- まえがき
- T 「子ども間の問題場面」の指導
- [1] いじめが起きない学級集団づくりには原則がある /有村 春彦
- いじめを発見するシステム/いじめを発見した時の対処法/集団の教育力を使っていじめと闘う/いじめが起きない学級集団づくり
- [2] けんか両成敗は、後をにごさない /赤塚 邦彦
- ぐじゅぐじゅと裁いていた新卒時代/よいと思っていた裁きかた――実はトラブルのもと/昔から受け継がれた方法――「けんか両成敗」/「もうちょっと」スムーズに裁くためのコツ/いじめの第一歩を防ぐ裁きかた
- [3] 恐喝に潜む弱肉強食の構造を壊す /松岡 智義
- 情報を集める/事情を聞く/事後指導をする
- [4] 不登校の児童生徒も日本の大切な子どもたちである /杉本 任士
- 不登校の子どもも大切な学級の一員/不登校の子どもの存在を消さない、なおざりにしない/向山洋一氏は子ども集団にどのように働きかけたか
- [5] 叱りと褒めの原則がわがまま勝手を減らす /千葉 康弘
- 怒鳴る/叱りかたの原則/「褒める」ことで、わがままを減らす
- [6] 教師の演出で、男女の仲を高める /佐々木 智穂
- 男の子の気持ちを汲み取る/体が触れ合う遊びをする
- U 「親との関わりの問題場面」の指導
- [1] 学習障害ゆえに心身の虐待を受ける子どもをどうするか /星野 裕二
- 学習障害ゆえに心理的な虐待を受けたA君/AS(アスペルガー症候群)の花子さんの場合
- [2] 教師がこの子に愛しさを感じられるかどうかが出発点だ /奥清 二郎
- 机に馬乗りになったAちゃん/Aちゃんは学級の宝です/このような子を見ると愛しくなる
- [3] 子どもを放任する親への対応 /□□□□□
- [4] 子どものやる気が継続する家庭学習の方法 /中田 昭大
- 長続きしない家庭学習法/長続きする家庭学習法/子どもの様子
- [5] 授業を通して生活習慣づくりの大切さを示す /田上 大輔
- 授業で示す/家庭の教育力に期待できない場合
- [6] 保護者と協力し、子どもの生活を見直す指導 /伊藤 悦子
- 手だて1 テレビゲームの悪影響を授業する/手だて2 学級通信で授業の様子を伝える/手だて3 懇談会で交流する/手だて4 保護者との連携を密に
- V 「教師との関わりの問題場面」の指導
- [1] 差別を見逃さず教室に温かい雰囲気をつくれるのは教師だけ /伊倉 尚子
- 教師が差別を見逃さない/差別撲滅にもやっぱり授業/差別をしない公平な教師/子どもは教師を見て育つ
- [2] 「嘘をつかない」ことと、「高学年女子への対応」 /小野 隆行
- 教師は、発する言葉に責任を持たなければならない/個々に対応するとズレが生じる/こんなことでも嘘になる/高学年女子の前に立つ最低条件は、「服装、身だしなみ、態度」/うっとうしいのはダメ ポイントは「あっさりと」
- [3] 失敗を経てつかんだ反抗への対処法 /奥田 真由美
- 反抗のはじまり/反抗との戦いかた/やっぱり授業が大切
- [4] 高学年女子の規律無視への指導 /高杉 祐之
- 規律無視の行為と誤った指導/何が誤っていたのか/規律無視は教師へのサイン
- W 「地域との関わりの問題場面」の指導
- [1] 「聞く」「シミュレーションする」「システム化する」 /田村 治男
- 活動を成功させるための三ヵ条/起きる問題とその指導
- [2] 地域ボスの指導・まずその子のことを知ること /松田 修一
- 少年団や部活などに足を運ぶ(その子を知る)/連携する/赤鉛筆の対決
- X 「特別支援教育に関わる問題場面」の指導
- 「問題場面」の指導は常に集団を巻き込みつつ行う /馬場 慶典
- 頻繁に起こる事件/常に集団を意識してA君の指導をする/成功体験を集団の前でさせる/遊びでのトラブルを乗り越えさせる/仕事を決め責任をもたせる/A君の成長
- Y チェックポイント別自己診断票=ここを見れば改善点が見える!
- あなたの指導集団づくりとして°@能しているか /雨宮 久
- 集団づくりの基本理念/チェックポイント「差別意識」/チェックポイント「逆転現象」/チェックポイント「学級の組織が二つに分かれているか」/チェックポイント「授業後に子どもが授業について話しているか」/チェックポイント「楽しいイベントを最近いつしたか」/チェックポイント「教師が許せないことと対峙しているか」
- Z どんな指導が学級集団を高めるか――実物紹介
- [1] 親から信頼と尊敬を集める学級通信 /穴戸 威之
- 連絡事項を正確に書く/手書きで書くと距離が縮まる/子どもの名前が出てくる通信は読まれる/正しいことよりも面白いことを書いたほうが読まれる
- [2] 校内体制のマニュアルが必要である /森下 人志
- 校内指導体制マニュアルをつくる/生徒指導の「さしすせそ」を心がける/事実を確認し、記録をとっておく
- [3] 子ども同士をつなぐ工夫をしていることを伝える /有村 紅穂子
- 保護者会で話す話材/互いに認めあえるような子ども集団をつくる/互いに高めあえるような子ども集団をつくる
- 執筆者一覧
まえがき
学級にはさまざまな問題が日々起きます。
時として、親をも巻き込み、多くの人たちの心を深く傷つけることさえあります。
教師は、これらの問題に適切に対応することが求められています。
この書は、問題発生を契機に子ども集団づくりの観点から、どのように指導したらよいのかを示した書です。
女の子の靴が無くなったという事件が起きました。女の子の話によると、確かに靴箱に入れていたと言います。
放課後、家に帰ろうとしたら靴箱から靴が消えていたのです。
担任の教師は、女の子とともに靴を探しました。女の子の友達もいたので、何人かとともに校舎内、そして学校の周りを探しました。しかし、靴は見つかりませんでした。
担任教師は、女の子に上履きのまま下校するように伝え、家庭に対してもその件について電話連絡します。
次の日、担任は朝の会で女の子の靴がなくなったことを学級全体に伝えました。
「Aさんの靴が昨日なくなりました。そのことをAさんから聞いて、Aさんの友達と先生とで一生懸命探しましたが、見つかりませんでした。誰か知っている人はいませんか。」
子どもたちは黙っています。
「先生は、みんなを信じているのですが、もしかしたら心当たりのある人がいると思って聞いたのですが、全然心当たりありませんか。」
それでも子どもたちは黙っています。
「それじゃ、みんな目を閉じて。少しでも心当たりがあるな、と思った人に手を挙げてもらいます。」
子どもたちは、誰も手を挙げません。仕方なく、担任教師は、
「それでは、皆さんを信じます。今後、何か気がついた人がいたら、言ってきてください。」
これで指導が終了してしまいました。
担任教師は、管理職に、
「子どもたちに指導しましたが、犯人は見つかりませんでした。今後、気をつけるようにいたします。」
と報告して終わりだったのです。
この程度を指導と言えるでしょうか。教育に対して素人の大人でも、この程度の指導はできます。
教師は、教育のプロです。教育のプロであるなら、プロらしい指導が存在するはずです。
そのプロらしい指導の一つが、子ども集団を指導できるということなのです。
平成十七年十月二十六日に中央教育審議会が答申を出しました。その中に次の一節があります。
◇教育の専門家としての確かな力量
「教師は授業で勝負する」と言われるように、この力量が「教育のプロ」のプロたる所以である。この力量は、具体的には、子ども理解力、児童・生徒指導力、集団指導の力、学級づくりの力、学習指導・授業づくりの力、教材解釈の力などからなるものと言える。 ◇
教育のプロたる所以として、「集団指導の力」が入っています。これは注目に値することです。
教師は、たった一人の子どもを相手にする家庭教師ではありません。教育の対象が、一人ではなく集団だからこそ、困難もたくさん生じます。それが反対にやりがいがあるのだともいえます。
前述した靴隠しの事例において、集団づくりの観点から指導法を考えることで、プロらしい指導が可能となってきます。
問題場面というのは、ある意味子どもの成長場面でもあります。
今までの教育書の多くでは、子どもが起こす問題場面を学級という閉じられた世界でのみ詳述されることが多かったと思います。
しかし、この書では学級という場だけでとらえるのではなく、親との関わりや地域との関わりの中でもとらえ、教師としてどのように対応したらよいのかを、この書では明確にしたつもりです。
多くの若き教師に役立つことを祈っています。
最後に、この書の執筆の機会を与えてくださったTOSS代表の向山洋一先生と明治図書の樋口雅子様に深く感謝いたします。
TOSSオホーツク代表 /青坂 信司
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- 明治図書