- はじめに
- 序 教師の強みを活かして!
- 教師は子どもの特徴や変化に一番よく気づける!/教師は早期に対応できる!/教師は発達促進的,予防的なかかわりができる!
- T 子どものこころを扱うときの心構えと対応法
- 1 “課題を抱えた子ども”の基本的なとらえ方
- 悩みや問題行動という影/せっかく困ったのだから……/子ども本人が自分の人生をどう生きていくか/外的現実と内的現実
- 2 “課題を抱えた子ども”の理解に向けて
- 支援法・指導法の前に/心理テストをしなくても……/引き出すことと染み出ることの違い/主体的に話してもらうために/子どもだってTPOで異なる顔がある
- 3 “課題を抱えた子ども”への対応に向けて
- 教師と子どもが話し合う場のセッティング/個別面談で子どもの素顔に近づくために/面談での問いかけと受け答えの基本
- 4 “課題を抱えた子ども”への具体的な理解と対応法
- 誰が何にどの程度困っているのか/子どもの生活と人生に思いを馳せる/誰が何を支援するのか/教師が保護者の役割を肩代わりすると……/目標の設定と成果の確認/子どもの思いを先に聞く/開かれた質問と閉じられた質問の使い分け/子どもに問いかけて解決法を見出す/記録をとること
- 5 保護者やカウンセラーなどとの協働
- 苦情や批判が多い保護者への対応/基本的な保護者への応対/面談と家庭訪問―保護者の学校・教師イメージから/カウンセラーを上手に活用しよう
- U 描画を用いた子ども理解と支援法
- 1 らくがきの活用−落書きから落描き・楽描きへ
- 1)自然発生的落描きの例とその扱い/2)支援として促す落描きの例とその扱い/3)支援として促す落描きの方法/4)落描きに付与された意味とねらい/5)学級活動として行う楽描き(お絵かき遊び)/6)お絵かき遊びに付与された意味とねらい
- 2 子どもを理解し,関係を深めるための描画法
- 1 描画法を施行する目的を考えよう
- 2 名前を書くこと・描くこと
- 1)具体的な方法/2)事例/3)その意味とねらい
- 3 九分割統合絵画法
- 1)具体的な方法/2)事例/3)その意味とねらい
- 4 家族イメージ彩色法
- 1)具体的な方法/2)事例/3)その意味とねらい
- 3 黄黒交互彩色法(Yellow-Black Alternate Method:YB法)
- 1 黄黒交互彩色法の施行手順
- 1)交互空間分割段階/2)黄黒交互彩色段階/3)投映段階/4)場面構成段階/5)物語創作段階/6)物語統合段階
- 2 黄黒交互彩色法から学ぶ支援法
- 1)線の引き合いや色の塗り合いによる他者とのかかわり/2)近づくことと近寄られることの違い
- 3 黄黒交互彩色法に付与されている意味とねらい
- 1)色彩の誘目性/2)ゲシュタルトチェンジが与える驚き/3)交互彩色での主体の争奪戦/4)投映による自己の表出/5)場面構成に現れる子どもの抱えている課題/6)お話づくりは子ども理解の深化と解決への糸口
- V 描画法を用いたカウンセリングの実際
- ■落描きを活用した支援事例
- 1 落描きが面談を円滑にする
- 1)支援の対象/2)困っていること/3)支援した場面/4)面談までの経緯/5)面談の経過/6)落描きの施行/7)カウンセリングと落描きについての解説
- ■落描きを活用した支援事例
- 2 落描きを端緒にして遊びや面接が展開する
- 1)支援の対象/2)困っていること/3)支援した場面/4)家族状況と面談までの経緯/5)面談の経過/6)落描きの施行/7)カウンセリングと落描きについての解説
- ■家族イメージ彩色法を活用した支援事例
- 3 家族との相違を認め,自立を模索する
- 1)支援の対象/2)困っていること/3)支援した場面/4)家族状況と面談までの経緯/5)面談の経過/6)家族イメージ彩色法の施行/7)カウンセリングと家族イメージ彩色法についての解説
- ■家族イメージ彩色法を活用した支援事例
- 4 義父とのかかわりを模索する
- 1)支援の対象/2)困っていること/3)支援した場面/4)家族状況と面談までの経緯/5)面談の経過/6)家族イメージ彩色法の施行/7)カウンセリングと家族イメージ彩色法についての解説
- ■黄黒交互彩色法を活用した支援事例
- 5 友人関係トラブルを解決する
- 1)支援の対象/2)困っていること/3)支援した場面/4)家族状況と面談までの経緯/5)面談の経過/6)黄黒交互彩色法の施行/7)カウンセリングと黄黒交互彩色法についての解説
- ■黄黒交互彩色法を活用した支援事例
- 6 唯一の自分の有り様を模索する
- 1)支援の対象/2)困っていること/3)支援した場面/4)家族状況と面談までの経緯/5)面談の経過/6)黄黒交互彩色法の施行/7)カウンセリングと黄黒交互彩色法についての解説
- あとがき
はじめに
子どもたちの問題行動や犯罪が報道され,社会問題となっている中,教育現場でも「こころのケア」の必要性が高まっています。とりわけマスコミで事件を引き起こした児童生徒について,普段の学校生活で「何も問題のない」子どもたちが,突然問題行動を起こしたと騒ぎ立てるとき,強い不安を感じられる方は多いのではないでしょうか。それほど特異な事件でなくても,身近に不登校の子どもがいること,学級崩壊といわれるような状況がおこることはめずらしくないのが教育現場の現状です。
そのような状況の中で,教育現場では子どもたちの心を理解するためのひとつの方法として,描画が注目を集めつつあります。1つの理由はおそらく絵は先生方にとっても子どもにとっても日常的に触れるもので親しみがあるからでしょう。図工科の授業があったり,小学校の低学年では朝の学活でお絵かきをしたりもしますし,何より子どもたちはたくさん絵を描いて遊びますから。
もう1つの理由は描画には先生方の行動観察からは思いもよらない問題行動の心理的背景を浮き彫りにする可能性があるからでしょう。そうして理解した子どもの心情を適切な指導に活かすことができるとたしかに問題行動は改善していきます。それゆえに描画法は簡単に実施することができ,非常に有用で魅力的な手法であると教育現場の先生方もお考えくださるのでしょう。
しかしその反面,先生方にこれらのことを伝えるのに大変躊躇もしました。あくまでも描画法は芸術療法(あるいは心理療法)の1つの技法であり,それについての知識や経験を先生方に十分な時間をかけて伝えるのは実質的に困難であることや,臨床心理の立場での描画の活用は詳細に語れても,学校教育現場での活用については教員でない私には語れない部分も多いからです。また,研修会などで提供した知識が,先生によって悪気なく安易に用いられ,その結果子どもを傷つけてしまうことが起こることも心配しました。さらに近年,先生方が学ばれる研修講座も多く開催されていますが,カウンセラー養成のための内容が加工されずに提供されていることも多く,先生方は自分が活用できるものとして習得する機会はあるのだろうかという疑問も抱いていました。
私は子どもたちを対象にした心理相談機関などで臨床心理士として子どもと出会うときに描画を活用し,その有効な活用法について実践的研究を重ねています。スクールカウンセラーとして小・中学校で勤め,直接子どもや保護者,教師の方々の声を聞かせてもらうこともあります。その一方で,大学の教員の立場で学校教育に携わり,教育現場の先生方に子どもの理解やかかわり方について伝える仕事をしてきました。このような仕事を通して悩みを抱えた子どもやそのような子どもへの対応に困難を感じる先生方への支援として臨床心理学のエッセンスや描画療法における手法を,学校教育の場でも活かすことができたらと考えるようになりました。
このような経緯があり,本書では学校現場で先生方が活用できる描画法とこれを活かしたカウンセリングを紹介しますが,その前にこれらを活用する前提としてぜひ知っておいていただきたい,子どものこころを扱うときの心構えと対応法についても述べています。それに加えて心理相談機関での事例をお示しすることで,さらに理解を深めてもらえるようにしました。
これから述べることは私が学校現場の先生の立場では臨床心理の知識や描画法をこのように活かすことができるだろうと考えてきたことです。けれども当然のことながら,実践の場ではマニュアルどおりにはいかないことが多いでしょう。ですから,ぜひ子どもの教育にいかに活かせるのか,自分の立場で今,何ができるか,という視点でお読みくださることを望んでいます。
本書が,日々の教育実践の場で少しでも子どもたちの教育に役立つことを願ってやみません。
2005年12月 /岡田 珠江
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- 明治図書