- はじめに
- 序 章 親と共に進める性教育*親と教師は「性教育のパートナー」
- 1 親が抱く三つの願い
- 2 尽きることのない親の悩み
- 3 障害のある子どもに対する性教育
- 4 親と共に進める性教育
- 第1章 家庭における性教育
- ○「体の変化」を受け入れられず,性毛を抜く子ども
- 1 石けん遊びから始めた「清潔」のしつけ
- 親の悩み@ 身辺処理が一人でできなくて困る
- Q&A 家庭での性のしつけは?
- 2 「性器いじり」をする子どもの気持ちがわかった
- 親の悩みA 性器いじりをするので困る
- Q&A 性の指導を行うのに,「生活実態の把握」が必要なのはなぜか?
- 3 「恥ずかしい」という気持ちが育たない
- 親の悩みB 恥ずかしい気持ちが育っていなくて困る
- Q&A 「自己統制する能力」をつけるには?
- 4 父親の協力で「お風呂のぞき」がなくなった
- 親の不安@ 性成熟が訪れることが不安である
- Q&A 「社会性」を育てるには?
- 5 コマーシャルと違う「経血」の色
- 親の不安A 月経の手当てが正しくできるか不安である
- Q&A 「初経」についての指導は?
- 6 「夢精」をおねしょと間違えて
- 親の不安B 夢精などの処理が正しくできるが不安である
- Q&A 「夢精」についての指導は?
- 7 女性の「長い髪」に触りたがる子
- 親の悩みC だれの体にでも触りにいくので困る
- Q&A 「異性の体に触れたがる子ども」の指導は?
- 8 異性である「息子の性」が分からない
- 親の不安C イライラやかんしゃくを起こすのではないかと不安である
- Q&A 若者の性的ニーズは?
- 9 「息子の性」を受け入れて
- 親の不安D マスターベーションをすることが心配である
- Q&A 「青年期の性教育」にはどのような配慮や援助が必要か?
- 第2章 学校における性教育
- ○性的いたずらを通して訴え続けていたものは
- 1 性教育は親がするものでしょうか?
- 親の願い@ 学校などでの性教育を充実してほしい
- Q&A 「性に関する指導」と「性教育」の違いは?
- 2 友だちを真似て「おしっこ」ができた
- 親の悩みD トイレのしつけが難しくて困る
- Q&A 障害のある幼児の性教育は?
- 3 性教育の授業@ 「男の子,女の子」
- 教師の意識@ 生理・衛生面で指導したい事項
- Q&A 「性に関する指導」はどの教科・内容で?
- 4 性教育の授業A 「好きになるということ」
- 教師の意識A 精神面で指導したいこと
- Q&A 「学習指導要領」には性教育についての記載がないが?
- 5 性教育の授業B 「自分の生い立ち(誕生)」
- 教師の意識B 社会面で指導したいこと
- Q&A 小学校障害児学級の性教育は?
- 6 性教育教材づくりのポイント
- 親の願いA 絵本や教材を充実してほしい
- Q&A 「教材・教具」を活用するにあたっての留意点は?
- 7 母子分離不安にみられる「気がかりな行動」
- 親の不安E 気がかりな行動を起こすことが不安である
- Q&A 「性的被害」や「性的加害」についての指導は?
- 8 「先生,キスして!結婚して!」
- 親の不安F 結婚についての不安がある
- Q&A 「性の権利」とは?
- 9 性教育は「教師の共通理解」から
- 教師の意識C 教師の間で共通理解がほしいこと
- Q&A 性教育における教師の共通理解とは?
- 第3章 社会における性教育
- ○「寂しさ」や「あきらめ」を抱かせないで
- 1 「性についての相談」を進めるために
- 親の願いB 結婚や性に関しての相談窓□を充実してほしい
- Q&A 性教育の目標は?
- 2 公民館を利用した地域での「余暇活動」
- 親の願いC 地域の環境を整備してほしい
- Q&A 関係機関や地域社会との連携は?
- 3 幼児との遊びを「痴漢」と間違われて
- 親の願いD 障害児・者の性を,正しく理解できるように啓発してほしい
- Q&A 障害のある子どもの「性の発達」は遅れるか?
- 4 うれしかった「先生との出会い」
- 親の願いE 必要な人的条件を整備してほしい
- Q&A 地域社会の中で「社会参加し自立して生きていく」には?
- 5 27歳の「息子の青春」とつきあって
- 親の願いF 指導者への研修を徹底してほしい
- Q&A 「ノーマライゼーション」の原理とは?
- 6 サークル活動を通しての「自立支援」
- 親の不安G 異性との交際についての不安がある
- Q&A 「男女交際」についての指導は?
- 7 親と教師がー緒に取り組む「性教育の学習会」
- 親の願いG 性教育の学習会をしてほしい
- Q&A セックスとセクシャリティの違いは?
- おわりに
はじめに
1986年と1991年,続いて1994年にイギリスの性教育事情について研修する機会を得た筆者は,ある障害児の親の会での研修会で,
「イギリスでは『ノーマライゼーション』の原理によって,障害のある人びとの性が『人間としての当然の権利』として認知されており,障害のある人びとに社会の一員としての市民権を保障するため,果敢な取り組みが行われていること。また, 1981年教育法によって,障害のある子どもをもつ親が『協同教育者』(parents as partners)として位置づけられ,教師は親とのパートナーシップを重視しながら性教育を積極的に推進していること」
「わが国においても親と教師が連携して,人間尊重を基盤とした『障害のある子どもの性教育』を積極的に研究・実践することが重要であり,緊急性のある課題であること」
などについて報告を行いました。
すると,親たちの中から「性の権利など理想論だ」という指摘があり,性教育について否定的で拒否的とも思える親の発言が相継ぎました。
「私たち親は,わが子の男女交際や結婚について夢を抱くことさえできません。性教育は寝た子を起こすようなことになるのではありませんか」
「わが国ではイギリスのように『性の権利』を保護し,保障する社会の援助体制がないなかで,子どもの性を目覚めさせることは残酷だと思います」
さらに,親たちの訴えは続きました。
「障害のある子どもは,性について何かすれば叱られ,見つかれば叱られているのが現状です。性についての興味や関心が旺盛な子どもに,してもよいことや,どうすればよいのかを,誰も分かりやすく教えてやっていないのです」
「子どもは自由に過ごしてよい時間が苦痛のようです。ぜひ地域のなかでスポーツやレクリエーションなどができる青年学級や成人学級など,余暇を楽しく過ごせる機会を作ってやりたいのです」
「結婚するためには,結婚生活全般にわたる息の長い結婚相談が必要です。経済的な保障や障害を配慮した住宅も必要です」
「グループホームやホームヘルパーなどによる,日常生活での援助がなければ,障害者の『社会参加』などは絵に描いた餅です」
など,青年期を見越した障害のある子どもの性にかかわる諸問題が提起されました。
たしかに,性に目覚めた子どもをもつ親は,自分の性に戸惑い,悩みながら懸命に生きているわが子の生きざまと,真正面から立ち向かわざるをえないという厳しい現実があります。くわえて,障害のある人びとに対する社会の誤解や偏見,差別的な態度などが,親の悩みをさらに深刻なものにしているといっても過言ではないでしょう。
卒業後の子どもたちの「より豊かな人生」を本気になって願うのなら,まず,「性教育を積極的に推進しよう」。そして,「地域での生活援助施策の実態を把握しよう」。さらには,「具体的な施策についても,みんなで発言していこう」と,熱心に語り合っていた親たちは, 1994年の夏,「障害児の性教育研究親の会」を結成しました。そして,その活動は今日も積極的に続けられています。
本書に掲載している調査資料は,『障害のある子どもの性についての親の意識に関する実態調査』(1995)から抜粋しました。筆者が前述した親たちと一緒に,障害のある子どもの性をめぐる生活実態を掘り起こし,社会の人びとに「障害のある子どもの性教育」に対するその重要性と緊急性を訴えるためにまとめたものです。
親や教師・指導員など,障害のある子どもをめぐる関係者の「指導・実践資料」とともにご高覧いただければ幸甚です。
1 調査の目的
障害のある子どもの「性」についての親の意識を調査し,性のしつけや指導についての方策を探る。
2 調査の項目
(1)年齢や障害の状態など
(2)性についての発達状況
(3)性について困っていること
(4)性について将来困るであろうこと
(5)教育や行政や社会に望むこと
3 調査の対象
大阪府下在住の障害のある子どもをもつ保護者(母親119名,父親1名)計120名
(1)障害のある子どもの年齢
3歳から39歳で,男子73名(60.8%)女子47名(39.2%),合計120名
(2)障害の状況
120名中107名(89.2%)が療育手帳または身体障害者手帳を取得
(3)障害種別(複数回答)
「知的障害」97名(80.8%),「言語障害」66名(55%),「情緒障害」43名(35.8%),「身体障害」38名(31.7%),「学習障害」30名(25%),「重複障害」89名(74.2%)
(4)所属
就学前(通園施設や幼稚園に通う3歳から6歳の子ども)33名(27.5%)
小学生(養護学校小学部や小学校に通う6歳から12歳の児童)30名(25%)
中高生(養護学校中学部や高等部に通う12歳から18歳の生徒)34名(28.3%)
青年(授産所・作業所や施設に所属する18歳から39歳の青年)23名(19.2%)
4 調査の時期
1995年1月15日〜2月15日
5 調査の方法
多肢選択法によるアンケート法
6 回答者数・回収率
回収率は100%
有効回答数は120名
事例が実にたくさん載っていたので、共感しながら一気に読んでしまいました。
学校で性教育をして欲しい!と頼んでも、なかなか取り上げてくれないので悩んでいた時に、この本と出会いました。
イギリスでの取り組みも紹介されていて、たいへん興味をもちました。
ぜひ先生達にも読んでいただき、子ども達に性教育をして欲しいと思いました。
「親を性教育のパートナーとして、親と共に進める性教育を!」という著者の訴えに同感です。
家庭で、学校で、社会で、障害児の性教育を進める手引き書として、ぜひ一読してほしいと願っています。
また、保護者を対象としての調査結果からは、親の悩みや不安を知ることができ、データを示しながら、親の共感を得ることができるので、懇談会などの時に利用しています。
家庭・学校・社会の3側面からの章立ても読みやすく、これから障害のある子どもの教育や保育をめざしている人や、子育てに奮闘中の保護者にもぜひ読んで欲しいと思います。