- 刊行に寄せて
- はじめに
- Part1 対話能力をアップする授業づくりのポイント7
- 1 現状から見る「対話」の必要性について考えよう!
- (1)教室での「対話」の必要性
- (2)伝え合い活動の現状
- 2 一往復の伝え合いの要素を見てみよう!
- (1)対話(一往復)の成立の意味
- (2)対話(一往復)の成立の要素
- 3 対話が成立するためのポイントを押さえよう!
- (1)対話が成立するための4つのポイント
- (2)4つのポイントと主な発言例・指導例
- (3)対話能力系統表
- (4)4つの対話のポイントの説明例
- (5)学年によって目標が変わる(同じポイント)
- 4 対話の話題と指導との関係を知っておこう!
- (1)話題の種類
- (2)話題の質を考えた指導について
- 5 「目的としての対話」と「手段としての対話」の違いを押さえよう!
- (1)「対話を学ぶ」と「対話で学ぶ」
- (2)対話を学ぶ―モジュール特設―
- 6 「対話を学ぶ」授業の流れを見てみよう!
- (1)「対話を学ぶ」基本的な授業の学習の流れ
- (2)対話の授業をする際の留意点
- (3)対話のポイントを習得し,活用させる授業の流れ
- 7 対話の評価について考えよう!
- (1)評価規準(目標)の具体化
- (2)子どもの多様な発言に対応したみとる力の必要性
- (3)学びを確かめる評価問題の活用
- Part2 「対話を学ぶ」×「対話で学ぶ」授業プラン&活動アイデア25
- 1 「対話を学ぶ」授業プラン
- 対話のポイントの習得を重視した導入期の指導(全学年)
- @ めざせ対話名人! 知って,使って,楽しんで
- 受けとめを重視した導入期の指導(低学年)
- A 心と言葉を受けて返そう
- 感想交流を重視した対話指導1(全学年)
- B 行事(マラソン大会)について感想交流しよう
- 感想交流を重視した対話指導2(全学年)
- C 教材(「注文の多い料理店」)について感想交流しよう
- 問題解決を重視した対話の指導1(高学年)
- D みんなが楽しめるドッジボール大会をしよう
- 問題解決を重視した対話の指導2(低学年)
- E みんなが楽しめるドッジボール大会をしよう
- 対話を重視した単元展開例(低学年)
- F 友だち新聞を作ろう
- 対話を取り入れたスピーチ指導(中学年)
- G 聞き手重視のスピーチをしよう
- 伝え合いを重視したスピーチ指導(高学年)
- H スピーチの交流を大切にしよう
- 2 「対話能力を高める」活動アイデア
- 受けとめる言葉を重視した指導例(低学年)
- @ 言葉のキャッチボール
- 対話を文字化した指導例(全学年)
- A 音声言語を文字化して,よりよい使い方や効果を考えよう
- 質問の分類をする指導例(全学年)
- B 質問の仕方や大切さを伝えよう
- 質問の機能を考えさせる指導例(全学年)
- C より質の高い質問や質問のバリエーションを身につけよう
- モデルを取り入れた指導例(全学年)
- D モデルを提示しよう
- 人数の変化を意識させた指導例(高学年)
- E 2人組,グループの違いを考えよう
- グループや全体の発言をつなぐための指導例1(全学年)
- F 反応する大切さを考えよう
- グループや全体の発言をつなぐための指導例2(中・高学年)
- G 関連づけの大切さを考えよう
- それぞれの立場の人に意見を持たせる指導例(中・高学年)
- H 全員が参加できる交流のポイントを考えよう
- 意見を重ねる素晴らしさを理解させる指導例(全学年)
- I 話題が同じでも相手によって展開される内容が違うことを考えよう
- 話題を深めさせる指導例(全学年)
- J ウェービングで対話の準備をしよう
- 振り返り・自覚化を重視した指導例(高学年)
- K 継続的に振り返りを言葉で表現しよう
- 伝え合いの過程の大切さがわかる指導例(高学年)
- L 読みの深まりや対話能力の向上を目指そう
- 3 「対話で学ぶ」授業の実際
- 対話を生かす授業の工夫T〜対話が成立しやすい授業をデザイン〜
- 対話を生かす授業の工夫T〜授業の実際〜
- @ 国語 海のいのち(6年)
- A 算数 面積(5年)
- 対話を生かす授業の工夫U〜「対話を学ぶ授業」と「対話で学ぶ授業」とをつなぐ〜
- 対話を生かす授業の工夫U〜授業の実際〜
- B 算数(5年)
- おわりに
刊行に寄せて
わが国の国語科教育の中で,話しことば指導の重視が言われて久しい。正確には,言われ続けてきたというべきである。それは,国語科教育がかかわる児童・生徒の言語生活(言語活動)の時間を考えても,「話すこと・聞くこと」は,「書くこと」や「読むこと」よりも圧倒的に多いからである。また,家庭や学校で,「書くこと」や「読むこと」を欠かすことはできないが,それ以上に「話すこと・聞くこと」は大きな比重を占めている。あらゆる生活や学習活動は,ほとんどが「話すこと・聞くこと」によって成り立っているからである。しかし,それほど多くの時間を占め,様々な場面で行われる「話すこと・聞くこと」であっても,それを意図的・計画的に取り上げた学習・指導活動は決して多くない。平成20年度の小学校学習指導要領において,「話すこと・聞くこと」は,年間25から35単位時間程度を配当するとされている。それは,国語科の年間総授業時数175から315単位時間から考えても,その1割から2割に過ぎない。しかし,その少ない時間すら十分に活用されているとは言い難い。また,国語,社会,算数,理科の学習の手段・方法としての発表や話し合いなどの活動はあっても,それが意識的な「話すこと・聞くこと」の指導の場として自覚されることも少ない。
著者は,このような中で,優しく温かい,そして児童の個性を尊重した「話すこと・聞くこと」の指導に取り組んできた。そのために,西尾実,大村はま,村松賢一らの著作に学び,実践の方途を模索してきたという。
その開眼は,西尾実の,次のような「話す活動の類別」との出会いである。
・対話(1対1)
・会話(1対多)
・独話(1対衆)
西尾実は,話す活動を,1人の話し手と1人の聞き手が立場を交代しながら行う「対話」を基盤にし,さらに,1人の話し手が複数の聞き手と交代しながら行う「会話」,1人の話し手が講演などのように多数の聞き手に対して行う「独話」へと発展・展開すると捉えている。
この考えに出会い,著者は,その「話すこと・聞くこと」の指導を,対話に徹することから出発させることとした。慧眼である。教室の中では,まず,教師と児童との対話,児童相互の対話が行われる。それがあって初めて,教師と児童との会話,児童相互の会話,さらに,教師の説明・指示や,児童の発表・提言としての独話へと発展する。それは,国語科の学習においても,社会,算数,理科の学習においても,また,学級づくり,仲間づくりにおいても,同じである。対話から出発して初めて,教科の学習も生活の学習も可能になる。「1対1」の対話が,豊かで個性的なもの,温かく思いやりに満ちたものにならなければ,自分を大切にし,相手を尊重する学習活動は成り立たない。著者の考えの根底にあるこのような捉え方は,また,著者の人柄そのものでもある。
本書は,大きく理論編「対話能力をアップする授業づくりのポイント7」と実践編「『対話を学ぶ』×『対話で学ぶ』授業プラン&活動アイデア25」の2編からなる。そのうち,理論編で示された「4つの対話のポイント」は著者の実践・理論を支える最も基本的・基礎的な考え方であり,その根底に位置づくものである。
いま,この「4つの対話のポイント」を話し手と聞き手のどちらに重点を置くかに着目して図示すると,それは,次のようになる。
@受けとめる 話し手 →聞き手
Aくわしく質問する 話し手 ←聞き手
Bくわしく答える 話し手 ←聞き手
C話を進める 話し手←→聞き手
対話は,話し手からではなく,聞き手の「受けとめる」活動から出発する。聞き手が受けとめた内容について「くわしく質問する」ことで展開し,「くわしく答える」ことで発展する。さらに,話し手と聞き手の双方によって「話を進める」活動が行われる。口火を切る話し手の在り方よりも,それを受けとめる聞き手の活動を大きく位置づけるのである。この関係は,1対1の対話が,能動的な話し手と受動的な聞き手とによるものではないことを示している。むしろ聞き手の能動的な在り方が,対話の成否を左右すると捉える。
本書のPart2「『対話を学ぶ』×『対話で学ぶ』授業プラン&活動アイデア25」が[2]の「『対話能力を高める』活動アイデア」をはさんで,[1]に「『対話を学ぶ』授業プラン」,[3]に「『対話で学ぶ』授業の実際」と配列されているのも,上のような,聞き手の「受けとめる」活動を重視する考えからである。もちろん,直接的には,「対話を学ぶ」のが国語科,「対話で学ぶ」のが社会・算数・理科と理解される。しかし,それ以上に,「対話能力を高める活動アイデア」は,「対話を学ぶ」ことと「対話で学ぶ」こととの接点から生み出されたからである。
本書がきっかけとなって,各地の国語教室で,また社会・算数・理科の教室で,さらには学級づくり,仲間づくりの場で,対話能力育成への挑戦が行われることを願ってやまない。
2013年8月 岡山大学名誉教授 /菅原 稔
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- 明治図書
- 学習したことを活用していくためには対話も大切な能力だと考えます。しかしそれがなかなか身につかない。少しでもヒントになればと思い購入しました。できることから始めていきます。2015/10/1230代・小学校教員