- はじめに
- 第1章 フレームリーディングでつくる国語の授業
- 一 説明文を読むことは、謎解きすることである
- (1)これからの説明的文章の読みの授業をどのように考えるか
- (2)フレームリーディングの手法で読む
- 二 『すがたをかえる大豆』をフレームリーディングで読む
- (1)全文の音読
- (2)「数える」ことで内容をつかむ
- (3)「数える」ことで筆者の意図をつかむ
- (4)創造的・論理的思考を活性化させるフレームリーディング
- (5)多面的・多角的に情報を読むということ
- (6)情報の構造化を可能にするフレームリーディング
- (7)必要に応じて詳細に読む
- (8)あらためて、全体を見渡す
- 三 説明的文章の授業 三ステップ
- 第2章 説明文教材をフレームリーディングで読む
- 一年生
- じどう車くらべ
- 問いと答えのつながりをとらえる
- どうぶつの赤ちゃん
- 事例の対比をとらえる
- 二年生
- たんぽぽのちえ
- 順序と根拠をとらえる
- どうぶつ園のじゅうい
- 事例の順序と意味をとらえる
- 三年生
- めだか
- 二つの本論をとらえる
- こまを楽しむ
- 本論と結論のつながりをとらえる
- 四年生
- アップとルーズで伝える
- 段落相互のつながりをとらえる
- ウミガメの命をつなぐ
- 大切な言葉(キーワード)を整理しながら要約する
- 五年生
- 生き物は円柱形
- 大切な言葉(キーワード)から筆者の主張をとらえる
- 和の文化を受けつぐ―和菓子をさぐる―
- 論の構成から筆者の主張をとらえる
- 六年生
- 『鳥獣戯画』を読む
- 筆者像と書きぶりのつながりをとらえる
- 自然に学ぶ暮らし
- キーワードを具体化することで筆者の主張をとらえる
- おわりに
はじめに
一 フレームリーディングが育てる思考力
(1)国語科の現状を打破するために
フレームリーディングが生み出された背景は大きく三つあります。
一つは、時間数への対応です。現在の国語科の授業時数は、低学年週九時間、中学年週七時間、高学年週五時間です。教科書を見れば分かるとおり、学年が上がるにつれて教科書に書かれる文字は小さくなり、読まなければならない一つ一つの文章は長くなります。低学年では多少ゆとりをもって言語活動を展開できても、高学年になるとそれだけの時間はありません。低学年と同じような授業の進め方をしていては、授業時数が足りなくなるのは自明のことです。学年の発達段階に応じた、新しい授業スタイルが求められるのは当然のことなのです。
二つ目は、全国学力・学習状況調査などへの対応です。調査では、初見の、ある程度長い文章を短い時間で読み、内容をとらえて問題に答えていかなければなりません。従来のように、授業の中で場面ごと、段落ごとに丁寧に読んでいたのでは、調査問題に対応できるような長文読解力は身につきません。短時間で長い文章を読み、ポイントをとらえる力をつけるような授業が必要です。
三つ目は、読書への接続です。日常の読書生活では、文章を丸ごと読みます。決して場面ごと段落ごとに読もうなどとは考えません。国語科の授業が、日常の言語生活や読書生活に接続しないというのでは、時間をかけて行っている意味がありません。
こうした現状を打破するために、今までとは違った授業スタイルを考えざるを得なくなりました。それがフレームリーディングです。
(2)フレームリーディングが育てる論理的思考力
ところが、フレームリーディングのもっている可能性はもっと奥が深いことが、実践しながら分かってきました。
その一つが、フレームリーディングによる思考力育成という可能性です。
フレームリーディングの手法は、大きくとらえると、次のような思考のプロセスになります。
「俯瞰―分析―統合」「仮説―検証―再構築」「帰納―演繹」
フレームリーディングは、まず第一段階で文章全体を見渡します。説明文では、どこに大事なことが書かれているか、つまり「頭括型」か「尾括型」か「双括型」か、といったような視点で、内容を大きくとらえます。これが「俯瞰」です。次に、第二段階で、具体的な事例を読んだり、言葉と言葉、段落と段落とのつながりを見つけたりします。これが「分析」です。そして、その分析をもとに、第三段階のフレームリーディングとして、それぞれの段落をつなぎ合わせます。こうして筆者の意図や主張をとらえます。これが「統合」です。
別の視点でフレームリーディングをとらえると、第一段階で、この文章の一番大事なところはどこか、「仮説」を立てます。それを、第二段階のフレームリーディングで「検証」し、自ら立てた「仮説」について確かめます。その上で、第三段階のフレームリーディングで文章全体を「再構築」するのです。「仮説」が正しかったとしても、軌道修正が必要だったとしても、より深い次元で、その文章を「再構築」して理解することになります。
同じように、「帰納」的な思考法として、具体的な事例をとらえることから読みの行為を始め、各段落の内容をつなぎ合わせることで筆者の結論や主張を導くという流れで読み進める方法があります。反対に、「演繹」的な思考法で、大事なところ、筆者が一番主張したいところから、それにつながる具体的事例へとつなげていく流れをつくることもできます。
フレームリーディングによって育てることのできる思考法は、教材の特性によって多様性をもちます。柔軟性のある頭をつくるという言い方もできるのかもしれません。
さらに、これからの教育では、教科の本質を大切にしながらも、その教科の枠を越えた汎用性のある資質・能力を育てることが求められています。国語科は、言葉そのものを学びの対象にするため、子どもの資質・能力を育むための基礎となる、重要な教科として位置づけられます。
フレームリーディングを通して、次のような論理的思考力を育むことができるでしょう。
「問い―答え」「具体―抽象」「原因―結果」「比較(対比・類比)」「包含―対立」……
「問い―答え」の関係をとらえるような授業は、従来も行われてきています。しかし、どうしても内容の理解に重点が置かれ、こうした論理的な思考の要素となる力に対する意識が前面には出てきませんでした。これらの思考力の分類・整理が必要となるでしょう。さらに、そうした力を国語科の授業実践の中で、どのように育てるのか、どのような授業をすればよいかが模索されることになります。それに答える一つの手法が、フレームリーディングであると考えています。
二 フレームリーディングのもつ可能性
この後の、各学年の授業実践のページを開いてみてください。一見同じような発問、同じような展開に見えるものもあるかもしれません。また一方で、その教材ならではのアプローチや発問で、文章に切り込んでいると感じるものもあるでしょう。
フレームリーディングには、授業方法の公式はありません。一つの文章に対する読み方は無数にあるとも言えます。大切なことは、子どもが文章に隠されている「論理=つながり」を掘り起こし、つなぎ合わせるという発想です。その発想を実践に活かすためには、教師の教材研究がもっとも重要になります。フレームリーディングは、教師の柔軟な発想によって、無限の可能性をもっていると思っています。
筑波大学附属小学校 /青木 伸生
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