- はじめに
- 第T章 かかわって育ち合う授業とは?
- 1 「社会とかかわる力」が今,求められている!
- 2 6つのエッセンスでつくる!かかわって育ち合う授業
- コラム1 「子どものための研究を…」
- 第U章 かかわりの成立を目指す授業づくり
- ■エッセンス1 共同注意 ■エッセンス2 情動の共有
- 1 アプローチ
- 2 実践事例
- 1 音楽活動「みんなでダンス!」
- 2 調理活動「まるまるやきをつくろう」
- 3 自立活動「郵便遊びをしよう」
- コラム2 「函館の歴史探訪」
- 第V章 かかわりを深める授業づくり
- ■エッセンス3 目的の共有 ■エッセンス4 役割の交替
- 1 アプローチ
- 2 実践事例
- 1 自立活動「みんなのタワーを作ろう」
- 2 体育活動「息を合わせて運ぼう!〜ボール運び競争〜」
- 3 造形活動「フロッタージュで冬の壁面装飾を作ろう!」
- コラム3 「卒業生が生きがいをもって生活できるよう」
- 第W章 かかわりを広げるための授業づくり
- ■エッセンス5 状況判断 ■エッセンス6 自己・他者理解
- 1 アプローチ
- 2 実践事例
- 1 地域活動(総合的な学習の時間)「仲間と出かけよう」
- 2 体育活動「チームで勝敗を競おう」
- 3 自立活動「自分を知ろう・仲間を知ろう」
- コラム4 「子どもが安心できる健康診断」
- あとがき
はじめに
ある日の職員会議で中学部の先生から,担任する自閉症のAさんについて,次のような報告がありました。
1人でバス通学をしているAさんが,朝いつものように停留所で待っていると,自分の目の前でバスが事故を起こして,乗るはずのバスに乗れなくなってしまったそうです。パトカーが来て,事故処理をしている間にバス会社の人も対応にやってきました。その人が,Aさんに気付き声をかけてくれたようです。Aさんが,「学校へ行くのでS営業所まで行きたいので,どうしたら良いか」と尋ねると,バス会社の人は,「それなら次に来るバスに乗ればいいよ」と教えてくれたそうです。Aさんはその日,いつもより30分ほど遅刻して登校してきました。
この朝の出来事を,その日,Aさんは学校では特に話しませんでした。お家に帰ってお母さんに「帰りはバスに乗れて良かったなあ」と,報告するという訳でもなく話すので,お母さんは「何があったの」と聞いてみたそうです。担任の先生は後日お母さんからそのお話を聞いて,Aさんがその日,なぜ遅刻したのかを知ったということでした。
Aさんのバス通学については,学校側からバス会社の方にも事情を話していましたので,運転手さんも,バス会社の方の対応も適切であったに違いありません。しかしこの報告を聞いて驚いたことは,Aさんがこの出来事を日常の一コマとして難なく切り抜け,特別で困難な出来事と考えていないということでした。Aさんは中学部を卒業しましたが,中学部の入学式の日,会場である体育館に入ることもできなかった子どもでした。1人でのバス通学など,入学当初は誰にも想像できなかったのです。
不慮の出来事に遭遇しパニックになりかけたかもしれませんが,冷静に対応できたAさんの成長を,担任の先生は本当に嬉しそうに話してくれました。
もちろんAさんの日常の努力は言うまでもありません。日頃の保護者と担任の先生方の教育支援,学校とバス会社の密なる連絡,こうした連携の上にAさんの成長が大きく浮かび上がってきたのです。この出来事は,特別支援教育において,子どもたちの「社会とかかわる力」を育てることの意味を再確認させてくれました。目の前で起こった困難な課題を他者とかかわりながら解決していく力。それはあるときには,喜びや悲しみを他者とともに分かち合う『生きる力』となるでしょう。ここに私たちの教育支援の在り方が見えてくるのではないでしょうか。
この小さな本が,特別支援教育に携わる皆さんの何らかのお役に立つことを願っております。
本書の刊行に当たり,本校の教育研究の推進にご協力いただいております保護者の方々,そのほか日頃お世話になっている多くの皆様に心より感謝申し上げます。
北海道教育大学附属特別支援学校長 /小栗 祐美
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- 明治図書
- 大変役にたちました。2015/6/2050代・小学校教員