- まえがき
- 第1章 ADHD対応の現状
- 1 ADHDと学校文化との摩擦
- 2 子どもの苦悩
- 3 教師の苦悩
- 4 保護者の苦悩
- 第2章 ADHD理解のために
- 1 ADHDとは?
- (1) 代表的な特徴
- (2) ADHDの診断基準
- (3) 反抗挑戦性障害の診断基準
- (4) 行為障害の診断基準
- (5) スクリーニングチェック(発見のための観察)
- 2 ADHDのタイプ
- (1) 大人の場合
- (2) 子どもの場合
- 3 二次障害に苦しむ親子
- 第3章 ADHDサポートの基本
- 1 大人の基本的姿勢
- 2 支援の7項目
- (1) 頭ごなしに叱らない
- (2) ルール,指示,手順などを分かりやすく提示する
- (3) 達成可能な努力目標を決めて取り組ませる
- (4) ほめ方を工夫する
- (5) 自分をコントロールするテクニックを身に付けさせる
- (6) 得意なことを生かし,自信を持たせる
- (7) 注意の持続時間などを配慮した課題を与える
- 3 大人ができること
- 第4章 学校でのサポートガイド
- 1 ケースの区別
- 2 学校全体でのサポート
- 【ケース1】在室が困難で,教室に入ろうとしない
- 【ケース2】離席があり,ときどき教室を抜け出す
- 【ケース3】トラブルが絶えず,攻撃行動がみられる
- 3 教室内でのサポート
- 【ケース4】先生の話を集中して聞けない
- 【ケース5】先生の話は聞けるが,内容を理解できない
- 【ケース6】授業中に離席があり,集中できない
- 【ケース7】姿勢が崩れやすい
- 【ケース8】指示したことを忘れてしまう
- 【ケース9】話が終わるまで待てない
- 【ケース10】課題になかなか取り組もうとしない
- 【ケース11】おしゃべりが多く,抑制できない
- 【ケース12】授業中,友達にちょっかいをだす
- 【ケース13】力の調整ができにくい
- 【ケース14】思い通りにならないと興奮する
- 【ケース15】気持ちをことばで表現できない
- 【ケース16】持ち物の整理整とんができない
- 【ケース17】係の仕事を最後までやり遂げられない
- 【ケース18】給食の好き嫌いが多い
- 【ケース19】友達への乱暴な行動がある
- 【ケース20】教師に反抗・挑戦的なことばを言う
- 第5章 家庭でのサポートガイド
- 【ケース21】机の上やそのまわりを片付けられない
- 【ケース22】起床後の支度に時間がかかる
- 【ケース23】学校から帰ってきて宿題をしない
- 【ケース24】宿題が終えられない
- 【ケース25】学校に忘れ物をしてくる
- 【ケース26】時間割が一人でできない
- 【ケース27】トイレに入ったら,しばらく出てこない
- 【ケース28】食事のマナーなどが身に付かない
- 【ケース29】生活のリズムが崩れがちである
- 【ケース30】近所の友達とトラブルが多い
- 【ケース31】興奮しやすく,外出させられない
- 【ケース32】約束したことがなかなか守れない
- 第6章 まわりの子どもや大人へのカミングアウト
- 1 カミングアウトは必要か?
- 2 カミングアウトの方法
- (1) 家庭や地域の場合
- @ 配偶者,祖父母,兄弟児へのカミングアウト
- A 近所や町内会の人たちへのカミングアウト
- (2) 学校の場合
- @ クラスの子どもたちへのカミングアウト
- A カミングアウトの指導過程(小1〜2年生)
- B カミングアウトの指導過程(小3〜4年生)
- C カミングアウトの指導過程(小5年生〜)
- D クラスの保護者へのカミングアウト
- 第7章 学校・家庭の連携を図るために
- 1 学校と家庭における連携上の悩み
- 2 家庭の基本姿勢
- (1) 学校にADHDを伝えるべきか,どう伝えたらよいか
- (2) 学校がADHDの理解に乏しい場合,どう対処すればよいか
- (3) 個別の指導をお願いするには,どうすればよいか
- (4) 懇談会でわが子のADHDをどう説明するか
- 3 学校の基本姿勢
- (1) ADHDと思われる子どもがいるが,保護者にどう伝えるか
- (2) 家庭での協力を得るために,どう働き掛けるか
- (3) 教師と保護者の考えにズレがある場合,どう対応するか
- (4) まわりの保護者から苦情が出ているが,どう対応するか
- 参考資料 ADHD支援グッズ
- 読者の方へ*あとがきに代えて
まえがき
前著『LD・ADHD特別支援マニュアル』(2001,明治図書)では,通常クラスの先生方を対象に,特別支援教育の考え方,誰でも活用できる実態把握の方法,実態把握の結果に基づいた支援の方向性を示しました。しかし,実際の教育現場では,つまずきの実態や支援の在り方については大まかに理解できたが,「具体的な支援の方法がわからない」という声も聞かれました。
そこで,実態把握の重要性は踏まえつつ,子どもの状態像別における特別支援アイデア集(サポートガイド)をつくり,読者がそれを参考にして,取捨選択しながら日常の教育活動を展開できないだろうかと考えました。したがって,より具体的で実際的な指導のコツを示すことが本書のねらいです。しかも,学校だけでなく家庭における支援も視野に入れ,学校と家庭の連携の在り方についてQ&A形式で記述しました。そして,本書では行動・情緒面で適切な対応が求められるADHD(注意欠陥/多動性障害)のサポートに焦点を絞りました。
さて,ADHDのある子どもたちは,その多くが理解されることなく,「手が掛かる」「わがままで乱暴者」「我慢が足りない」「だらしない」等の指摘や叱責の中で生活しています。学校でも,自己コントロールの困難さから混乱や不安・葛藤の中で失敗体験や挫折体験を積み重ねています。その結果,子どもは様々な不適応行動を起こし,教師や保護者はその対応を更に困難な状況にしていることが多いと思われます。
ADHD児は,我が国における伝統的な学校文化の中では「適切な理解と支援」という光が当たりにくいグレーゾーンに位置しています。例えば,小学1年生であれば,「45分程度の着席ができる」というのが一般的な通念ですが,ADHDのある子どもは「5分と持たない」場合があります。その子が努力して10分着席できたとしても,担任の先生からほめられるはずがありません。担任は,子どもに診断が付けられていない場合,着席できないのはADHDが原因であるとは考えないでしょうし,ADHDを疑ったとしても,どのように指導したらよいか分からず悶々とした日々を過ごすことでしょう。もし,ADHDではないが,その傾向のある子どもがクラスに2,3人いたら,お互い望ましくない行動に影響され,教師の指示が通らず学級経営が困難な状況に陥ることが予想されます。また,ADHD児に有効とされる行動学的対応,特に強化子(ごほうび)の応用についても,「学校の中でごほうびなんてとんでもない」等の声に代表されるように,日本の学校や家庭の中ではかなりの抵抗が付きまといます。
ADHDへの対応は,子ども一人一人実態が違うのでガイド通りにいかないのが常です。しかし,基本的な対応に関する共通理念は存在します。
本書は,実際にADHD児へのサポートを実践している現場の教師でプロジェクトチームを組み,我が国の学校文化に適合したサポートの在り方,そして指導のコツを示すように心掛けました。
読者は,本書で示した指導のコツを取捨選択しながら,実態に即した教育(子育て)活動を展開してください。すぐに効果がみられなくても粘り強く取り組んだり,子どもの反応に学びながら自ら創意工夫して試したりすることが大切です。
前著『LD・ADHD特別支援マニュアル』で示した考え方を基盤にしながら,本書を活用することによってADHD児やその周辺の子どもたちに達成感や成就感を味わわせ,「生きる力」をはぐくむ一助になることを切に願っています。
平成14年6月 編著者
-
- 明治図書