- はじめに
- 第1章 障害観の変化と発達障害児への対応が制度化されるまでの流れの概観
- 1 障害観(WHOによる障害モデルの転換)と「発達障害」
- (1)障害観の転換について
- (2)「発達障害」の定義及び対応について
- 2 学習指導要領の改訂及び特別支援教育への転換の経過と今後に求められるもの
- (1)学校教育法について
- (2)学習指導要領について
- 第2章 自閉症教育の歴史と現在
- 1 基本的理解(症候群・スペクトラムという概念)
- 2 原因と疫学
- 3 機能障害を疑われる脳部位と諸理論
- 心の理論
- 中枢性統合
- 実行機能
- 扁桃体理論と自閉症の脳機能について
- 第3章 自閉症に対する基本的対応の変遷
- 1 自閉症の捉え方と対応の変遷
- 2 自閉症をどのように理解するか
- 第4章 自閉症支援についての経験的試論
- 1 「安心」を育むために
- 2 「信頼」を得るために
- 第5章 エビデンスをもとにした特別支援教育を進めるために
- 1 数例の事例・調査報告
- (事例1) 情緒障害特別支援学級の友達関係の調整について
- (事例2) 不適切行動への対処について
- (事例3) 「あっ君」の自己表現(興味関心にそった支援の一つの試み)
- (調査報告1) 引継ぎのあり方について
- (調査報告2) 移行期に必要とされる支援(小学校への接続)について
- 2 並び立った支援関係の構築(ICF支援シートの活用)
- 3 生活を基盤に据えた支援
- 4 特別支援教育データベース(正式版)の活用の可能性
- (1)特別支援教育データベースの概要
- (2)記録分析活用例
- (事例1) 会話分析から(KeyGraphの活用)
- (事例2) 日々の記録を活かすための一つの試み(記録一覧化とその分析)
- 第6章 まとめにかえて
- おわりに
はじめに
「支援」という言葉が盛んに使われるようになった。「△△障害の○○さん」という見方ではなく「○○さん(△△障害がある)」という見方で,「かけがえのない一人の人間の今」に向き合おうとする態度が,「支援」という言葉に込められていると思う。その「今」は将来のための今ではなく,将来に続く「今」であり,様々な人とのかかわりのなかにある今である。
特別支援教育体制となって「教育的ニーズ」という言葉も使われるようになった。ニーズを把握するというのは難しい。教師は「〜ができるように子どもの力を伸ばす」ことを使命としてきた。それは,教育(授業)が文化の伝達を目的としている以上,変わらない指導の視点であるに違いない。「教育的ニーズ」を中心に据えた特別支援教育は,教えることが先にあって,それをどのように教えるかという視点からの脱却も求められる。子ども一人ひとりの生活をまるごと認めた上で,「すべきこと」を選び出し,その重要度や優先順位を考慮して「どうするか」を考え,選択肢と指導の場を用意し,実践・反省・評価の過程を共有して次につなげる営みを繰り返すことが求められる。このような,本人を中心に据えた指導実践とその評価とリトライには「伝え合える関係」が重要となる。「支援」とは関係性を意識した営みを指した言葉でもある。教えること(指導)と育むこと(支援)のバランス感覚がより強く求められている。
従来の障害児教育が特殊教育から特別支援教育に含みこまれる流れのなかで,これまでの歴史と思想を学びなおすことは,変革の時期だからこそ必要であると考える。私のような拙い実践と浅い理解しか持たない者が,そのような試みを行うことには無理があることは承知している。しかし,25年間の教師生活の大半を障害児教育・自閉症支援に携わった教師の一人として,変わりつつあるものと変わらないもの,そして変えねばならないことと変えてはいけないものを明確にできればと思う。その上で,「伝え合える関係」を大切にした取り組みの一つとして「計画と実践記録を一体化させたデータベース(特別支援教育データベース)」の可能性について,また,幼児期からの一貫した支援のために必要とされていることの調査など,自身が取り組んできた具体的な試みも俎上に載せて読者の批判を仰ぎたい。
2010年1月 /菅原 弘
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