- はじめに
- 第1章 通知表提出までの「地獄の1週間」脱出法はこれだ
- 1 “書くことがない”状況を救うモノ
- (1) 目立たない子どもの見とり方―「待ちぼうけ」はダメ
- (2) 取材の資料
- (3) 観察メモの取り方―ペンと付箋を常備して
- (4) 見開き2ページの個人記録ノート
- 2 評価の補助簿活用実例―成績物情報処理法
- (1) 作文の学習を評価する
- (2) 書写の学習を評価する
- (3) 体育の学習を評価する
- (4) パソコンに保存
- 3 評価基準を決める
- 第2章 子どもも保護者も納得する書き方トレーニング
- 1 「学習と生活の記録」の書き方
- (1) 要約力トレーニング
- (2) 無駄な言葉を省く
- (3) 紋切型の言葉を使わない
- (4) 「誰のことを書いているかわかる」文を書く―25年前の通知表を見直す
- 2 所見の書き方トレーニング
- (1) 演習テキスト「所見の書き方の要諦」
- (2) この書き方のどこを直せばよいか?
- (3) 価値づけてシメる―所見の文を書くコツ
- (4) 実例 担任時代の所見
- 3 記述式の学習評価
- (1) 総合的な学習の時間の評価例
- (2) 外国語活動の評価例
- (3) 生活科の評価例
- 第3章 保護者に伝わる所見―セルフチェック法
- 1 わかりにくい言葉
- (1) カタカナ用語・略語
- (2) 専門用語
- 2 ごまかしの言葉・難解な言葉
- (1) 「〜的」
- (2) 「〜性」
- (3) 「漢語」「四字熟語」
- 3 重複・くどい言い回し
- (1) 言葉の重複
- (2) くどい言い回し
- 4 主語と述語の対応
- 5 言葉の使い方
- (1) テン「,」のうち方
- (2) 演習テキスト「句読点のうち方」
- (3) 助詞の使い分け
- (4) 使わない方がよい言葉
- (5) 修飾の順序
- 6 一文中の矛盾
- (1) 一文が長い
- (2) 言葉の重複
- 7 その言葉遣いは間違っている!―「表記便覧」から拾う
- 8 「保護者の目」で読み返す
- 9 提出前に見直しを―「一人ブレーンストーミング」
- 10 添削後の始末をつける
- 第4章 「教師目線」で書く所見―さすがプロと言われる勘所
- 1 「所見」は一大事
- 2 言葉遣いが正しくない所見―「お友達目線」
- (1) 「〜くれています」
- (2) 「仕事」「働く」
- 3 具体性が乏しい所見―「お役所目線」
- (1) 「取り組む」
- (2) 「成果」
- 4 傍観者のような所見―「レポーター目線」
- (1) 「〜ようです」
- (2) 「がんばってください」
- (3) 「印象的です」
- 5 「教師目線」の所見
- 6 保護者に伝わる所見を
- (1) 長所を書けばよいのか―「リップサービス」は罪
- (2) リズムのある文体
- (3) 鋭い,スキのない言葉の選択
- 7 児童・保護者から信頼される教師の所見の秘密
- (1) 「つかみ」がある所見
- (2) 「愛」がある言葉遣い
- (3) 「意外性」は効果絶大
- 8 マイナス面をプラス面に変換して伝える
- 第5章 教師の人格が疑われる書き方
- 1 人権感覚が疑われる書き方
- 2 保護者に届かない書き方
- 3 品性に欠ける書き方―「体言止め」
- 4 「ら抜き言葉」
- 5 文語調と口語調の混淆
- 6 俗語・誤用
- 7 絵文字
- 8 手柄は子どもに―「秘すれば花なり」
- おわりに
はじめに
通知表の思い出は,人それぞれでしょう。
もし,あなたが保護者だったら,次のようなわが子の通知表の所見を見たらどう思いますか?
A 素直で優しくてクラスの誰とでも仲良く遊んでいるようです。運動会の練習には一生懸命取り組みました。黒板係の仕事もしっかりしてくれています。何事も丁寧に取り組む姿勢は素晴らしく,今後に期待しています。
「わが子は学校でちゃんとやっている。先生もほめているし,まあまあなのだろう。でも,一体どんなことをしたのだろう……?」というところでしょうか。
次の所見では,どうでしょうか。
B 休み時間には素早く外に出て大勢の友達と大きな声を出して元気に遊んでいます。イベント係として毎月楽しい企画を立てて提案し,みんなを楽しませました。作文では「わたしのお母さん」という題で仕事と家事のために忙しく動き回るお母さんの姿をとらえたすぐれた作文を書きました。
Aは,通り一遍の子どもの姿を述べています。けれど,何かよそよそしい感じもします。それに,どうもわが子の具体的な姿が見えてきません。「〜ようです」と書かれると,テレビのレポーターのような目線で離れたところから推察している文面です。「〜してくれています」と書かれると,先生と子どもが対等の目線で書かれているような気がします。また,「素晴らしく」とあるけれど,何を丁寧にやったのかよくわかりません。また,どんなことに「取り組」んだのかもわかりません。
この所見の言葉は,まるでテレビのレポーターのような目線で書いているからです。また,立場が対等に感じるのは,先生自身が子どもに対して友達と同じ目線になっているからです。これは,保護者からすれば臨場感のない所見です。これでは「所見はパス」ということになりかねません。
これに対してBは,子どもの行動を具体的に描写しています。この文面は,教師の目線で書かれています。こちらの所見ならば,保護者も納得して受けとめます。
先生方の中には,「自分が書いた文章に自信がない。」「一応書いたもののどうもよく書けていない。」「添削されたけど腑に落ちない。」と思う方がいることでしょう。そして,「何とかしてこのような状況を脱出したい。」と思っている方も多いと思います。
本校の若手教師も同じでした。そこで,定例育成会で通知表の書き方についての研修を行いました。所見の下書きの改善案を考えて模範解答を示すという演習方式の研修です。先生たちからは「書き方のコツがわかった!」と好評でした。そして,先生たちの所見もずいぶん改善されました。
この研修を基にまとめたのが本書です。所見の文例は,その時に取り上げた所見(下書き)と研究同人及びかつての教え子たちの協力を得て引用しました。私の担任時代の所見もあります。
本書で所見の書き方のトレーニングをしていただき,多くの先生方に「所見の名手」を目指していただければ嬉しく思います。
平成25年1月 /駒井 隆治
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