- 発刊に当たって
- 学校紹介
- 第1章 「生活を楽しむ」って何?
- 1 「生活を楽しむ」は発想の転換
- 2 「自分づくり」と「個別の指導計画」
- 3 保護者とともに
- 第2章 小学部編
- 〜自分っていいな,友だちっていいな,何でもチャレンジ〜
- [小学部の教育について]
- 1 「だんだんらんど」であそぼう(合同生活単元学習)
- *日づけカレンダーで見通しバッチリ!!
- 2 ザ・授業分析(クラス生活単元学習・低学年)―本当に支援になってるの?
- *遊んだつもりが劇づくり
- 3 「からだっていいな!」(クラス生活単元学習・中学年)―自分っていいな,友だちっていいな
- *手づくりの本は宝物
- 4 ♪楽しい歌で宿泊学習もルンルン♪(クラス生活単元学習・高学年)
- *そんな軽トラ男くんにのせられて
- 5 やるぞ! ぽんぽんホッケー!!(合同体育)―授業づくりの方法っていろいろあるものです
- *キャンプだ・ホイ!しゅくはく
- 6 今日はどれにしようかな?(個別の課題学習・中学年)―思わず夢中! 5分でできる課題グッズ
- *せんせー!今日,へんしんある?!
- 7 夏といえば「なつまつり」!(クラス・合同生活単元学習)―思いきり,夏を楽しもう
- *わくわく楽しいゲームグッズ大集合
- *おやつにも一工夫
- 第3章 中学部編
- 〜見つけよう,拡げよう,深めよう〜
- [中学部の教育について]
- 1 ダンス! ダンス!(からだづくり)―身体も心もリズムにのって
- 2 おいしい笑顔マクドナルド(やったねタイム)―マクドナルドで見えてきたこと
- *「やってみたい」を大切に
- 3 本日開店,クッキーはいかが(クラス生活単元学習・3年)―なんでもチャレンジ「中3ふれあい喫茶」
- 4 心に馬を飼っていますか(生活単元学習)―乗馬セラピーへの道のり
- *心の安全基地,ありますか?
- 5 こんにちは 赤ちゃん(クラス生活単元学習・1年)―ぼくはパパ,わたしはママ
- *「見える力,見えない力」
- 6 チケットはロッピーで(クラス生活単元学習・3年)―これがロッピー練習機
- 7 レッツ フィッシング!(クラス生活単元学習・1年)―大きなサメを釣るぞ 余暇を楽しもう
- 8 シャカ シャカ ポコポコ トントントン!(合同音楽)―みんなで音のカーニバル
- 9 ホロッとストーリーランド
- *生活の主人公に
- 第4章 高等部編
- 〜思いを広げ,喜びをみつけ,自分の足で歩こうよ〜
- [高等部の教育について]
- 1 おいしい焼きそばをつくろう(生活一般・1年)―プロの味を確かめよう
- 2 楽しもう!「校内宿泊学習」(生活一般・1年)―幸雄君とすごした2日間
- 3 自分の家の焼きめしを紹介しよう(生活一般・1年)―家庭を巻き込んだ調理実習を
- 4 思い出に残る旅をしよう〜修学旅行〜(生活一般・2年)―修学旅行の新たな試み
- 5 ぼく・わたしの住んでいるまち(生活一般・3年)―「一ぺんきんさいな! ぼく・わたしのまちに」
- 6 ぐいっとひっぱれ,余暇活動!! (生活一般・3年)―おもしろ実践集2選!!
- 7 オリエンテーリングで課題発見!! (生活一般・3年)―校内から校外への広がりをねらって
- 8 わあっ,できちゃった やったあ!(総合的な学習の時間・1年)―高1農園・花壇づくりの取り組みから
- 9 こんにちは,牛乳パックの回収に来ました(総合的な学習の時間・2年)―広がれ,ふれあいの輪
- 10 農園 甘いか? しょっぱいか?(職業)―「働く」を楽しむ姿を求めて
- 第5章 学校編
- 〜進路・学校行事・保健室より〜
- *進路を考えるT
- 1 子どもたちが主役で,学校行事が大変身!!―運動会はもう古い/卒業式も大変身!
- 2 附養喫茶でお茶しませんか?―保健室は喫茶店
- 3 あの手この手の肥満対策―地域連携で取り組む肥満児作戦
- 4 「おはよう」は健康のバロメーター
- 5 心が通い合う保護者同士に―仲間の輪を広げてくださいね
- *進路を考えるU
- 第6章 実践をどう読み解くか
- 1 「生活を楽しむ子」をはぐくむ学校づくり
- 2 系統性・科学性をも追究する経験主義教育の試み
- 3 パワフルな子ども(青年)像としての「生活を楽しむ子」
- 4 発達への自己運動を生み出す「授業づくり」
- あとがき
- ※本文中に出てくる児童・生徒名は,すべて仮名です。
発刊に当たって
周知のように,近年地域や家庭の教育力の再生と閉鎖的な社会から「開かれた学校づくり」のために学校評議員制度を導入するなど学校改革の動きが盛んである。しかしながら,「開かれた学校」は,何も地域や保護者たちに「校門」を物理的に開放することによって実現されるはずもなく,まず何よりもそこに学び,生活する主役である子どもたちにとって心や身体が解き放たれる空間であることが,第一歩である。
刺激―反応といったパターン化した教授方法や「教え込む」ことに固執した旧来の教師主導の教育から脱しなければ,「自ら学び,自ら考え,主体的に判断する」生きた知力の発展は望めない。こうした現実認識から,本校では平成10年度から研究主題として「生活を楽しむ子をめざして〜個別の指導計画をもとにした授業づくり〜」をかかげ,「生活を楽しむ」を中心とし,以下の4つの視点のもとに4年間にわたり研究を進めた。そして,個別の指導計画を柱に授業づくりのみならず,教育課程全般にわたって見直す作業を進めてきた。
(1) 子ども(児童生徒)を主体にした「授業づくり」
教師主導の授業ではなく,子どもたちの発達のプロセスを主体的,能動的,意欲的な過程であるととらえ,障害のある子どもたちを複眼的に理解しようとする。そして,支援するための発達診断ならびに個々のニーズやQOL(Quality of Life)の理念を実現するために個別の指導計画や本校の独創的な段階別教育内容表を軸とした授業づくりを推し進める。
(2) 日々の生活を楽しむ
学校を教授学校としてではなく,学習をつつみこんだ生活学校としてとらえ,子どもたちが楽しく学習活動を展開し,将来を切り拓く礎とするために,単なる授業という枠内にとどめるのではなく,さまざまな行事を含め,これまでの学校を見つめ直し,子どもを主体にした「生き生きとした」学校づくりへと改造を推し進める。
(3) 家庭や地域・社会への拡がりを視野におく
学校の生活のみならず,家庭・地域・社会にも眼を向け,子どもたちの生活の現状をトータルに分析し,個々の発達に応じ地域や社会と関わる多面的な校外学習プログラム(行事・教材・学習内容など)を適切に組織することによって,行動や経験の量や幅ならびに質を高め,生活を豊かにする力を拡大していく。
(4) 人格的自立とQOLを追求する
生活の質を高めるために学校生活においてさまざまな日常の活動を選択し,積極的に参加し,自己決定,意思表示のできる「人格的な自立」をめざすことによってQOLを高めようとする「生きる力」が培われる。
ここで“社会的自立”ではなく,キーワードとも言える“人格的自立”という実践理念に求めた背景には,「今まで社会的自立をめざして生活する力をつけていくことをめざしてきた」が,「さらに,内面的に楽しむ,楽しみつつ内面から力を出そうとする子どもたちを育てていきたい」という本校の願いが込められている。
一般に「自立」という場合,しばしば社会的自立,生活自立などといわれるが,とかく依存と対立する概念として解釈されがちである。しかしわれわれは,実生活レベルでさまざまな活動集団(家族・学校・職場・地域・社会など)や虚構の活動集団(=あそびや文化など)との交感の過程で充実した依存と共生が相補的な関係を切り結ぶなかで身体的,情動的,認知的な能力をもって能動的に働きかけ,個の質的な発達を遂げ,成熟し,主体としての自立(アイデンティティー)を確立していくものと考える。
子どもたちがさまざまな学習の過程を仲立ちに教師集団の支援のみならず,学級集団や校外の生活集団と深く関わり合いながら,適切な依存と共生,そして自立の関係をスパイラルに織りなすことによって主体としての人間的な発達を遂げながら,自らの生活空間を拡大させ,享受していく。それは,言い換えれば依存の質的な発展と充実を意味しており,QOLを高めるという教育課題や社会理念としてのノーマライゼーションに迫る筋道ではないか。
こうした授業づくりを包み込んだ学校づくりの実践を押し進めるなかで教師たちの既成の人間観,教育観,学校観さらには授業実践に対するある意識改革をもたらすのみならず,子どもたちや保護者たちの学校に対する見方にある変化をもたらす一つの契機になったことだけは確かである。
本書は,本校の創設以来,24年という長きにわたる実践研究の蓄積のうえに実現したものであり,この度,こうしたささやかな実践の足跡を世に問うことができたことを素直に喜びたいと思う。さらには障害児教育をいささかでも前進させるうえで一つの実践例になりえれば幸いと考えるが,その評価は,他日を期さなければならない。
ここに至るまでには機会ある毎にともに実践・研究したかつての同僚や公立学校の先生方,保護者の協力のほか,大学・学部と連携した共同研究の推進が指摘されるなか,鳥取大学障害児教育学教室の諸先生方から示唆に富むご教示をいただくことができた。また本書の出版に快諾いただいた明治図書ならびに編集部の三橋由美子氏には大変お世話になった。
ここに改めて謝してお礼を申し上げたい。
2002年2月 校長 /入江 克己
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- 明治図書