障害児教育にチャレンジ27
重度・重複障害児の自立活動と個別の指導計画

障害児教育にチャレンジ27重度・重複障害児の自立活動と個別の指導計画

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重度・重複障害がやさしくわかる

「自立活動」のポイントの構造的解明,誰もが分かるシンプルな「個別の指導計画の作成」のコツや意義等について,保護者らとの信頼関係づくりなどのエピソードを交え構成。


復刊時予価: 2,442円(税込)

送料・代引手数料無料

電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-147713-4
ジャンル:
特別支援教育
刊行:
8刷
対象:
小・中・高
仕様:
A5判 144頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

まえがき
第1章 第3の教育改革
――今,なぜ「自立」「個」なのか――
第1節 今,世界はピンチ
〈イデオロギーの対立から民族・宗教の対立の時代へ〉
第2節 第3の教育改革
〈外発的日本から内発的日本への脱出〉
第3節 新学習指導要領にみる「生きる力」
〈自ら学び,自ら考え,思いやりのある人間の育成〉
第4節 特殊教育諸学校関係の改善のポイント
〈「自立活動」と「個別の指導計画」の充実〉
第2章 自立活動のポイント
――調和的発達の基盤――
第1節 自立活動をめぐる諸問題
〈機能訓練→養護・訓練→自立活動〉
1 領域の無限性と子どもの主体性
2 興味的自立と経済的自立
第2節 自立活動のポイント
〈調和的発達の基盤を培う〉
1 自立と自立活動
2 L字型自立活動
3 前頭葉の負傷と自立活動
4 カリキュラム上の自立活動の位置付け
第3節 自立活動の5つの内容
〈人間の行動の基本的要素と障害の状態の改善・克服〉
1 健康の保持
2 心理的な安定
3 環境の把握
4 身体の動き
5 コミュニケーション
第3章 個別の指導計画作成のコツ
――シンプル イズ ベスト――
第1節 個別の指導計画作成の基本的視点
〈子どものニーズと情報の開示〉
1 子どもの長所と内容の個別化等への着目
2 簡明な内容と説明合意
第2節 個別の指導計画の概念と計画表
〈内容の個別化とシンプル化〉
1 個別の指導計画の概念
2 個別の指導計画表
第3節 個別の指導計画作成の手順とそのコツ
〈実態把握・保護者の願い・指導仮説〉
1 子どもの実態把握のコツ
2 本人または保護者の願い
3 医療関係者等々の要望
4 指導目標の設定
5 指導仮説(予測・手だて・方法)
6 指導計画(内容と期間)
7 評価と次年度の課題
第4節 個別の指導計画作成の意義と今後の課題
〈専門性の向上とネットワークづくり〉
1 個別の指導計画作成の意義
2 今後の課題
第5節 個別の指導計画作成の未来
〈社会との「架け橋」としての「個別の指導計画」〉
1 メディカルモデルから,子どものニーズに応じた教育への重心の移動
2 文化価値優先から,子どものニーズ優先の教育への重心の移動
3 学校主体から,子ども主体の教育への重心の移動
4 教師集団中心から,保護者等々との協力による教育への重心の移動
第4章 むすび
――まとめと二つのエピソード――
第1節 まとめ
〈生きる力・自立活動・個別の指導計画〉
第2節 二つのエピソードから
〈追い込みと受容〉
資料

まえがき

 教育実践の本質は,超多忙な学校の現場において,子どもがその子なりに成長し,善くなることを願い,アバウトではありますが,日々坦々と継続して子どもたちとかかわるところにあります。

 しかし,新学習指導要領の「自立活動」に,「個別の指導計画」の作成が規定されることによって,それを書くために奔走するような状況が生まれつつあるといわれます。もしそうであるとすれば本末転倒です。しかも,自立活動については,障害の状態の改善・克服は理解できるのですが,発達の基盤の中身が不明瞭でよくわからないという声をよく耳にします。一方においては,第3の教育改革期に突入した今日,教師の主体性,専門性の向上が声高に叫ばれています。

 したがって,多忙な教育現場で今求められているのは,第1に,子どもの実際の指導に役立つような個別の指導計画の基本的な考え方の把握の仕方及び作成手順等のコツの獲得,第2にポイントを押さえた明快な自立活動の原理の理解,第3に,今なぜ「自立」「個」への着目なのか,そのことを新学習指導要領との関連で,教師自らが主体的に把握するところにあると考えます。

 こうした教育実践の本質と現状を踏まえた上で,現場第一主義の立場から,本書の課題は必然的に以下の3点に絞り展開されることとなりました。

 第1の課題は,個別の指導計画作成の背景にある考え方の理解,及び作成手順等々の方法の獲得に関するものです。現在,自立活動や個別の指導計画に関する著書は数多く出版されています。新学習指導要領に基づいた解説や個別の指導計画の形式・様式は,すでに出尽くしたといってよいでしょう。その多くは一言でいうと量が多く細か過ぎるというのです。作成に時間がかかり過ぎて,誰のための指導計画なのか,教育実践の本質を見失う危険性があるというわけです。したがって,本書の第1の課題は,すぐ使えるようなシンプルでコンパクトな個別の指導計画作成についての基本的な考え方,手順等の具体的なコツについて可能な限り明らかにすることに置かれました。

 第2は,自立活動の本質の把握の仕方に関するものです。以前,養護・訓練(現在の自立活動)について,旧文部省のある教育行政官は「化け物みたいなもの」,ある行政官は「太平洋のようなもの」と話していたのを思い出します。教師の間では,「何だかよくわからない」という声が圧倒的でした。今なお,自立活動を訓練と思い込んでいる教師が多いと聞いています。特に,身辺的自立以前の問題を抱えている1歳前後の「感覚運動期」の発達段階にある子どもの自立活動については不透明です。したがって,第2の課題は,重度・重複障害児の自立活動のポイントを構造的・機能的に単純明快に理解する点に置かれました。

 第3は,教師自身の主体性に関するものです。従来の自立活動と個別の指導計画に関するほとんどの著作は,主に研究者や行政官や実践家による学習指導要領の説明と事例集という2本だてによる構成となっています。これらの著作の問題点は,日本の近代教育史における「自立活動」及び「個別の指導計画」の位置付け等,歴史的な視点の欠如にあります。第3の教育改革としての「自立活動」「個別の指導計画」を,空間軸だけではなく時間軸においてどのように把握するかが問われています。それは,教師自身の使命感・モチベーションの喚起と深く関係します。子どもたちの「生きる力」を教師の「主体性・生きる力」との関連において,新学習指導要領の要点を把握する必要があると考えます。したがって,第3の課題は,今なぜ「自立」「個」なのか,近代日本の3つの教育改革の歴史的脈絡における自立活動と個別の指導計画の位置付け及び新学習指導要領のポイントを明確にすることに置かれました。

 以上,現場優先の観点から3つの課題を順番に述べてきました。しかし,読んで理解するとなると,現実的には順番を逆にした方がわかりやすいのではないかと判断しました。そこで,便宜上,順序を逆にして展開することとしました。すなわち,第1章・第3の教育改革―今,なぜ「自立」「個」なのか―,第2章・自立活動のポイント―調和的発達の基盤―,第3章・個別の指導計画作成のコツ―シンプル イズ ベスト―というアプローチの仕方です。第4章では,「小さな親切,大きなお世話」かなと心配しつつ,第1章から第3章までコンパクトに再整理しました。したがって,現場的ニーズという立場から手っ取り早く第4章,もしくは第3章から読まれても結構です。

 また,電車での通勤や,喫茶店でコーヒーを味わいながら手軽に読めるように,イラストや図表を多く活用し,簡潔にまとめるよう努力しました。集中すれば,およそ2時間で一気に読めるはずです。

 なお,本書は,筆者自身が教育現場に入る前までの16年間の教育思想研究と,17年間の養護学校教師としての経験をベースに作成されました。また,認定講習や講演会での受講者の方々からのレポートや談話を通して,ある程度の評価をいただいたことが本書を世に問う大きな契機となりました。

 本書は,拙著「重度・重複障害児の興味の開発法」(明治図書出版・平成14年6月刊行)と姉妹編の関係にあります。併せてお読みになっていただければうれしく思います。

 宮崎直男先生には,前回の出版の時と同様に,内容はもちろんのことテーマの設定等々,親身になってお世話いただきました。また,大阪教育大学の大学院生の西面友史君,玉井光一郎君,平岡洋介君,柳瀬育子さんには,いろいろと手伝っていただきました。深くお礼申し上げます。

 最後になりましたが,本書の企画・作成の過程において,特別なご配慮をいただきました明治図書出版株式会社並びに編集部の三橋由美子氏に,心より感謝します。


  平成15年1月   著  者

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      明治図書

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