子どもと保護者のココロに寄り添う! エピソードで学ぶ特別支援教育AtoZ――幼児編――

子どもと保護者のココロに寄り添う! エピソードで学ぶ特別支援教育AtoZ――幼児編――

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子どもの行動に悩んだ時、何をすべきかがきっと見つかる!

早くお迎えが来たのに泣き出してしまった、歌が好きなのにみんなと歌えない、理由も分からず突然怒り出す…「あるある!」と感じた先生も多いのでは?巡回相談員の著者が出会った園でのエピソードを4コマまんがで紹介しながら、とっておきの支援をアドバイスします!


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PDF EPUB
ISBN:
978-4-18-122610-7
ジャンル:
特別支援教育
刊行:
対象:
幼児・保育
仕様:
A5判 136頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

もくじ

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はじめに
あるある!こんな場面 気になる子どものエピソード38
1 入園式。きょろきょろ見回して突然前に飛び出した
2 「先生嫌い!」と言って知らん顔
3 お迎えが早くても遅くても泣き出してしまう
4 笑いながら口に入れたのにはいてしまった
5 嫌々折り紙を折ったら一目散に飛び出して行った
6 歌やリズムは大好きだけど、運動会の練習はいや!
7 負けるのがいやだからゲームしないもん
8 生活発表会。今年こそうまくできるだろうか
9 絵本の部屋に行くのを待たせたら、急に耳をふさいで泣き出してしまった
10 なぜかプールの日だけは朝の準備がスムーズ
11 電車大好きのはずなのに実物の電車を見てパニック
12 すごろくで負けそうになった途端、盤をひっくり返して飛び出した
13 身体はくねくね、足はトントン……ふざけているように見えるけど
14 お片づけをうながすと「まだ遊ぶ!」と怒り出す
15 プールの時だけできるのはやっぱりわがまま?!
16 園長先生に「あっち行け、お仕事しろ!!」と言う
17 「誰かに取られたらいやだもん」と言って離さない
18 本当は歌いたいけど歌えない
19 お話は得意だけど絵を描くのはとっても苦手
20 運動は大好きなのに運動会に参加できない
21 砂遊び―一人でしゃがんでグルグル丸を描いている
22 仲よしのお友だちが休んだとたんに活動ができなくなった
23 登園するとすぐピアノの後ろに座り込んで出てこない
24 園では調子よくなってきたのに家で荒れるようになった
25 お友だちを見ると叩く、噛む、引っ掻く
26 一人でブツブツ天気予報をつぶやいている
27 身体を動かすことが嫌いだ!
28 なかなか熱が下がらずついには幼稚園に行きたくないと言う
29 給食の時間になると「お腹がしんどい」と保健室に来る
30 発達障害のお姉ちゃんとぶつかり合う
31 友だちが片づけようとしたら「いやだ!」と言っていきなり怒った
32 その日を境に「怖い」と言って登園できなくなってしまった
33 大好きなフープの時間なのに手当たり次第にものを投げつける
34 一人で砂場とブロックに熱中するようになった
35 片づけの時間になるといつも部屋を出て行ってしまう
36 午睡の時間もなかなか眠れない
37 注目されるのが苦手で人前で食事ができない
38 小学校入学が近づくにつれ、イライラが増えてきた
コラム 園庭には就学後の学びがいっぱい!!
困った!こんな問題 保護者連携のエピソード10
39 我が子が急に怒り出す姿にお母さんはビックリ
40 突然乱暴になる子どもに保育者も保護者も「どうして?」
41 参観日、周りのお母さんの目が気になって……
42 「園から電話が入るとドキッとします」とお母さん
43 あの時、発達検査を受けたばっかりに……
44 家ではできるのに、どうして幼稚園ではできないの?
45 加配を配置されてはどうですか?
46 我が子はみんなと同じ通常学級に通わせたい
47 私(保護者)自身がアスペルガー障害なのです
48 せっかくの親子遠足なのにお父さんの背中から降りられなかった
コラム 「お母さん、僕の会社に行ってくるよ!!」
教えて!こんな悩み 保育者成長のエピソード12
49 隣のクラスの先生の言うことは聞くのに、私の言うことは全然聞いてくれない
50 「もっと子どもを抱きしめてあげて」と言ったら保護者を悲しませてしまった
51 「給食袋をもう1枚作ってください」と言ったばかりに
52 よい関係だと思っていたのに「うるさい!あっちいけ!」
53 「本当は痛くないんでしょ」の言葉に表情が暗くなった
54 「また先生に叱られるよ」という子どもたちの会話にハッとした
55 できていたことができなくなってしまい担任として焦ってきた
56 何でも口にポイッ。発達的に幼い子どもにどうかかわればよいのか
57 全く落ち着けないクラスと考えていたのが……
58 「保幼小連携」って具体的にどのような取り組みなの?
59 無事に卒園式に参加できるだろうか
60 私は子どもが好きだから先生になったのだ!!
おわりに

はじめに

 私は、長年、市町の巡回相談員として園や学校に訪問させていただいています。その目的は、機関の要請に基づいて特別な支援が必要な子どもたちや悩んでいる先生方に出会い、保育・教育について一緒に考えさせてもらうことです。訪問件数は毎年のべ平均で百校園ほど、のべ人数としては数えきれないほどの子どもたちや先生方と出会います。

 保育所、幼稚園、こども園では、子どもたちの園生活を先生方が毎日懸命に支えてくださっています。例えば、本書の中に“入園式で会場に入れず、式後、本児、ご両親、園長先生、担任の先生のわずかな参加者だけで行った園児が、卒園式ではみんなと一緒に、本児らしい立派な式参加ができた”というエピソードが出てきますが、ご両親のみならず、私たちを勇気づけてくれる感動の事例です。しかし、そこへ至るまでには、我が子への深い愛情をもち、子の成長を悩みながら、迷いながら、子育てに奮闘した保護者と、信念をもってぶれずに実践し続けた園の先生方の努力、そして両者の信頼関係や療育教室やことばの教室などの関係機関の先生方との連携があったからこそ生まれた事例だと考えています。そこでは一人ひとりの願いや要求が大切にされ、どの子ももてる力を存分に発揮して、豊かな人生を切り開いていける環境をつくっていく努力がされていたと思います。


 私たちが、生まれたばかりの赤ちゃんをもつ親だと考えてみましょう。「今日は、子どもの調子もいいから郊外のショッピング・モールへ久しぶりに買い物に出かける」ことになりました。子どもを車の助手席に乗せ、出発です。親としても久しぶりの買い物に心も弾んでいます。ショッピング・モールの駐車場に到着し、子どもをベビーカーに乗せ、店内へ入ったところで、先ほどまで笑顔だった赤ちゃんが急に大泣きし始めました。「困ったなぁ。何とか泣き止んでくれないかなぁ」と私たち親は一生懸命に子どもをあやします。しかし、なかなか泣き止んでくれません。「困ったなぁ。何とか泣き止んでもらって最小限の買い物だけはして帰りたい」そう思った私たち親は、さらに一生懸命、赤ちゃんをあやします。でも、どうしても泣き止んでくれません。周囲のお客さんから何だか冷たい視線が向けられているように感じます。どうしても、泣き止んでくれない赤ちゃんに私たち親はどのような行動をとるでしょうか。例として、上記の表をご覧ください。

(表省略)

 まず、私たち親は、大泣きする子どもと接し、直感的に思いつくことは、「お腹が空いた」ではないでしょうか? その時私たち親は、「ミルクを与える」という行動を選択するでしょう。もし、ミルクの吸いつきが悪い、または全くお腹が空いているわけではないと感じた時は、「気持ちが悪い」のかなと思い、おむつを確認するなどし、もし汚れていたら「おむつを交換する」という行為に及びます。つまり、子どもの行動には「要因(原因)」が存在し、私たち親はその要因をあきらかにし、適切な「手だて」を講じているわけです。仮に「お腹が空いた」のに「おむつを交換する」とか、「気持ちが悪い」のに、「ミルクを与える」などの行為はしないでしょう。

 また、子どもの立場にたつとどうでしょうか? 「僕はお腹が空いた」から「泣く」という行為で親に自分の思いを伝えている、「僕は気持ちが悪い」から「泣く」という行為で親に自分の思いを伝えているわけです。なのに、大泣きする子どもに対して、大きな声を出して「泣き止みなさい」と強要することは、子どもの愛着形成を含む豊かな発育に何らかの歪みを生じさせることにもなります。私が出会った素晴らしい園の先生方は、いきなり手だてを求めず、子ども側の問題といわれる行動には、要因が存在するのだと認識し、子どもの行動をじっくり観察されています。だから、どっしりと構えておられますし、実践にも余裕が感じられるのです。

 私たちの目の前にいる「子どもたちの将来における自立」とは何かを私なりの思いで語らせていただきたいと思います。よく巡回相談の場面で、「この子は、特別な支援が必要な子どもだから、将来、力強く一人で生きていけるような力をつけなければならない」というような声を耳にします。確かに「力強く(豊かに)」人生を歩むことは大切なことです。しかし、「一人で生きていけるような力をつけなければならない」ということに、私はどこか違和感をもちます。なぜなら、私たち大人とて、一人で生きている人など存在しないと考えるからです。例えば、職場では信頼できる上司や同僚がいます、家庭には最愛の家族がいます、そして地域には見守ってくださる方々がいます。私たちは「お互いに支え合って生きている」と言っても過言ではないと思います。つまり、支え、支えられる関係の中でがむしゃらに生きていると言えるのです。それなのに、特別な支援が必要な子どもたちだけが、「将来の自立のため」に、どうして力以上のことを求められ、適応しにくい環境に無理に適応しなければならないのでしょう。ある当事者の方が「まるで、泳げない人に底の見えないプールで毎日泳ぐことを強いているようだった」と振り返らざるを得ない状況と同じであると言えるのではないでしょうか。一人ひとりの子どもたちが、それぞれの発達段階に応じて、豊かな青年期・成人期を送るためには、私は大きく次の5つの要素が必要なのではないかと考えています。


 @よき理解者が傍にいる

 Aよい体験を積んでいる

 B人が信頼できている

 C自己肯定感が高い

 D自分の特性とうまく向き合えている


 私の知人である自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断されている社会人Aさんは、現在、自分の特性とうまく向き合いながら、毎日、事業所に通われています。「僕は昔から集団に入るのが苦手だったので、今は、必要な時以外は入らないようにしている」「僕は聞こえ過ぎる耳を持っているので、いつもは耳栓をしています。御用があれば合図してください。耳栓をとりますので」などと語るAさんは、確かに自閉症スペクトラムの特性は強く感じるのですが、対人関係が非常にナチュラルで、自分の特性とうまく向き合えていると感じます。頁数の関係で詳細な解説は他に譲りますが、混沌とした現代社会の中で、特性を有しながらも力強く豊かに生きている人たちの過去には必ず前述の5つの要素が継続的にかつ補完的に関連づいていると言えます。そして、人生の出発期を生きる乳幼児期では、まず、よき理解者(よき環境)の存在が何よりも求められます。そして、子どもの内面に丁寧に寄り添うことから始めていくことこそ、もしかすると本当の意味での「自立」につながるのではないかと思うのです。

 本書は、私自身が巡回相談員として実際に出会った子どもたちと先生方との貴重な取り組みをもとに書き下ろした実践事例集です。膨大な事例のつまった記録ノートですが、同じ事例は一つとして存在せず、また当時の先生方が日々悩み、試行錯誤しながら、常に真摯に保育に立ち向かわれている様子がそこにあります。それらを、

 ○「問題となる行動」の内側にある「要因」を深く掘り下げ、「鋭い視点」をもち、「継続的」に子どもの内面に丁寧に寄り添う、「急がば回れ」を実践する先生方の姿を浮き彫りにすること

 ○子どもの内面に寄り添う姿勢と、さらに実践について反省し続ける謙虚な姿勢こそが私たちを成長させてくれる原点である、という部分を大事にすること

 ○現場の保育者も周囲(保護者も含めて)に頼っていいのだという観点で振り返ること

 ○保護者の方々の我が子に対する深い愛情と子育ての難しさ、苦労なども盛り込み、また、逆に子育ての楽しさ、素晴らしさも同時に解説することにより、子どもの内面に寄り添うことの意味や大切さ、難しさを共有すること

などを大事にして表現するようにしました。なるべく専門用語は使用せず、分かりやすい言葉を使うことも心がけております。今一度実践のなかで大事にしたい視点を確認し、大切にされなければならない「保育の原点」をみなさんと共に考えることができればと思います。

 なお、各事例には、内容をより理解しやすくする意味で、4コマ漫画を配置してあります。主人公「総一郎くん」と先生やお母さんとのやりとりも、本文とあわせてお楽しみいただければ幸いです。


   /筆者

著者紹介

松村 齋(まつむら ひとし)著書を検索»

大垣女子短期大学幼児教育科教授

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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