障害児教育にチャレンジ25
重度・重複障害児の興味の開発法
四つの感覚と四つの興味

障害児教育にチャレンジ25重度・重複障害児の興味の開発法四つの感覚と四つの興味

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「日本の教育現場に『教育不可能児』なる概念は現実に通用しない」の信念のもと,重度・重複児の興味を開発するための教育内容・方法等を実践的研究に即し明らかにした。


復刊時予価: 2,475円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-132216-5
ジャンル:
特別支援教育
刊行:
9刷
対象:
小・中・高
仕様:
A5判 148頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

まえがき
序章 興味の開発に関する背景
1 問題の所在
――今,なぜ興味の開発なのか
2 本実践的研究の意義
――未開拓の分野としての興味の開発
3 興味の開発のための実践的研究の方法
――「興味とは何か」と「興味をどのようにして開発するか」
4 興味の構造
――原興味・現興味・方法的興味
5 四つの原興味と指導仮説
――探りたい・生存したい・表したい・人とかかわりたい
6 指導方法上の配慮事項,評価等々
――情緒の安定・受容とゆさぶり・四つの感覚・還愚の思想
7 本書の構成
第1章 興味の開発に関する指導の基本
1 辻村報告書
――重度・重複障害児教育のスタート
2 重度・重複障害児の定義
――興味の開発と支援の必要な子どもたち
3 学習としての感覚運動あそび
――感覚・運動・あそび
4 感覚運動教育の系譜
――原興味と諸感覚への着目
5 興味の開発と生きる力
――教化から支援へ
6 興味の二面性
――つくられてきた興味とつくられていく興味
7 デューイの興味論の限界
――興味の開発という視点の欠如
8 デューイの興味論の克服
――生存的興味と構成的興味
9 実践的研究の方法
――社会科学としての教育方法
10 重度・重複障害児の研究方法
――日常の継続的蓄積としての教育実践的事例研究
第2章 興味の開発に関する指導の実際
1 好きなところへ歩いていきたいマヤちゃんの場合
――主に探求的興味の開発に視点を当てて
対象児のプロフィール/ かかわり当初の主な様子/ 問題の整理/ 指導仮説/ 指導の実際/ 結果と考察/ <要約>
2 おいしいものをたくさん食べたいリナちゃんの場合
――主に生存的興味の開発に視点を当てて
対象児のプロフィール/ かかわり当初の主な様子/ 問題の整理/ 指導仮説/ 指導の実際/ 結果と考察/ <要約>
3 楽しく体操したいユリちゃんの場合
――主に表現的興味の開発に視点を当てて
対象児のプロフィール/ かかわり当初の主な様子/ 問題の整理/ 指導仮説/ 指導の実際/ 結果と考察/ <要約>
4 人とかかわりたいチエちゃんの場合
――主にコミュニケーション的興味の開発に視点を当てて
対象児のプロフィール/ かかわり当初の主な様子/ 問題の整理/ 指導仮説/ 指導の実際/ 結果と考察/ <要約>
第3章 むすび
1 まとめ
(1) 好きなところまで歩く(歩行距離が10mから200m)
(2) おいしくたくさん食べる(拒食・偏食の状態からの摂食)
(3) 楽しく体操する(泣いて拒否から自らすすんで体操)
(4) 人とかかわる(消極的なかかわりから仲間とあそぶ)
2 教育実践的事例研究を通して得られた知見
(1) 四つの興味の開発を目的とした指導及び方法的興味の妥当性
(2) 聴覚・触覚を基盤とした感覚運動あそびの適切性
(3) 情緒の安定を基盤とした指導方法(受容とゆさぶり)の有効性
(4) 形態的集団の持つ雰囲気の教育的意義
(5) 応答する環境としての教師は興味(教材)の対象
(6) 物的環境としての学校及び周辺の自然環境の教育的意義
3 今後の課題と展望
(1) 子どものニーズへの重心の移動と大人の発想の転換
(2) 個々の子どもの興味のプログラムの作成と事例の蓄積
(3) 自立の源泉としての「興味的自立」の位置付け
(4) 従来の学校教育観・子ども観・カリキュラムの見直し
(5) コンピュータの活用と興味の開発
(6) 大人同士の連携と還愚の思想
(7) 教師の専門性の確立・他の諸科学から学ぶ
(8) 生命(人類)は多様な遺伝子によって維持されるという思想の徹底と子どもの自立即大人の自立という思想の定着

まえがき

 筆者が教職のスタートラインについたのは,養護学校教育の義務制が実施された昭和54年4月でした。それまでは様々な職種を経験しながら,主にデューイと夏目漱石の思想の研究に打ち込んでいました。三十路を越えた障害児教育の素人として,挫折しそうになったことが何度かありました。

 最初は,青森県のある養護学校に勤務した時です。ダウン症の子どもと初めて出会いました。授業では言葉をうまく伝えられないし,板書して振り向くと何人かの子どもはその席にいませんでした。溜息の連続でした。

 2度目は,3年後に神奈川県のある養護学校に転勤した時でした。発作で倒れる子どもや自傷行為の子どもと出会いました。目の前には,発達段階が1歳前後の,従来の学校教育では想像できないような子どもたちがいました。いつも右往左往している自分がいました。退職を真剣に考えました。

 周知のように,学校教育の対象は原則として6歳以上の発達段階にある子どもたちが想定されています。話したり,動き回ったり,集団生活が可能な子どもたちです。したがって,興味は授業の始まり,途中等々,かれらを授業に引き付けておくための方法として把握されていたものと思われます。

 しかし,たまたま脳に故障が生じ,1歳前後の感覚運動期の発達段階に停滞せざるを得ない状況に置かれた子どもたちにとって,興味は手段として活用する以前の問題です。近代教育が始まって以来130年余,新たな課題がかれらによって提起されたといえましょう。

 生まれてきて本当に良かったと感じ,そして学校が楽しくなるような興味の対象を少しでも増やせないだろうか。少ない興味を授業の手段として活用しつつ,新たな生き甲斐としての興味を育てるにはどうすればいいのか。本書は,こうした課題に応えようとするものです。したがって,筆者自身の17年間にわたる養護学校の日常的な実践は,子どもの興味を開発するための指導内容・方法等々の開発・促進に全力投球されることになりました。

 いつも挫折しそうになってしまう過去の自分を思い返しながら,本書は作成されました。筆者は,少しでも現場の先生方の励みとなるような内容に仕上げたい,そして普段行っている実践に対して,これまで以上の自信を持っていただきたい,と念願しました。ちょっとおせっかいかなと懸念しつつ,全体のイメージが把握できるようにと「目次」の活字をできる限り多くしました。「本書の構成」「要約」の項目,「イラスト」も活用しました。

 振り返ってみると,本書に登場する4人の子どもたちとは,一斉指導・個別指導という形態において,常にマンツーマンでかかわりました。ひとり平均2年間ですから,4人の指導時間の合計がおよそ6000時間ということになります。その膨大な蓄積時間に驚かされます。周囲の仲間の実践者も同じように「子どもに善くなって欲しい」と願いつつ,日々坦々と実践していたわけです。改めて教育現場の仕事の重み,尊さを実感しています。

 「興味とは何か」という基礎的研究も大事ですが,子どもや保護者,実践者にとって最も切実な問題は「どのような教材を提示し,どのようなかかわり」をすれば「興味が育成されるのか」ということです。筆者と同じような悩み・テーマをお持ちの現場の教師の方々,保育士や幼稚園の先生,保護者,そして学生諸氏のお役に立てればうれしく思います。

 宮崎直男先生には,本書の出版やテーマの設定等々,多岐にわたって本当にお世話になりました。また,大阪教育大学の大学院生の西面友史,玉井光一郎,両君にはいろいろと手伝っていただきました。お礼申し上げます。

 最後になりましたが,本書の企画・作成に関して,特別なご配慮をいただいた明治図書出版株式会社並びに編集部の三橋由美子氏に心より感謝します。


  平成14年4月   著  者

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      明治図書

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