- はじめに
- 巻頭鼎談 なぜ今、「多様性の包摂」か
- /奈須 正裕・石井 英真・野口 晃菜
- Q1 学習指導要領改訂の大きな柱として「多様性の包摂」が掲げられたことを率直にどう考えていますか?
- Q2 現在の学校(通常の学級)における多様性の包摂について、どのような課題や難しさがあるでしょうか?
- Q3 子どもを包摂する学校をつくるために、先生たちにはどのような支えが必要でしょうか?
- Q4 通常の学級・支援級・通級・特別支援学校の知見を、学校全体の授業づくりにどう生かしていけばよいでしょうか?
- Q5 「多様性の包摂」に向き合う学校現場の先生方へ、最後にメッセージをお願いします。
- 第1章 「ふつう」をアップデートする学校
- ―特別でない特別支援から始まる学校改革 /岡田 悦子
- 1 「ふつう」はどこから生まれるのか
- 2 特別支援学級と通常の学級の「透明な壁」を乗り越える
- 3 学校を変えた「PBS」という仕組み
- 4 「理解」から「共創」へ ─多様性理解授業の変遷と深化
- 5 多様性理解授業で「個」を理解する力と「社会」を変える力を
- 6 学校における多様性の包摂を目指して
- 解説 すべての子どもの支援を充実させる
- 第2章 環境が変われば、学校も変わる
- ―教員の関係性から始まるインクルーシブな学校 /森村 美和子・萩原 直樹
- 1 「分ける」から「混ざり合う」学校へ
- 2 「自分研究」から始まるインクルーシブな学校づくり
- 3 インクルーシブな学校に不可欠な「弱さを出せる職員室」の土壌づくり
- 4 「あたりまえ」をアップデートする教室へ─社会モデルの授業づくり
- 5 通常の学級からの視点@ 授業の「ふつう」アップデートの先に見えた景色
- 6 通常の学級からの視点A トライ&エラー&エラーの先に
- 7 通常の学級からの視点B 「個」の挑戦から、学校全体のアップデートへ
- 8 大人も子どもも、強みを生かせる学校を
- 解説 先生たちがやりたいことからスタートする
- 第3章 受け継がれた支援はなぜ消えなかったのか
- ―合理的配慮が「文化」になるまで /三富 貴子・新井 麻衣良
- 1 「スペシャル」から「スタンダード」への出発点
- 2 私が学校に戻ってきた理由 〜当事者の視点から〜
- 3 一人一人を大切にする「バトン」はどう引き継がれたのか
- 4 「自立・協働・貢献」学びの多様性を守る
- 5 なぜ、時が経つと支援は形骸化してしまうのか?
- 6 「みんな」で支援するインクルーシブ教育の理想
- 7 支援される側、する側の両方を経験した私が思うこと
- 解説 すべての子どもが必要なときに支援を受けられる仕組み
- 第4章 【インタビュー】「合理的配慮」を「特別」にしないために
- Q1 「あの子だけずるい」という声が届いたとき、どう向き合っていますか?
- Q2 合理的配慮を「ずるいもの」にしないためにどうしていますか?
- Q3 実践を進める中で、うまくいかなかったこと・悩んだことは?
- Q4 読者の先生が、明日から一つ変えるなら?
- 第5章 インクルーシブな学校づくりの前提とポイント
- /野口 晃菜
- 1 「あの子だけずるい」の背景にあるもの
- 2 「社会モデル」の視点で、すべての子どもを捉える
- 3 ゆるやかな「土台」と、「必要なときに必要なだけ」
- 4 みんなが主体
- おわりに
- 参考文献一覧
- 執筆者一覧
はじめに
「『あの子だけずるい』と言われたらどうしますか」
学校の先生からよく聞かれる質問です。2016年に施行された障害者差別解消法においては、社会が障害のない人を中心につくられているが故に社会的障壁が生じていると捉える「障害の社会モデル」に基づき、その障壁を最大限取り除く合理的配慮の提供が義務付けられています。一方で、学校現場、特に通常の学級においては、「大きな集団の中で個別に合理的配慮は調整できない」「周りの子からずるいと言われたらどうするか」といったような疑問や懸念点が生じています。障壁をすべて個別に取り除くのではなく、まずは学校における障壁をあらかじめ取り除く土台としての「基礎的環境整備」と、それでも障壁が生じた時に個別に合理的配慮を調整する、といった形で、多層的に障壁を解消していくことが求められています。
次期学習指導要領の改訂にあたっては、「多様性の包摂」が柱として掲げられ、基礎的環境整備を実施するための施策が検討されています。土台となる「一階部分」として、通常の学級における教育課程がより柔軟に編成できるようになり、「二階部分」として個々のニーズに応じた特別の教育課程を編成する、「二階建て」で多様性を包摂する教育課程を編成していくことが改訂の大きな方針の一つです。
私も参加した本方針を議論した教育課程企画特別部会では、一階と二階の連動の重要性について議論がなされました。「一階でうまくいかない子どもは二階へ」、と排除をするための制度ではなく、むしろ二階部分で得られた知見を一階の包摂性をより高めていくために活用する、子どもは必要に応じて一階と二階を柔軟に行き来する、といった運用をすることの重要さが確認されました。この運用こそが、本書のタイトルである「あの子だけずるい」がなくなる学校の鍵です。本書の巻頭鼎談では、同じく企画特別部会の委員である奈須正裕先生、石井英真先生と「多様性の包摂」について次期改訂に位置付けられた意義やポイントなどについて対話をしています。
第1章から第3章は、岡田悦子先生、森村美和子先生、三富貴子先生の3名がどのようにして、「あの子だけずるい」がなくなる学校をつくってきたか、つまり、二階部分の知見を生かして基礎的環境整備として一階部分の土台をいかに組み立ててきたか、の実践記録です。3名とも、通級・特別支援学級の担当を歴任しつつ、インクルーシブ教育の視点から通常の学級を含む学校改革をけん引されてきました。
第1章の岡田先生は、「困難を克服する」ことへの違和感を踏まえ、交流及び共同学習や多様性理解授業を通して、「ふつう」を問い直す実践を展開してきました。その土台として、スクールワイドPBSによる学校づくりにも取り組まれています。第2章の森村先生は、通級や特別支援学級における「自分研究」の実践を経て、教職員がお互いの声に耳を傾ける機会をつくることが学校改革につながった経験をまとめています。また、同じ学校で長年通常の学級を担任してきた萩原直樹先生から見えている景色も共有されています。第3章の三富先生は、同じ中学校で19年間通級を担当しつつ、学校全体で包摂性を高める実践をしてきたあゆみを、歴代の管理職への聞き取りと共に紹介しています。通級に通っていた当事者であり、支援員としても実践を共にされてきた新井麻衣良さんの貴重な知見も共有がされています。第4章ではそれぞれへの追加インタビューで補足を、第5章では、先生方の実践知を踏まえた多様性を包摂する学校づくりのポイントを解説しています。
「多様性の包摂」「インクルーシブ」といわれても、何からどうはじめたらよいかわからない、と思っている人にとって、本書が一歩踏み出すきっかけになりますように。
/野口 晃菜
-
明治図書

















