- 監修のことば
- はじめに
- 第1章 10万都市福岡県春日市の教育
- 1 春日市の教育行政システム
- (1)春日市教育委員会の状況
- (2)教育行政の方針
- 2 春日市の特別支援教育システム
- 3 春日市の現状について
- (1)特別支援学級
- (2)通級指導(ことばの教室)
- (3)通常の学級における障害に配慮した指導
- 4 配慮を要する児童生徒の把握から就学の決定について
- (1)5月から6月にかけて:進路説明会の開催
- (2)7月から8月にかけて:就学前相談の実施
- (3)9月:適正就学指導委員会の実施(第1回)
- (4)9月から11月にかけて:就学時健康診断の実施
- (5)11月,2月:適正就学指導委員会の実施(第2回,第3回)
- (6)12月:県立特別支援学校への就学通知
- (7)1月末:入学通知書の発送
- (8)2月:ことばの教室の入級申請開始
- 5 連携及び事業展開
- (1)障害児巡回教育相談(県の事業)
- (2)筑紫地区地域特別支援連携協議会による相談,研修(広域事業)
- (3)特別支援相談等事業(市の事業)
- (4)市教育研究所による取り組み(市の事業)
- (5)庁内における連携
- (6)学校支援ボランティア派遣事業(市の事業)
- (7)特別支援教育コーディネーターによる校内体制づくり
- 第2章 乳幼児期からの支援
- 1 春日市直営施設「くれよんクラブ」の設立と事業
- (1)「くれよんクラブ」設立の経緯
- (2)「くれよんクラブ」の現状
- 2 春日市直営施設としてのメリット〜連携について〜
- (1)ことばの教室との連携
- (2)小学校との連携
- (3)健康課(保健師)との連携
- (4)こども未来課との連携(保育所担当)
- (5)学校教育課との連携(学校教育担当)
- (6)子育て支援センター(子育て支援課)との連携
- (7)福祉支援課との連携(障害担当)
- (8)市役所内の関係所管との連携
- (9)その他の連携
- 3 春日市「くれよんクラブ」のさまざまな試み
- (1)めだかくらぶ,こめだかくらぶ(親子支援グループ)
- (2)幼稚園・保育所(園)巡回訪問事業
- (3)特別支援保育研修会
- (4)サポートブック作成について
- (5)幼児SSTの試み
- (6)特別支援保育コーディネーターの試み
- 第3章 学童期の支援〜通級指導教室「ことばの教室」の支援〜
- 1 ことばの教室の概要
- (1)ことばの教室の設置から現在まで
- (2)指導時間
- (3)指導形態(指導者1名:児童1名)
- 2 ことばの教室での支援
- (1)実践例1〈聞く〉力を高める言語指導の実際
- (2)実践例2〈コミュニケーション〉の力を高めるグループ指導の実際
- 3 幼児期と学齢期の連携について
- 4 通常の学級での支援
- (1)ことばの教室と通常の学級の連携
- (2)通常の学級での通級児童への支援
- (3)学級全体での特別支援
- (4)学校内での特別支援教育の体制
- 5 特別支援教育コーディネーターの活躍
- ★各学校での特別支援教育の体制
- 6 見えてきたもの…校内通級の必要性
- 第4章 民間における支援
- 1 春日市子どもの発達地域支援の会「ゆうゆうゆかい」
- (1)「ゆうゆうゆかい」設立の流れ
- (2)「ゆうゆうゆかい」の取り組み
- (3)まとめ
- 2 親の会「ぶどうの会」
- (1)「ぶどうの会」の歴史
- (2)「ぶどうの会」の活動
- (3)「ぶどうの会」SSTについて
- 第5章 春日市連携支援システムの成果と課題
- 1 見えてきた課題
- 2 まとめとして
監修のことば
発達障害のある子どもの教育で大切なことは,一人ひとりの子どもがもつさまざまな困難に周りの者が早く気づき,早く対応していくことである。
そして,そのような困難は,学習面の困難,行動上の困難,あるいは,学校生活や社会生活を送る際の困難など,子どもによって種類も程度も異なる。だからこそ,彼らに直接に関わる保育士や教師らへの期待は大きい。保護者にできることも少なくない。このことから,保育士や教師の専門性向上を目指した研修会が企画され,指導法を扱った書籍が刊行され,関連する情報がネットで交換されている。
このような保育士や教師らの地道な活躍を支えるのが,自治体の具体的な取り組みである。自治体としての適切な取り組みがあると,保育士も教師も安心してその力を発揮することができるのである。本書は,福岡市に隣接した人口10万人規模の春日市が取り組んできた乳幼児期からの療育の実際の紹介である。
春日市における発達障害のある子どもの早期からの支援の特色は,一言で言うと,人口規模や自治体の特徴を踏まえた公的な支援システムが構築されるとともに,親の会やさまざまな民間の取り組みがうまい具合に重なっている,ということである。あたかも,いろいろな色の糸が絡み合って確かな1本の綱を紡いでいっているようだ。一つひとつは確かで大切な支援だが,ややもすればバラバラで薄い関係になってしまい,総体として確かさや力強さを感じないといった状態を何とか避けていこうとする姿勢を感じる。既存のさまざまな支援をうまい具合に紡いでいき,やがて多様なニーズに応えうる確かで力強い支援となっていく様を,本書は見せてくれる。
本書の構成は,まず春日市の特別支援教育の全般的な状況が解説され(第1章),続いて,春日市直営施設である「くれよんクラブ」の設立の経緯とその取組内容が紹介される(第2章)。この施設により就学前の早期からの適切な対応が可能となり,学校就学への移行がうまい具合に進んでいく。小学校では,通級指導教室が大きな役割を果たす。教室がLD・ADHDのみならず,言語,難聴にも対応することで,多様なニーズに応えていく(第3章)。これに加えて,いくつかの民間の支援グループが機能している。また親の会の取組も春日市の特別支援教育の一端を確かに支えている(第4章)。そして,最後に,春日市における連携支援システムの全体的な振り返りと今後が示される(第5章)。
このような本書の果たす役割は大きい。特に,同じような人口10万人規模の他の自治体にはおおいに参考になるだろう。そして,発達障害のある子どもの早期からの発見や早期からの支援に直接関わる保育士・教師や行政担当のみならず,教育・福祉・医療等の専門家や保護者にも貴重な情報提供となるであろう。
国立特別支援教育総合研究所 教育情報部長/上席総括研究員 /柘植 雅義
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