- プロローグ
- 序章 なぜ「働き方改革」はうまくいかないのか
- 1 「働き方改革」はなぜ必要なのか
- 2 働き方を四象限で分析する
- 3 目指すのは「働かない学校」ではない
- 4 「どうせ変わらない」の壁を破れ
- [Column 半径5メートルの「生の声」] 働き方改革の原動力は「働きたい改革」
- 第1章 ミドルリーダーの役割
- 1 余白なき学校で、誰が若手を育てる?
- 2 ミドルリーダーは「役職」ではなく「自覚」
- 3 教わったように教えない
- 4 OJTは「任せる」前に「見せる」から始まる
- [Column 半径5メートルの「生の声」] 自分の軸足をぶらさない
- 第2章 仕事を分類する
- 1 教務主任だけが知っている「学校の裁量」
- 2 ゼロリスク思考を捨てよ
- 3 やめられない仕事は「向き合い方」を決める
- 4 やめられる仕事は「合意形成」で決まる
- [Column 半径5メートルの「生の声」] 「根回し」が嫌いだ
- 第3章 提案と交渉
- 1 提案とは「願い」ではなく「責任」
- 2 職員室の対立は「正義 対 正義」
- 3 交渉力の正体は「信頼貯金」
- 4 提案を通せる人 通せない人
- [Column 半径5メートルの「生の声」] 「業者の方ですか?」
- 第4章 職員室の空気づくり
- 1 職員室の空気は自然発生しない
- 2 人間関係は、自分のふるまいを映す鏡
- 3 同僚性は「仲のよさ」ではなく「支え合う力」
- 4 全員が3月まで完走できる職場をつくる
- [Column 半径5メートルの「生の声」] 「チーム○○小」であるということ
- 第5章 若手育成
- 1 若手を育てることが、最大の働き方改革
- 2 若手の授業力は、職場の対話で伸びる
- 3 助言は「今の正解」ではなく「未来の武器」を渡す
- 4 若手が自走するために、再現性を磨く
- [Column 半径5メートルの「生の声」] ほしがってくれる若手
- 第6章 若手を守る職場づくり
- 1 子どもとの関係づくりで孤立させない
- 2 職員室の「普通」から守る
- 3 保護者対応の最前線に一人で立たせない
- 4 若手を守ることは、学校の未来を守ること
- [Column 半径5メートルの「生の声」] チューニングの大切さ
- 第7章 自分を育てる目標設定
- 1 目標は自分との小さな約束
- 2 SMARTゴールで考える
- 3 「立場」で働くと、見える景色が変わる
- 4 積み重ねることが武器になる
- [Column 半径5メートルの「生の声」] あれ? 思ってたのと違った
- 第8章 見通しを示す
- 1 見通しがあるだけで、職場は安心する
- 2 週案簿は、提出物ではなく「見通しの道具」
- 3 学年経営方針がチームの迷いを減らす
- 4 カリキュラムデザインは、学びの設計図
- [Column 半径5メートルの「生の声」] 「自分らしさ」の正体
- 第9章 学校の当たり前を疑う
- 1 誰のためか 何のためか
- 2 なくしたら本当に困るものだけを残す
- 3 同じ目的なら、別の方法でいい
- 4 バラバラの仕事は、一元化できないか
- [Column 半径5メートルの「生の声」] 楽しまなくちゃ意味がない
- 第10章 勇気ある決断と覚悟
- 1 改革には「最初だけ大変な仕事」がある
- 2 最初に汗をかけば、あとで職場が楽になる
- 3 一度振り切ってから調整する
- 4 満場一致を求めない
- [Column 半径5メートルの「生の声」] 過去と他人は変えられない
- おわりに
- 参考文献一覧
プロローグ
深夜、静まり返った部屋に、小さな泣き声が響く。隣で妻が起き上がる気配がする。布団が擦れる音。長男を抱き上げ、小さくあやす声。
私は目を閉じたまま、心の中で祈っていました。
「頼む。今日はすぐに寝てくれ」
明日も授業があります。早起きしなければなりません。教科書すら開けない日もありました。だから、今日は眠ってほしい。
そう願うたびに、もう一人の自分が問いかけます。
「お前はそれで、本当に父親なのか」
教員2年目、私は父親になりました。生まれたばかりの長男は、この世のものとは思えないほど愛おしい存在でした。そして、およそほとんどの父親がそう思うように、例外なく私も小さな手を握りながら、心に誓いました。
「この子を幸せにしたい」
けれど、父親になった実感だけは、なかなか湧きませんでした。家に帰れば、一日中長男と向き合った妻がいます。長男が泣けば、妻が抱き上げる。私は、その姿を見ながら何もできませんでした。
あんなに憧れていた教師という仕事を、夜泣きする長男から逃げる言い訳にしている。そんな自分が、たまらなく嫌でした。仕事は好きでした。もっと授業をよくしたい。もっと教材研究をしたい。もっと子どもたちの力になりたい。その思いに嘘はありません。だからこそ苦しかったのです。
ある夜、長男の寝顔を見ながら、ふと心に浮かんだ言葉があります。
「この子を幸せにできないのであれば、誰を幸せになどできるもんか」
その日から、私の問いは変わりました。「どう働くか」ではなく、「誰を幸せにしたいのか」我が子を思う気持ちは、やがて子どもたちへ、同僚へ、学校へと広がっていきました。
振り返れば、私が見直したのは働き方ではありません。生き方だったのだと思います。あの頃の私に、今ならこう伝えます。
その罪悪感は、無駄じゃない。その葛藤があったからこそ、お前は本当に大切なものを見失わずに済んだ。だから、悩め。葛藤しろ。それでも、「なりたい自分」から目を背けるな。悩みのど真ん中を、まっすぐ突っ切っていけ。
本書は、その問いを抱え続けた、一人の教師の記録です。
残念ながらこの本は、気軽に読める種類の本ではないかもしれません。ここに書かれていることは、今日からすぐに使えるテクニックでもなければ、誰にでも当てはまる正解でもありません。むしろ、読み進めるほどに立ち止まりたくなる場面があるかもしれません。
「本当にそうだろうか」
「自分ならどうするだろうか」
そんな問いが浮かんできたなら、むしろ私は嬉しく思います。学校には、「当たり前」がたくさんあります。長い時間をかけて受け継がれてきたこと。
誰かの善意から始まったこと。子どもたちのためを思って続けられてきたこと。
だからこそ、それらを見直すことは簡単ではありません。当たり前を疑うということは、これまで積み重ねてきたものを否定することではないからです。むしろ、「子どものため」という正しさと、「先生のため」という正しさ、「学校のため」という正しさがぶつかり合うことでもあります。そこには迷いが生まれます。摩擦も生まれます。
時には、「なぜ、わざわざ波風を立てるのか」と言われることもあるでしょう。私自身、その問いから何度も逃げたくなりました。
それでも、問い続けることをやめませんでした。
なぜなら、学校は「変えること」が目的ではなく、「よりよくすること」が目的だからです。
そのためには、まず立ち止まり、「誰のためなのか」を考えなければならない。
本書でお伝えしたいのは、働き方改革の方法ではありません。もっと手前にある、「判断の基準」です。続けるものは何か。やめるものは何か。引き受けるものは何か。誰のために、その判断をするのか。
その問いを、私は「半径5メートル」という言葉で考えてきました。目の前にいる子ども。隣で働く同僚。支えてくれる家族。そして、自分自身。
その人たちが笑顔でいられる選択は何か。その視点から学校を見つめ直すと、不思議なくらい景色が変わって見えてきます。
この本に書いたことが、すべての学校で、そのまま通用するとは思っていません。地域も違えば、文化も違います。置かれている立場も、それぞれです。
だから、この本を「答え」として読むのではなく、「問い」として読んでいただけたらうれしく思います。
一つでも、「自分の学校ならどうだろう」と考えるきっかけが生まれたなら、眠い目をこすってこうしてタイピングしている私も報われます。
そして、読み終えたときに、たった一つだけ心に残していただきたい問いがあります。
あなたは、誰を幸せにしたいですか。
その答えは、人それぞれで構いません。けれど、その答えが見つかったとき、働き方も、学校の見え方も、きっと少しずつ変わり始めるはずです。
/生井 光治















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