- はじめに
- 本書の概要
- 第1章 言葉や数の学習の前に
- 1 言葉や数の学習の背景
- 2 物に向かう子どもの感覚の使い方の特性
- 3 実践例と特別支援学校学習指導要領との関係
- 4 発達評価との関係
- 第2章 教材教具を用いた実践例
- 算数 小学部
- 01 「ガイド線の意味に気づく」ことに役立つ ジグザグの輪郭線をたどる棒さし
- 算数 小学部
- 02 「認識できる空間を広げる」ことに役立つ 端まで滑らせよう
- 算数 小学部
- 03 「見えないものを予測する」ことに役立つ 線たどりマグネット
- 算数 小学部
- 04 「向きを理解する」ことに役立つ いろいろな向きの型はめ
- 算数 小学部
- 05 「形の違いに気づく」ことに役立つ 形に注目して分類しよう
- 算数 小学部
- 06 「硬貨の種類と位との関係を学ぶ」ことに役立つ お金そろばん
- 算数 小学部
- 07 「お金や単位と現実との結びつきを学ぶ」ことに役立つ チラシで算数
- 算数 小学部
- 08 「九九と現実との結びつきを学ぶ」ことに役立つ 九九実感ボード
- 国語 中学部
- 09 「言葉が通じにくい子が立ち位置を理解する」ことに役立つ ホースが言葉
- 数学 中学部
- 10 「平面の形を視覚で捉える」ことに役立つ 基本図形:3次元と2次元
- 数学 中学部
- 11 「順に指を置いて数える」ことに役立つ 一対一対応支援キューブ
- 数学 中学部
- 12 「10までの数量を理解する」ことに役立つ 1〜10の玉さし
- 国語 中学部
- 13 「ICT機器の力を借りながら人に話を伝える」ことに役立つ 話す絵本
- 国語 中学部
- 14 「身近な出来事から文章を考える」ことに役立つ 何しているのかな? 文で書こう
- 自立活動 高等部(肢体不自由)
- 15 「自分の動きと環境の変化との関係に気づく」ことに役立つ ナイトアクアリウム
- 自立活動 高等部(肢体不自由)
- 16 「物の動きを目で追う」ことに役立つ コースター式玉入れ
- 自立活動 高等部(肢体不自由)
- 17 「掴んだり放したりする」ことに役立つ 七つの島
- 自立活動 高等部(肢体不自由)
- 18 「数唱と数の関係に気づく」ことに役立つ 銭形玉ひも
- 自立活動 高等部(肢体不自由)
- 19 「目的をもって手を動かす」ことに役立つ カルタ釣り
- 数学 高等部
- 20 「順序数の理解を集合数の理解につなげる」ことに役立つ 見た目の異なる数の分類
- 第3章 実践例の解説
- 01 ジグザグの輪郭線をたどる棒さし
- (相当する発達段階:StageT−3〜W)
- 02 端まで滑らせよう
- (相当する発達段階:StageV−1〜W)
- 03 線たどりマグネット
- (相当する発達段階:StageV−1〜W)
- 04 いろいろな向きの型はめ
- (相当する発達段階:StageV−1〜W)
- 05 形に注目して分類しよう
- (相当する発達段階:StageV−1〜V−2)
- 06 お金そろばん
- (相当する発達段階:StageV−2〜W)
- 07 チラシで算数
- (相当する発達段階:StageV−2〜W以上)
- 08 九九実感ボード
- (相当する発達段階:StageV−2〜W以上)
- 09 ホースが言葉
- (相当する発達段階:StageT−2〜T−3)
- 10 基本図形:3次元と2次元
- (相当する発達段階:StageT−3〜V−1)
- 11 一対一対応支援キューブ
- (相当する発達段階:StageT−3〜V−1)
- 12 1〜10の玉さし
- (相当する発達段階:StageV−1〜V−2)
- 13 話す絵本
- (相当する発達段階:StageV−1〜W)
- 14 何しているのかな? 文で書こう
- (相当する発達段階:StageV−2〜W)
- 15 ナイトアクアリウム
- (相当する発達段階:StageT−1〜T−3)
- 16 コースター式玉入れ
- (相当する発達段階:StageT−1〜T−3)
- 17 七つの島
- (相当する発達段階:StageT〜W)
- 18 銭形玉ひも
- (相当する発達段階:StageT〜W)
- 19 カルタ釣り
- (相当する発達段階:StageT〜W)
- 20 見た目の異なる数の分類
- (相当する発達段階:StageV−1)
- まとめ
- おわりに
はじめに
新しい学習指導要領では,「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」を視点とした不断の授業改善が求められています。今後の学校教育では,「何を教えるか」(教師が主体)から「何ができるようになるか」(子どもが主体)への視点の転換が進み,社会のグローバル化を念頭に,生きる力,考える力,変化する環境に柔軟に対応する力を育てる動きがより高まっていくと考えられます。
知的障害教育では,もとより体験を通した具体的な指導が効果的とされ,また,学習活動への主体的参加を図ることが常に授業研究のテーマになってきました。こうした経緯から,「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」の3要件は,理念の面からはすでに満たされているといえるかもしれません。
一方,実際面では,障害の程度が幅広く,しばしば自閉スペクトラム症(以下,ASD)やてんかん,肢体不自由等が合併し,また,成長とともに情緒や行動に変化が見られる等その実態は多様かつ複雑であり,個々にふさわしい学習内容・環境を創出していくのは容易な課題ではありません。授業内容が真に適切かどうかは,児童生徒の実態と密接な関係を保ちながら,教師チームで常に検討されなければならないといえるでしょう。
その中で,最も確実な手がかりは目の前の子どもです。子どもが目を輝かせ,自主的,自発的に学習に取り組むかどうかが授業の良し悪しを決定することは,上記の理念に照らしても疑いの余地がありません。そして,もう1つの手がかりは教材・教具です。いくつもの仮説を検討して工夫を重ね,幾度も子どもとやりとりをして,「できた!」「わかった!」という笑顔に出会えた瞬間は,何にも代えがたい教師の喜びです。教材・教具は子どもをより深く知るための道具であり,子どもとのコミュニケーションを成り立たせる道具でもあるのです。
本書における実践例は,特別支援学校で豊富な実践経験を積んだ「障害児基礎教育研究会」の会員から提供していただきました。本書で使う「教材教具」という用語は,「教材」と「教具」の区別がつきにくい,実際に触って動かして,その結果が直接フィードバックされるものを意味しています。プリントや電子機器の画面からは得られにくい,触覚と運動を通した直接的な学びの要素が埋め込まれ,子どもと教師とのコミュニケーション(相互作用)を高めることを目的として開発・工夫されたものです。本書ではそのような「教材教具」を中心に,誰にでも作成できるものを取り上げ,子どもとのやりとりの中に見いだされる大切な視点をお伝えしたいと考えています。
「どんな教材がいいか」ではなく,「どのような視点をもって何を引き出すか」にこだわる,ベテラン教師の息遣いを感じていただければと思います。
/立松 英子
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- 明治図書