- まえがき
- 第1章 情緒が安定する支援・対応のポイント
- 1 情緒の安定がなぜ必要か
- 1 情緒が安定するとは
- 2 真の情緒の安定とは
- 3 職業生活に不可欠
- 4 情緒不安定の原因
- 2 情緒が安定するにはどういう取り組みが必要か
- 1 基本行動
- 2 生活のリズム
- 3 家事労働
- 4 余暇の利用
- 5 働く意欲,喜び
- 6 主体的行動
- 7 役割遂行
- 第2章 情緒が安定する取り組みの実際
- 1 小学校生活期での取り組み
- 1 【重度知的障害のある自閉症】低学年
- 基本的生活習慣の定着と約束・ルールの理解を中心とした
- 指導により安定した事例
- 2 【中度知的障害のある自閉症】低学年
- 自ら取り組むことができるような工夫を
- 3 【軽度知的障害のある自閉症】低学年
- 自信をもてる学校生活を目指して
- 4 【重度知的障害のある自閉症】中学年
- 機能的な「ことば」の獲得と気持ちの調整
- 5 【中度知的障害のある自閉症】中学年
- 校外行事を思う存分楽しもう!
- 6 【軽度知的障害のある自閉症】中学年
- できる自分,役立つ自分を感じる生活
- 7 【重度知的障害のある自閉症】高学年
- 視覚的支援を中心にした環境づくり
- 8 【中度知的障害のある自閉症】高学年
- 切り替えるきっかけを探し,友達への気持ちを育てる
- 9 【軽度知的障害のある自閉症】高学年
- 小さな変更を意図的に設定する
- 2 中学校生活期での取り組み
- 1 【重度知的障害のある自閉症】A君の気持ちに寄り添うことから
- 2 【重度知的障害のある自閉症】伝えたい,伝わったという気持ちを育てる
- 3 【中度知的障害のある自閉症】笑顔の多い生活を目指して
- 4 【中度知的障害のある自閉症】
- 落ち着いて学習に取り組ませるための課題の種類や提示方法の工夫
- 5 【軽度知的障害のある自閉症】
- 不適切行動の改善から情緒の安定を図る取り組み
- 6 【軽度知的障害のある自閉症】Aさんの視点から安心できる環境を整える
- 3 高校生活期での取り組み
- 1 【重度知的障害のある自閉症】
- 「この子らしさ」を発揮して,生き生きと活動に取り組む子ども
- 2 【重度知的障害のある自閉症】
- 本人にわかりやすく伝える,本人のことをわかりやすく伝えるための支援
- 3 【中度知的障害のある自閉症】集団の中で主体的に役割を果たすために
- 4 【中度知的障害のある自閉症】「思考のもどかしさ」を改善する工夫
- 5 【軽度知的障害のある自閉症】進路の目標をもつことで情緒が安定したA君
- 6 【軽度知的障害のある自閉症】肯定感をもたせる取り組み
- 4 職業生活期での取り組み
- 1 【重度知的障害のある自閉症】主体的な行動を引き出す取り組み
- 2 【中度知的障害のある自閉症】移行期での対人関係向上を目指して
- 3 【軽度知的障害のある自閉症】支援をつないで生き生きと働く
まえがき
自閉症の子どもはどのような支援,対応をすれば情緒が安定するのでしょうか。これは自閉症の子どもにかかわるすべての人が望み,目指していることです。特に日々彼らに直接かかわっている教師や保護者は,このことを解決するためにさまざまな配慮や工夫をしています。しかしながら現実は,彼らの情緒不安定に悩み,解決を見いだせないまま試行錯誤の日々を送っている指導者も多いと聞きます。自閉症の子どもの情緒を安定するのは難しいのでしょうか。自閉症だから情緒不安定になるのでしょうか。決してそうではありません。情緒不安定で,なかなか学習活動に参加できにくかった子どもが,教師の適切な支援,対応により情緒が安定し,学校でも家庭でも,また職場でもなくてはならない,頼れる存在として,生き生きと活動できている人もいます。こうした事例を考えると,自閉症という障害が情緒を不安定にしているのではなく,かかわり手のかかわり方によって情緒の安定度が違ってくることがわかります。
情緒不安定は自閉症の障害だと考え,何もしなかったり,情緒不安定だけに注目し,その改善に一生懸命になったりする指導者も少なくないですが,彼らの情緒不安定は彼らの問題ではなく,我々側の問題であるという認識をもつ必要があります。自閉症という基本障害をしっかりと理解し,かかわり手がかかわり方を検討,工夫すれば,情緒は間違いなく安定させることができるということです。
では,自閉症の障害を理解した,情緒を安定させるかかわり方とはどういう取り組みを言うのでしょうか。自閉症の子どもの情緒には発達の段階があり,年齢により情緒が安定しやすい時期とそうでない時期があります。また,障害の程度により,その内容や質も異なります。当然ながら,その時期や障害の程度によって支援法も対応法も違ってきます。理想的には,障害の程度にかかわらず,それぞれの年齢段階で情緒が安定し,主体的な学習活動が展開できることが何よりも重要だと言えます。
本書は,自閉症の子どもたちに対して,どういう工夫や配慮をすれば,また,どういうかかわり方をすれば情緒が安定し,主体的,意欲的に学習に取り組むことができるのかを,実際に成果の上がった具体的事例を通して明らかにするために企画したものです。
最終的に目指すのは,単に彼らの情緒が安定することではなく,情緒が安定した状態で,地域で働き,暮らす生活を実現することです。そうした視点に立って,自閉症の子どもの情緒が安定する効果的な取り組みの実際を全国から広く集めてみました。
第1章では「情緒が安定する支援・対応のポイント」と題し,自閉症の子どもにとって情緒の安定がなぜ必要か,情緒が安定するためにはどういう取り組みが必要か,について論述しました。
第2章では「情緒が安定する取り組みの実際」を,年齢段階別(小学校生活期(低学年期,中学年期,高学年期),中学校生活期,高校生活期,職業生活期),障害程度別に分けて,事例を取り上げました。自閉症に見られるであろう情緒不安定に関する困ったことに対して,具体的にどう支援・対応することが効果的か,どうすれば意欲的な生活が実現できるのかが具体的に示されていますので,是非,日々の取り組みで役立ててほしいと思います。
本書の編集に当たり,ご多用中,貴重な事例を提供いただいた先生方には,心から謝意を表する次第です。また,本書の企画,編集でお世話になった,明治図書出版編集部の三橋由美子氏,及び校正に直接たずさわられた橘亜希氏には深く感謝いたします。
2011年1月 編著者 /上岡 一世
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- 明治図書
- 情緒不安定で学校生活に困難を感じている子どもの指導に関する良書であると思う。事例・対策とその背景となる理論の充実に期待します。2015/6/1340代・中学校教員
- 情緒の安定は学校生活を安心して過ごすための基本。とても参考になりました。事例の増補と参考文献の掲載充実に期待します。2015/5/2340代・中学校教員