- プロローグ
- 第1章 だれもが幸せへと歩む学校の「学び方」
- 「なんか、つらそうだよ」
- 「好きなもの」から始まる授業との出会い
- 「学びのミライ地図」を実践
- 「学びのコンパス」を考案
- 学び方は生徒が自分で決める
- 教師は生徒を「信じて待つ」幸せな職業
- 大人がスマホを禁止しても「自律」するわけではない
- 「授業中に守ってほしいルールは一つだけだよ」
- 中学1年生時は試行錯誤する期間
- 声が出なくなった!? フレッシュマンJr・キャンプ
- 生徒が急成長! 4Cスキル研修
- 才能が花開くコラボレーションウィーク
- 春期講座でチャレンジしたZINEづくりワークショップ
- 高校生になったら自分で「時間割」を組んで、大学で学ぶ
- 各界のトップランナーがやってきた!
- 生徒たちの可能性を広げる総合的な探究の時間
- 企業と協力して探究プロジェクトをつくる楽しさ
- 次年度の探究プロジェクトを自分たちで「つくる」
- 異学年と学ぶ対話創造型授業
- 第2章 だれもが幸せへと歩む学校の「関わり方」
- 学校は人を幸せにする場所
- 生徒の自律をうながす支援
- チーム担任制で生まれた「担任」を楽しむ余白
- 「みんなで支えるからね」
- すべての生徒が学び続けられる環境を目指して
- 生徒の「とんがり」を大切にする
- 「受けに立つな、横に立て」 幸せを感じる保護者との対話
- 体育祭でマイクを握るのは生徒だけ
- 「この学校は君たちのものだよ」を体現した創英祭
- 生徒たちに「伴走する」ということ
- 「生徒自治」を支援していく
- これからの学校に欠かせない「対話」のスキル
- 第3章 だれもが幸せへと歩む学校の「働き方」
- 明るい時間に退勤できる幸せ
- シフト制による完全週休2日制
- 職員会議は合意形成をするときだけ
- ゆとりのある持ちコマ数
- 学びの楽しさを知る「自宅研修」
- ゆとりが生まれる年間行事予定
- 「だれ一人取り残さない」部活動の実現に向けて
- 自分らしい生き方が前提
- エピローグ
プロローグ
「学校」って、いったい何だろう。
子どもたちにとって「学校」とは、どういう場所なのだろう。
教員として学校で働くようになって15年目を迎え、あらためて「学校」とはどのような役割を果たすべき場所なのかについて考えるようになりました。
そして次第に、自分なりの一つの答えが見えてくるようになりました。
「学校とはみんなが幸せへと歩いていく場所≠ナある」
これを聞いて「いやいや自分の考えは違うよ」と思う人もいるでしょうし、「もっと学校とはこうあるべきだ」というお考えをもっていらっしゃる人もいることでしょう。
あくまでも一つの考え方ですので、正解は他にもあると思います。
私が、学校が「みんなが幸せへと歩いていく場所」だと思うようになった背景には、教員歴12年目で東京都の公立中学校の教員を辞め、神奈川県の私立学校である横浜創英中学・高等学校で働くようになったことがあります。
自分が勤めてきた学校の現場しか知らなかった私にとって、全国の中でも先進的な教育改革が行われている横浜創英での教員生活は、毎日が驚きと発見の連続でした。その内容については、この後の本章で詳しく綴っていきますが、これまでの教育観や概念を覆すような新たな学びがたくさんありました。
そして同時に「教育」という営みがいかに幸せなものであるか、「教員」という仕事がどれほど幸せな職業であるかということを、以前にも増してあらためて強く実感するようになりました。
次期学習指導要領は間もなく完成に近づき、2030年度からは新しい学習指導要領が順次実施されていきます。これまで私は「学習指導要領」や国の教育方針というものは、文部科学省や中教審、いわゆる「お上」と言われるような立場のある一部の人たちがつくっているものだと思っていました。そして、現場にいる私たち教員は「お上」から示された学習指導要領に沿って、適切な教育が子どもたちになされるように働くことが使命だととらえていました。
しかし、今は違います。
今の私は、「次期学習指導要領をつくるのは自分たちだ」という思いで、日々の学校改革に取り組んでいます。次の指導要領改訂にあたって、どのようなことが論点となり、どのような教育活動が取り入れられていくのか。常に子どもたちにとっての最適解を探しながら、目の前の子どもたちと楽しく過ごす毎日です。
学校改革について語られるとき、その多くは改革の指揮をとってきた管理職の目線で語られることがほとんどです。書店に行っても、実際に経営に携わっている校長や、リーダー目線で書かれた本はたくさん並んでいるものの、現場の最前線で働く「一般教員」の目線で学校改革について書かれた本はあまり見かけたことがありません。
「校長は素晴らしいことを言っているけど、実際はどうなの?」
「本当にうまくいっているの?」
「組織の中で働いている先生たちはどう感じているの?」
その「実際のところ」こそが、みなさんの知りたいところなのではないかと思います。
ですので、今回は私が「一人の教員」として、現場で子どもたちと奮闘しながらフラットな目線で見た、学校改革の様子についてルポルタージュを書くような感覚で綴ってみました。
私が横浜創英に着任してからの3年間には、さまざまな出来事がありました。
日々、目まぐるしいスピードで教育改革が行われていることはもちろん、工藤勇一元校長が退任し、本間朋弘校長率いる新体制でのスタートを切ることによって、さらなるアップデートを遂げるなど、学校の「よい変化」を当事者として目の当たりにしてきました。
学校の外に出ると、よくこんなことを聞かれます。
「工藤元校長が退任されて、横浜創英は大丈夫なんですか?」
「校長がかわると、学校の経営方針もかわりますよね?」
「今、横浜創英の学校改革はどうなっているんですか?」
元校長がメディアなどで注目される存在だっただけに、周囲の方が心配してくださる気持ちもよくわかりますし、いまだに気にかけていただけることは大変ありがたいことです。
もちろん、旗振り役であるリーダーの存在は大きいですし、土壌に種を蒔いてくれる人が必要なことは言うまでもありません。ただ、その土壌を耕し、種を愛でて日々水やりをし、やがてその種が花を咲かせ、実を結ぶように育てていくのは、私たち教員や生徒一人一人に他なりません。
ですので、すでに教員や生徒一人一人が「だれかのせい」にすることなく、「学校を変えるのは自分たちだ」という「自律」のマインドをもっている横浜創英では、校長がかわったからといって学校改革が止まることはないですし、むしろ新体制になったことでよりいっそうのクリエイティビティが加わり、日々進化を遂げているというのが現状です。
本書を通じて、すでに次期学習指導要領に近い「学び方」が実現している横浜創英の「学び方」や「関わり方」、「働き方」の一端に触れることで、「これはうちの学校でもできそうだな」「この部分はもっとこう工夫すると、自分の学校もよりよくなりそうだな」と、新しいアイディアを引き出していただけたら嬉しいです。
この本に書いていることは、あくまでも「一つの事例」にすぎません。
また、ここに綴られている学校の様子は、時々刻々と進化をし続けている横浜創英の、数あるドラマの中のわずか一部分にしかすぎません。なぜなら、これを書いている今も、横浜創英は目の前にいる生徒に合わせて、常にアップデートを重ねているからです。
その中でも、私が公立学校から転職したばかりのまっさらな視点で見たり体験したりした、ありのままを綴ってみました。
私の価値基準となる感覚は、東京都の公立学校で12年間働いた経験、そして東京教師道場や公的な研修会などで専門性を磨かせていただく中で培われたものが土台となっています。公立学校と、私立学校と、どちらも経験したからこそ、それぞれのいいところや改善点も感じられました。
ただ、この本で伝えたいのは、決して「どちらの教育のほうがいい」というような二元論的なことではありません。この本をきっかけに、公立学校も私立学校も、すべての学校が垣根を取っ払い、未来に向けて新たな教育のあり方をみんなで探っていくことこそが本当の目的です。
振り返れば、私も恥ずかしながら、公立学校に勤めていた当時は、他校の先進的な取り組みを耳にしても「だってあの学校は私立だもの。私たちの勤める公立学校とはわけが違うよ」「あの学校だからできたに違いない。うちの学校には無理に決まっている」と決めつけ、心の中で壁をつくってしまっていたこともありました。
環境によって物理的に可能なこと、不可能なこと、グラデーションがあるのは言うまでもありませんし、それぞれの学校に強みや課題があるのも当然です。
しかし、どこにいたとしても目の前に子どもたちがいる限り、そしてそこが「学校」という場所である限り、私たちが大切にしていかなければならない本質的なものは同じなのではないでしょうか。
「うちの学校にはできっこないよ」
「どうせ無理だよ」
思いきって、そんな言葉を一度手放してみませんか。明るい未来を遠ざけてしまう言葉たちです。
縁あって、この本を手に取ってくださったみなさんには、ぜひ「公立だから」「私立だから」「あの学校だから」という先入観をいったん取っ払ったうえで読んでいただき、「学校の役割って何だろう?」「自分にできることは何だろう?」という視点で、何か一つでも新たな行動のきっかけを見つけていただけたら嬉しいです。
令和7年7月 /前川 智美
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明治図書

















