学校と教育委員会・自治体をつなぐ教育DX推進ガイド

学校と教育委員会・自治体をつなぐ教育DX推進ガイド

アフターGIGAスクールにおいて考えるべき視点がわかる

教育の情報化をさらに進めていくため、地域全体で協働しながらICTの活用面での質的な格差を埋めることが重要です。そこで本書では、これからの教育DXの在り方と学校改革について堀田龍也教授に解説いただき、そして先進地域である九州の好事例を紹介していきます。


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PDF
ISBN:
978-4-18-108936-8
ジャンル:
教育学一般
刊行:
対象:
小・中・他
仕様:
B5判 112頁
状態:
在庫あり
出荷:
2024年4月22日

CONTENTS

もくじの詳細表示

はじめに
CHAPTER1 学校と教育委員会・自治体をつなぐ教育DXと学校改革
東北大学大学院情報科学研究科教授,東京学芸大学大学院教育学研究科教授 /堀田 龍也
「令和の日本型学校教育」の実現に向けて
学校教育をDXする
教育DXにおける学校管理職・教育委員会の役割と課題
CHAPTER2 学校と教育委員会・自治体をつなぐ教育DX推進事例
1 熊本県高森町
教育DXを推進する高森町新教育プラン
2 佐賀県武雄市
『令和の「武雄市の学校教育」』とICT活用教育
3 鹿児島県鹿児島市
新しい価値観に基づく教育DXの推進
4 宮崎県西米良村
学校用と家庭用1人タブレット2台を活用した教育の情報化の推進
5 福岡県うきは市
学校間格差なく「チームうきは」で取り組む情報化の推進
6 大分県玖珠町
次代を担う子供とともに未来をつくるまち〜全員参画型の仕掛けで誰も取り残さない〜
7 福岡県田川市
子供を信じ,委ねる授業づくりを目指した教育の情報化「田川スタイル」の推進
8 鹿児島県三島村
3つの島をつなぐ日常的な遠隔授業〜小離島・小規模校のよさを最大限に生かす〜
9 福岡県教育庁
福岡県学校教育ICT 活用推進方針〜導入期から活用期,そして発展期へ〜
10 福岡県福岡市
ICTを活用し新しい時代を生きる児童の育成を目指す学校経営
おわりに

はじめに

 現在,デジタルトランスフォーメーション(DX)は社会全体で推進されており,教育現場においても,その影響が広がっています。例えば,公立小中学校において,児童生徒1人1台の端末環境やクラウド環境が提供されるようになり,最先端技術を用いた教育やスタディ・ログ等によるデータの蓄積が期待されています。また,AIやIoTなどの先端技術に関する興味・関心を高め,将来先端技術を使いこなせるような人材の育成にもつなげるためのプログラミング教育やSTEAM教育等が展開されるようになりました。

 そのようなICT環境の整備が進む一方で,以前の教育環境や教育観のままデジタル化のみが進み,地域や学校においては取組の格差が生じている問題も,見逃せない状況にあります。教育DXに関する取組の格差は,児童生徒の資質・能力を育成する上でも解決すべき問題であり,早急に対応する必要があります。

 これまでの取組状況について,文部科学省の調査等から全国的な状況を総合的に見てみると,九州地域のいくつかの自治体において,先進的・継続的に教育の情報化に取り組んでいることがわかります。それらの先進地域は1人1台の端末環境や高速ネットワーク環境を早期に実現させており,課題をこれまでに解決しながら進めてきています。また,1つの学校や教員1人で解決したわけではなく,地域や学校全体で協働しながら解決してきています。それらの取組は,今後教育DXに取り組もうとする学校や自治体にとって貴重な実践成果といえます。

 本書では,それらの先進地域の特徴的な取組として学校の授業で何が起きているのか,教育委員会は何を仕掛けているのか,その具体的な取組を紹介しながら,今後目指すべき教育DXの在り方を考えてみたいと思います。



学校で何が起きているのか!

(1)GIGAスクールまでの経緯

 GIGAスクール構想によって児童生徒1人1台の情報端末とクラウド環境が整備され,教室での活用が進められています。GIGAスクール構想がどのように進んできたか,複数人で1台を活用していた頃からその経緯を見てみたいと思います。

 2008年から2012年までの第1期教育振興基本計画では,IT新改革戦略によって,校内LAN整備率や高速インターネット回線の接続率100%を目指していました。校務用コンピュータを教員1人に1台を整備することも目指していました。その後,各教室に大型提示装置や実物投影機を整備するなど,普通教室でのICT活用を日常的に行うように推進しています。この頃は,児童生徒1人1台の環境ではなく,約3人に1台の情報端末を活用していく方向でした。

 その後,文部科学省は,学習指導要領の改訂において,総則に「情報活用能力」を言語能力と同様に「学習の基盤となる資質・能力」として位置付けました。また,学校のICT環境の整備とICTを活用した学習活動の充実が明記されました。さらには小学校プログラミング教育の必修化を含め,小中高を通じたプログラミング教育の充実も明記されました。

 その後,令和の時代になってから,1人1台の情報端末は,なくてはならない教材として,日本全体で環境整備を進めていく方向性が示されて,新型コロナウイルス対策等にも関連して,全国の公立小中学校で児童生徒1人1台端末の環境が整備されました。


(2)まずは,授業をどう改善するか!

 1人1台端末が整備されてからおよそ2年近く経つわけですが,教師や子供たちは学校の授業でどのように活用してきたのでしょうか。

 次は,GIGAスクール構想での1人1台端末の導入期から活用期,発展期へと進む過程を示した図です。授業の主体は教師主導から子供主体に移行していき,「主体的・対話的で深い学び」につながる活用に進んでいきます。

  (図省略)


 導入期では,従来からの教師がICTを活用して,わかりやすく説明するなどの活用は当然ですが,情報端末やクラウドを活用して教師から子供に資料を配付したり,教師が子供から回収したりするなど,教師主導の授業で活用されると考えられます。活用期から発展期に進むと,子供主体の学びにおいて,情報端末を主体的に活用することが考えられます。例えば,子供同士がクラウド上で情報を共有したり,協働で編集したり制作したりするなど,「協働的な学び」が進んでいきます。また,必要な情報を取捨選択したり,自分で学習ツールを選択したりするなど,主体的な活用が見られます。

 さらに,導入期では授業中心の活用場面だったのが,活用期や発展期においては,休み時間や放課後,家庭学習などの授業以外での活用に移行していくことが期待されます。例えば,情報端末を家庭に持ち帰り,家庭での学習に活用したり,授業前後の休み時間に,必要に応じて情報端末を用いて予習や復習をしたりするなどが挙げられます。「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に実現するためには,授業のみならず子供の学びの場面を中心とした情報端末の活用が求められます。


 一方,児童生徒1人1台端末を活用したからといって,従来の学びが新たな学びに進むわけではありません。それでは,子供たちの新たな学びをどのように生み出していくのでしょうか。本書で取り上げる事例では,従来の指導方法や学習方法にとらわれず,ICT活用を挑戦していき,様々な学習方法を模索していきます。そして,その中で子供の新たな学びにつながるICT活用に収束していくのです。

  (図省略)


 そういった意味では,本書で取り上げる自治体や活用事例はどれも挑戦的なICT活用を進めています。また,授業だけでなく,休み時間や放課後,家庭での学習といった授業以外の場面でも積極的に活用を推進していますので,授業以外の活用場面にも注目してほしいところです。さらに,情報端末の活用にいち早く取り組んだ地域では,プログラミング教育やSTEAM教育等の新たな学びが着実に根付いています。児童生徒のプログラミング的思考を高める授業や,教科等横断的な学び,児童生徒の興味・関心を中心とした探究的な学びなどが展開されています。



伴走する教育委員会の取組とは

 教育の情報化で先進的に取り組んでいる地域では,教育委員会が学校に伴走しながら,地域全体をうまくリードしています。教育委員会の役割は,授業でのICT活用を促進するだけでなく,情報教育や校務の情報化をさらに深めていくことといえます。先進地域の特徴として,以下の3点が挙げられます。

 ・教員の働き方改革につながる校務の情報化

 ・家庭や地域との連携(家庭訪問,学校行事等)

 ・ICT支援員の活用,企業との連携


 先進地域では,デジタル化によって単に校務を効率的に処理するだけでなく,教員の働き方改革につながる取組が進められています。例えば,成績や生活に関するデータを一元管理し,統合型校務支援システムを運用して,より効率的な処理を進めています。また,クラウド上で教員同士が情報を共有したり,Web会議を用いて家庭での在宅勤務を進めたりするなど,これまでの校務の情報化がアップデートしています。



先進地域や先進校は,ビジョンをもっている!

 教育委員会の教育長を「教育CIO」,校長等の学校の管理職を「学校CIO」といわれます。このCIOは,Chief Information Officerの略で,情報統括責任者の意味です。地域や学校の情報を管理するとともに,ICT活用を推進する役割をもっています。

 先進地域や先進校では,この教育CIOと学校CIOが教育の情報化に関するビジョンをもって進めています。特に,そのビジョンは明確に公表され,組織の中で共有されています。本書で事例を紹介する自治体についても,教育CIOや学校CIOが推進ビジョンを明確にして,地域や学校の中でリーダーシップを発揮していますので,ぜひ参考にしてもらいたいです。

 推進ビジョンには,どのような内容が考えられるのか,その注目してほしい点を解説します。

 まず,1つ目は,学校のICT環境を“戦略的”に整備している点です。校務の情報化を含めて,今学校が何を必要としているのか,授業改革につながるICT環境をどのように構築していくか,戦略を立てて計画的に進めている点です。

 2つ目は,学校現場と市町村教委,首長部局が連携して,「ICT活用による授業改善や情報教育の充実」を中心に据えて進めている点です。授業改善や情報教育を学校任せにするのではなく,教育委員会も授業のイメージを共有していることは,どの方向を目指して授業を改善するのか共通理解することができます。

 3つ目は,情報発信や人材育成に力を入れている点です。1人1台端末の活用について,インターネットを用いた情報発信や情報提供を継続的に進めています。また,教員研修の進め方について,各学校や各地域で創意工夫が見られるようになりました。

 教育の情報化は,授業でのICT活用,情報教育の推進,校務の情報化の3つをバランスよく進めていくことが求められます。この「バランスよく進める」点でも,明確なビジョンと計画をもって進めていることがわかります。



学校と教委の距離感,強力な推進体制

 先進地域では学校と教育委員会の距離感が近く,定期的に協議を進めて,新たな取組について共通理解ができています。お互いに情報を共有しながら,教育の情報化を推進している点も特徴的であるといえます。

 さらに,先進地域では,家庭や地域と深く連携しながら,教育の情報化を推進している点も特徴的であるといえます。家庭用の端末やネットワークを整備・構築するなど,地域や家庭のデジタル環境を整えています。また,地域の児童生徒からリーダーを育成したり,保護者やPTAにも協力を得ながら環境整備を進めたりするなど,幅広い取組が行われています。家庭や地域に学校行事を動画配信するなど,新型コロナウイルス感染症への対応などにもいち早く取り組んだ地域が見られます。

 さらには,ICT支援員を配置して,学校の中で活躍できる体制や環境を構築しています。ICT支援員が苦手意識のある教師をサポートし,どの学級でも進められるようにすることで,持続可能な取組を実現しています。また,教育の情報化においては,企業との連携も重要な取組であり,成功の鍵になるといえます。



ICTの効果的な活用と資質・能力の育成

 先進地域では,授業でのICT活用において,2つの段階が見られます。

 まず,ICT活用によって,限られた時間を効率的に運用するというステップ1です。これは,紙などの従来ツールよりも実践しやすく,効率化によって生み出された時間から授業展開を再構築できるというものです。

 次に,思考力,判断力,表現力等の資質・能力の育成において効果的に活用するステップ2です。これは,従来の一斉授業と異なり,「個別最適な学び」や「協働的な学び」を一体的に充実させるものです。効率化と違ってより時間を要することもありますが,資質・能力の育成の面から単元や年間で意図的・重点的に位置付けているものです。このように,どうやったら,ICTを効果的に活用できるかということだけでなく,これからの時代を生き抜く児童生徒に必要な資質・能力を育む視点をもつことが重要だと思います。

 さらに先進地域は,ICT活用だけを推進しているわけでなく,英語教育や小中一貫教育など,他の教育内容と関連付けながら進めている点も特徴的なところです。

 1.限られた時間を効率的に運用する

  →従来ツールより実践しやすい

  →どの学級でも日常的な活用が図られる

 2.資質・能力の育成において効果的な場合

  →従来の一斉授業と異なる形態(「個別最適な学び」と「協働的な学び」)で実施

  →単元の中で意図的・重点的に位置付けている



質的な格差を埋めるために

 自治体や学校において,アフターGIGAスクールでの大きな課題は,学校や学級,地域での格差の問題です。1人1台端末の活用を推進する上で重要なことは,学校や学級,地域の間で格差を生じさせないことです。現在,環境面においては,GIGAスクール構想によって1人1台端末とクラウド環境が整備されて,公立の小中学校ではICT環境面での格差はほぼ見られないようになってきました。

 問題となるのは,活用面での格差です。活用においては,担当する教師の活用への意識によって大きく異なってくることが考えられます。そういった意味では,教師一人で頑張って活用を進めるのではなく,学校や地域全体でチームとなって活用の推進を図ることが求められます。先進地域では,教員研修の進め方や,ICT支援員の関わりを工夫して,活用面での格差が生じないようにしています。教員研修では,どのような内容を取り上げるのか,指導力を高めるとともに,児童生徒の情報活用能力の育成に関する研修も併せて進めていく必要があります。この後の章で,その具体的な内容を紹介できると思います。

 最後に,特に気を付けたいのは,どれだけ活用したかといった「量的な面」ではなく,どのように活用したかといった,「質的な格差」にあるといえます。GIGAスクール構想で各教室での活用は進んできたわけですが,教師主導の活用のままで,児童生徒に委ねる部分が少ない授業も見られます。今回の先進地域の学校では,できる限り児童生徒に委ねて学習者中心の授業を進められるように工夫していますので,参考にしていただければ幸いです。

 まずは教育DXとは何か,今後の展開がどのように進むのかを整理していきます。そして,教育DXに成功した先進地域の学校や教育委員会の好事例を紹介いたします。教育DXを推進する学校や自治体にとって参考となるポイントを提示していきます。


   中村学園大学教育学部教授・メディアセンター長 /山本 朋弘

著者紹介

山本 朋弘(やまもと ともひろ)著書を検索»

中村学園大学教育学部教授・メディアセンター長

・専門分野は,教育の情報化,情報教育,小学校プログラミング教育,教師教育等。

・博士(情報科学),修士(教育学)。東北大学大学院情報科学研究科を早期修了。

・鹿児島大学教育学部附属教育実践総合センター講師,鹿児島大学大学院教育学研究科准教授を経て,2021年から中村学園大学教育学部教授。

・大学外では,文部科学省 「教育の情報化に関する手引」検討委員(R01),文部科学省ICT活用教育アドバイザー(H27〜),文部科学省 「先導的な教育体制構築事業」ワーキンググループ委員(H26〜)等,文部科学省の検討委員や事業検討委員などを歴任。その他,九州管内の約20の自治体の教育ICTアドバイザーとして関わる。

・学協会では,日本教育工学協会副会長,九州教育情報化研究会事務局長を務める。日本教育工学会,日本教育メディア学会の編集委員を務める。日本教育心理学会,日本科学教育学会,日本教育システム情報学会会員。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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