- ■はじめに
- 指導課題チェックリストの解説
- 1 作成のねらい
- 2 調査結果の要約
- 3 使用法
- (1)適応年齢段階
- (2)指導課題チェックリストの見方
- (3)個別の指導プログラムの利用の仕方
- (4)指導上の留意事項
- ○プロフィール
- ○達成度一覧表
- 指導年齢
- 2歳 基本的生活習慣 集団参加
- くらしの技術 職業意識
- 3歳 基本的生活習慣 集団参加
- くらしの技術 職業意識
- 4歳 基本的生活習慣 集団参加
- くらしの技術 職業意識
- 5歳 基本的生活習慣 集団参加
- くらしの技術 職業意識
- 6歳 基本的生活習慣 集団参加
- くらしの技術 職業意識
- 7歳 基本的生活習慣 集団参加
- くらしの技術 職業意識
- 8歳 基本的生活習慣 集団参加
- くらしの技術 職業意識
- 9歳 基本的生活習慣 集団参加
- くらしの技術 職業意識
- 10歳 基本的生活習慣 集団参加
- くらしの技術 職業意識
- 11歳 基本的生活習慣 集団参加
- くらしの技術 職業意識
- 12歳 基本的生活習慣 集団参加
- 以上 くらしの技術 職業意識
はじめに
21世紀の特別支援教育の目標は自立と社会参加です。そして,その具体的目標は,基本的生活の確立,集団参加能力の向上,地域生活及び職業生活への適応と考えられており,学習指導要領では,これらの目標へ向けての指導内容も示されています。
しかし,その内客は一般的で,例示的なものになっているため,実際の指導においては,参考程度でほとんど活用できません。また,学習指導要領解説書には各教科の具体的内容が段階的に整理されていますが,いつ(時期),何を(内容),どのように(段階)指導していけばよいかとなると,指導年齢や指導の順序性が明らかにされていないため,もっぱら教師の英知と判断により,まさに手探りで,児童・生徒の実態を把握し,指導課題を設定していかなければならないのが現状です。障害が重度化,多様化,複雑化してきている現場にあって,これは並大抵のことではありません。
知的障害養護学校の現場では,今,指導上の課題が山積しています。中でも最も苦慮しているのは「児童・生徒の実態,発達段階を正しく把握するにはどういう視点で児童・生徒をとらえればよいか」「児童・生徒の実態を把握し,つまずき,指導課題を発見したとしても,どんな内容を,どんな順序で指導していけばよいか」「障害種別に応じた指導はどうすればよいか」「児童・生徒たちが将来,社会的自立を果たすためには小学部,中学部,高等部の養護学校生活の12年間をどうとらえ,指導内容を組織化,体系化していけばよいか」など発達課題の確認や指導内容の選択の問題が中心となっています。子どもを成長させていくために欠かすことのできない基本的なことが課題になっているのです。言い換えれば,現場では,子どもの実態に即した指導が十分なされていないのではないか,ということが言えます。
こんなに課題の多い状況の中で,果たして機能する個別の指導プログラムを作成するのは可能なのでしょうか。筆者は多くの知的障害養護学校で個別の指導プログラムを見せてもらいましたが,そのほとんどが,現在の実態把握に終始したり,通知票に替わるものとしてとらえていたり,単なる成長,指導の記録であったりなどで,将来に発展する,機能するものになっていないのが現状です。どんな指導をして,何が身につき,何が身についていないか,現在の課題はどこにあるのか,どのような指導をすれば将来の自立,社会参加が実現できるのかなど,本来,最も重要とされる,指導の継続性,一貫性につながる個別の指導プログラムの作成はまだまだといったところです。
「教育とは,発達に基づいて学習を成立させる過程である」と言われています。子どもの今現在の発達の姿を正確にとらえ,指導目標を立て,指導内容・課題を決め,一人一人にあった指導プログラムを作り,段階を追って指導を進めていかなければ子どもを,発達,成長させることはできません。こうした教育の目標や指導内容は,発達検査や知能検査だけから知り得るものでもなければ,障害のない子どもの発達だけを追ってわかるものでもありません。子どもを発達,成長させるためには,どうしても,知的障害教育の目標,ねらいを明確にした,将来を見通した指導指標,すなわち社会的自立を実現する,障害のある子どもの発達に即した個別の指導プログラムが必要なのです。
子どもの実態を調べてみますと,発達段階からいって,もうすでに,当然身につけておかなければならないことがまったくできていなかったり,また,まだ到底できるはずのないことが堂々と指導されていたりということがよくあります。頭の固い,許容量の限られている子どもたちです。もっと効率よく,無駄のない指導ができないものかと考えさせられます。
人間の発達にはいくつかの節があり,発達臨界期があると言われています。早くてもいけない,遅くてもいけない,そのときでなければいけないものがあり,それを確実に習得することで,初めて次の発達課題の習得が可能になると考えられています。子どもにとって,今必要な課題を的確に把握し,一つ一つ階段を上るごとく消化,習得していかなければならないのです。
本書は,こうした教育上の課題を少しでも改善し,一人でも多くの子どもたちが職業生活,社会生活に参加できるようになることを願って作成した,個別の指導プログラムです。現場の先生を始め,親御さんにとって,この個別の指導プログラムが,子どもの実態を把握し,指導課題を設定するための指標となり,効果的な指導を行うための立案ガイドとなれば幸いです。
本書は障害種別に応じた指導年齢,及びそれぞれの指導課題に対する具体的な指導法のポイントを明記していますので,個別の指導プログラムに示した指導時期を考慮し,指導に当たれば,定着はそれほど難しいものではないと考えています。子ども一人一人に,この個別の指導プログラムを活用し「実態のチェック→実態のチェックに基づいた指導課題の分析,検討→指導目標の設定→実践→実態の再チェック」の一連の指導を繰り返す中で,成果を上げていただきたいと願っています。この個別の指導プログラムは子どもたちが将来,社会的自立を果たすために最小限必要であると思われる指導課題を抽出,整理していますので,子どもの実態に応じて,段階を迫って,一つ一つ確実にできるように指導していけば,必ずや成果は得られると信じています。
本書は1990年に出版し,現在16版,おかげで多くの人の支持を得てきました。しかし,ここ最近は,「指導課題が今の生活にそぐわないものがあるので,改訂してほしい」という声も聞かれるようになりました。そこで,このたび,指導課題を再検討し,現在の生活に合わせた指導課題に変更するとともに,新たに職業意識を中心とする指導課題を加え,総課題項目数,840の課題項目に及ぶ個別の指導プログラムを作成しました。是非,このプログラムを利用し,子どもの一生の発達,成長を追い続けてほしいと思います。
終わりに,この本を利用し,貴重なご意見をお寄せいただいた読者の方々,並びに改訂本を熱心に勧めていただき,労をとってくださった明治図書出版の三橋由美子氏に心から感謝を申し上げます。
なお,この個別の指導プログラムの作成にあたっては,文部科学省科学研究費・基盤研究C(平成14〜16年度)の研究成果の一部を使用しました。
2005年12月 著者 /上岡 一世
子どもには発達の順番があります。
発達の順番を無視した指導は、害そのものとなる場合さえあるのです。
何歳頃にどんなことを教えることが可能か、どんなことができつつあるのか、そのようなことがふんだんに書かれてある好著です。