- はしがき
- 総説 知的障害児と文字学習
- あるエピソードから
- 文字指導の基盤
- 健常幼児にみられる文字習得過程から考えること
- むりをして教え込もうとしていたのではないか
- 第1章 文字学習の裾野を広げる
- ことばは使っているけれど
- ことばの広がりをめざして
- 文字刺激のある環境
- 日常生活指導や生活単元学習の中で
- 第2章 生活の充実と文字学習
- 連絡帳を自分で書く
- 新聞づくり*生きた歴史をつくる
- 紙芝居のおまけのようについてくる文字学習
- 音遊びから文の意識化へ
- 「ことば遊び」で生活を広げる
- 電車の図鑑を使った文字学習
- 第3章 文字学習を楽しいものに
- 毛筆を使って
- つぶやきを詩に
- 詩をつづる*「みんなで発見! 詩をつくろう」
- 調理実習とともに
- 映像メディアの活用
- *手軽なメディアを活用して,イメージと結びついた
- “使えることば”を身につけさせる
- 読む意欲をそそったコンピュータゲーム
- 多動な児童の動きに合わせて
- 第4章 文字習得に特別な困難さを示す子
- 見たままがとらえにくい子
- *読み書きの困難さが見られた事例
- 視知覚認知の悪い子
- 鏡文字の目立ったSくんの指導
- 遊びを通した文字の獲得
- *文字に関心を示しはじめた幼児の事例
- 終 章 むすびにかえて
- どうして,詩や童話の作家が生まれなかったのか?
- ひとひねり,ふたひねりのアプローチ
はしがき
知的障害児の文字指導は,古くて新しい課題である。これまでからも,さまざまな実践が積み上げられてきたし,今後も,いろいろな取り組みが発表されていくに違いない。
そのような中で,障害児学級ブックレットの1冊として,文字指導を取り上げることになった。これまでに出版されているものとは,ひといろ違うオリジナリティが出せなければ,あまり意味がないのではないかと思った。
執筆者と協議を重ねていくうちに,
・学習の主体者である子どもの立場に立つこと。したがって,「文字指導」ではなく,この子らの「文字学習」でなければならないこと
・文字学習を「ひらがなの読み,書き」に限定せず,生活する力の一つの溜め込み方として,あるいは,表れ方として受け止めていくこと
・文字習得の結果だけを見るのではなく,習得の過程で,どのような力をつけているかも考察していかねばならないこと
などの切り口が浮かび上がってきた。
これまでの実践事例を,この切り口から選びだすことになった。考察を進めていくと,いずれの事例も,
・子どもたちが本当に楽しめる活動であったこと
・子どもの気持ちが文字に向かうためには,その子の現在の過ごし方を揺さぶり続けていたこと
・文字は,その子の生活の総合力として組み込まれていたこと。文字だけが切り離されて存在しているのではないこと
などが明らかになっていった。
このような立場から,本書を『楽しみながら進める文字学習』と名づけることにしたのである。
本書の編集では,できるだけ多くの実践事例を出すことで,私たちの構想している「文字学習」を伝えていきたいと考えた。中には,これまでの文字指導の概念からはみ出すような事例もある。これは,「文字学習」を広義に解釈しているからである。
私たちは,障害児教育の現場から,
「そのような立場からの文字学習があったのか。」
と注目され,ささやかでもこの一石が波紋をよぶことを期待している。
読者の文字指導における課題意識とずれていないか心配であるが,ご批正をお願いするところである。
1998年4月 編者 /北脇 三知也
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- 明治図書
- 北脇先生のご著書。是非拝読したいです。2011/8/17satchmo