の子どもは人数が少なくなり,教師との接触や発表するチャンスが増え,成績が上がる。それに対して習熟度別のクラスになると,それを担当する教師は子どものレベルに合った教材と指導方法を考えた授業を展開する。
そうすると,学習につまずきがちで理解の遅い子どもたちも,教師が自分の進度にあった教え方をしてくれるので熱中できる。
日本の教師たちは一斉指導の教授方法に長けている。しかも,それはあくまで平均的な子どものレベルを想定して授業であった。しかし今求められているのは,子どもの学習の程度に応じた少人数の学習集団の編成と習熟度別の教材と指導方法の開発である。
/明石 要一
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- 明治図書