- まえがき
- 第1章 特別支援教育とキャリア教育
- 1 特別支援教育とキャリア教育の統合
- 2 特別支援教育の意味,方向性の理解
- (1) 特別支援教育はすべての人の意識を変える教育である
- (2) 特別支援教育は教育の原点を生かす教育である
- (3) 特別支援教育は支援の質を高める教育である
- 3 キャリア教育の必要性とその理解
- (1) 特別支援教育に今なぜキャリア教育が必要か
- (2) 職業教育の充実がなぜ求められているのか
- (3) 12年間の指導の一貫性・継続性はむずかしいのか
- 4 授業改善の重要性
- (1) 子どもが成長・発達する授業の実現
- @ 機能する学習指導案の作成
- A 子どもが成長・発達する障害の理解・発達の理解・子ども理解とは
- B 子どもが成長・発達する授業の3条件
- (2) 機能する「個別の指導計画」の作成
- 5 キャリア教育とは
- (1) 勤労観を育てるためには
- (2) 職業観を育てるためには
- (3) キャリア教育を取り入れるとは
- @ 目標設定
- A 指導視点
- B 指導者の意識
- C 個別の支援計画のねらい
- D 自立・社会参加・就労の考え方
- (4) 人生の質を高めることを目指す
- @ キャリア教育が目指す指導過程
- A 基本行動とは
- B 生きる力とは
- (5) 基本行動を確立するためには
- @ 自分のことは自分でする
- A ルール・マナーを守る
- B 注視能力の向上を図る
- 6 生活意欲の必要性とその育成
- (1) 生活意欲がなぜ必要か
- (2) 生活意欲と生活実態
- (3) 生活意欲の育成
- @ 自己効力感を高める
- A 自己有能感を高める
- B 自己耐用感を高める
- C 行動的理解力を高める
- 7 働く意欲の必要性とその育成
- (1) 働く意欲がなぜ必要か
- (2) 働く意欲と生活実態
- (3) 働く意欲の育成
- @ 一人で正しく,確かにできる作業課題を設定する
- A 作業の目的,目標を理解した上で作業に取り組む
- B 結果よりも結果を出した努力を評価する
- 第2章 キャリア教育と教育課程
- 1 今までの教育とこれからの教育
- (1) 今までの教育
- (2) これからの教育
- (3) 12年間教育を積み重ねることの重要性
- (4) 今までの教育課程とこれからの教育課程
- 2 日常生活の指導の見直し
- (1) 指導事例に学ぶ
- (2) 日常生活の指導の継続性・一貫性への対応
- @ 小学部の指導
- A 中学部の指導
- B 高等部の指導
- (3) 同じ指導内容でも学部により目標が違う
- @ 着替え
- A 手洗い
- B あいさつ
- 3 生活単元学習の見直し
- (1) 生活単元学習の継続性・一貫性
- @ 小学部の指導
- A 中学部の指導
- B 高等部の指導
- (2) QOLを高めることが目標
- @ 小学部の目標
- A 中学部の目標
- B 高等部の目標
- 4 作業学習の見直し
- (1) 作業学習の継続性・一貫性
- @ 小学部の指導
- A 中学部の指導
- B 高等部の指導
- (2) 貢献を実感することが目標
- @ 小学部の目標
- A 中学部の目標
- B 高等部の目標
- 第3章 キャリア教育を取り入れた実践
- 1 指導・訓練から支援への転換
- (1) 指導・訓練の課題
- (2) 発達的支援の重要性
- 2 量から質への転換
- (1) できることの質を高める取り組み
- (2) 分かることの質を高める取り組み
- (3) 主体的行動の質を高める取り組み
- (4) 応用・般化の質を高める取り組み
- (5) 質の高い体験をする取り組み
- 3 「日常生活の指導」の7つの指導ポイント
- 4 「生活単元学習」の9つの指導ポイント
- 5 「作業学習」の9つの指導ポイント
まえがき
今,全国のほとんどの特別支援学校では,キャリア教育を取り入れた実践が行われています。しかしながら,成果が出ているかというと,実は,課題が山積しています。「キャリア教育とは何か」,「なぜ特別支援学校にキャリア教育を取り入れなければならないのか」,「キャリア教育を取り入れると,この教育はどう変わるのか。子どもたちにとってどんな効果があるのか」などキャリア教育を推進していく上で必要な基本的理解がまだまだできていないのが現状です。
筆者は,各地の学校でキャリア教育の実践を見せてもらうことが多いのですが,先生方から「これからはキャリア教育を取り入れた新しい特別支援教育が始まるのか」,「今までの特別支援教育とキャリア教育を取り入れた教育の違いはどこにあるのか」,「教育課程の編成は今までどおりでよいのか」,「指導内容,指導方法を変えなければいけないのか」,「教育目標や目指す方向性に変化はあるのか」,「キャリア教育を取り入れた授業とはどういう授業になるのか」など,具体的な実践方法についての質問を多く受けます。キャリア教育に関する書物もたくさん出ているし,講演会などを通して,話を聞く機会も多いはずなのですが,いざ実践となると,どの学校でも,特別支援教育とキャリア教育をどう統合し,教育計画を立て,指導を行っていけばよいかという,確固たる方向性が見いだせず,苦慮しているのが実際です。
ある先生からは「本も読んだし,講演会にも参加し,キャリア教育について勉強してきた。そのためキャリア教育とはどういう教育であるかは何とか理解できた。しかし,キャリア教育を取り入れて成果を上げるためには具体的にどういう実践をすればよいか,となると,本にしろ,講演にしろ,具体的な説明がほとんどないため,結局,実践にはなかなか移せず,消化不良の状態である。この教育でのキャリア教育の必要性と導入の仕方,そして,それに基づく取り組みの実際を教えてほしい」と訴えられました。
せっかく,キャリア教育に取り組んでも,こうした課題を残したままの実践なら,成果が上げられないばかりか,かえって,方向性が見えない中途半端な実践が行われ,子どもの成長,発達にマイナスに作用する可能性があります。こうなってしまったら大変です。キャリア教育は本来,特別支援教育の一層の充実,発展のために取り入れられた教育ですから,それが実現できないとするならば,取り入れる意味がなくなってきます。キャリア教育の理解の上に立った特別支援教育を考えることが,これからの教育では何よりも重要なのです。
筆者は,愛媛大学教育学部附属特別支援学校で5年間,先生方と共に,キャリア教育を取り入れた教育のあり方について実践研究を積み重ねてきました。キャリア教育を取り入れた特別支援教育を実現しなければ特別支援教育の充実,発展もないし,子どもたちの将来の自立も社会参加も,就労もあり得ない,という基本方針に立って,「人生の質の向上」をキーワードに,今までの教育を指導内容,指導方法,授業改善の視点で見直し,成果を上げてきました。
本書は,こうした実践研究を基にして,全国の多くの学校でも,キャリア教育を理解した,成果の上がる教育実践を積み重ねてほしいという思いから,まとめたものです。
第1章では,「特別支援教育とキャリア教育」と題し,特別支援教育とキャリア教育との関係性,特別支援教育におけるキャリア教育の重要性,キャリア教育の意味,キャリア教育を取り入れた教育実践のあり方について,今まで教育との違いを示しながら分かりやすく解説しました。
第2章では「キャリア教育と教育課程」を取り上げ,今までの教育課程とキャリア教育を取り入れたこれからの教育課程はどのように違わなければならないか,何にポイントをおいての編成が必要か,について述べると共に,日常生活の指導,生活単元学習,作業学習の3つの中核的な指導形態を取り上げ,小学部,中学部,高等部別にそれぞれ指導のあり方を提示しました。
第3章では「キャリア教育を取り入れた実践」について,キャリア教育を取り入れるということは,どういう実践を行わなければならないか,具体的な事例をあげて述べました。また,指導者として,どういう専門性を持って実践に当たらなければならないかを,支援,対応のあり方に視点を当て,改善点を示しながら,まとめました。
本書を参考に,それぞれの学校で,特別支援教育に取り入れられたキャリア教育の本来の意味を理解し,この教育の本質を見失うことなく,子どもの実態に即した実践を積み重ね,キャリア教育が最終的に目指す,「人生の質の向上」が,すべての子どもに実現できるよう,教育改善を図ってほしいと願っています。
筆者は,キャリア教育を取り入れた特別支援教育が確立できれば,特別支援教育はすべての教育の質を高めるために欠かせない教育としての地位を確立することになると信じています。これこそが,まさに教育の原点の実現です。
キャリア教育を取り入れた特別支援教育はすべての教育の柱となる教育であり,すべての教育の質を高めるために大変重要な教育であることをしっかりと認識し,実践を積み重ねてほしいと思います。
2013年4月 著者 /上岡 一世
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- 明治図書
- 上岡一世先生の著作は、特別支援教育担当の人には、まず基本になると思われる。その教育は厳しいが、社会で生きていく人を育てる指針となる。各学部にわかれ、より具体的になった本書をまず読もう。2015/7/1830代・男性