- はじめに
- 本書における授業づくりの考え方
- T クリティカルに読む力と論理力を育てる説明文の学習指導とは?
- 1 説明文を読む(学習する)ことの楽しさ
- 2 クリティカルに読むということ
- 3 クリティカルに読むことを取り入れた言語活動(=学習活動)の観点
- 4 説明文のクリティカルな読みの授業で育てたい,論理力としての「関係づける力」
- 5 低学年におけるクリティカルな読みのポイント
- U クリティカルな読解力が身につく! 説明文の論理活用ワーク
- 1 本教材をクリティカルに読む
- 2 本実践の学習指導計画
- 3 ワークシートを使ってこんなふうに内容と論理に気づかせる!
- 4 ワークシートを使ってこんなふうに展開する!
- 5 よりよい実践に向けてのアドバイス
- 1年
- 「比較」の論理を活用する
- 1 「どうぶつの赤ちゃん」(光村)で,「自分で」「自分では」に気をつけて読もう
- 「事柄の順序」の論理を活用する
- 2 「みいつけた」(光村)で,事例の順序を考える
- 「説明の順序」の論理を活用する
- 3 「いろいろなふね」(東書)のひみつブック紹介をしよう
- 「順序」や「理由」の論理を活用する
- 4 「なにが できるかな」(三省堂)で,自分の考えを伝えよう
- 「関係づけ」の論理を活用する
- 5 「みぶりでつたえる」(教出)で,ボディランゲージの効果について確かめよう
- 2年
- 「比較」の論理を活用する
- 1 「おにごっこ」(光村)で,楽しく遊べる「おにごっこルールブック」をつくろう
- 「逆説」の論理を活用する
- 2 「たねのたび」(三省堂)で,工夫の伝え方をつかむ
- 「問いと答え」「順序」の論理を活用する
- 3 「ビーバーの大工事」(東書)で,「問い」に対する「答え」の書き方を身につけよう
- 「順序」の論理を活用する
- 4 「さけが大きくなるまで」(教出)で,順序や様子を考えながら読むことができるようにしよう
- 「理由」「比較」の論理を活用する
- 5 「しかけカードの作り方」(光村)で,わかりやすく説明するために表現の工夫を学ぼう
はじめに
説明文の授業をするのは難しい,おもしろくない,という先生方の声を聞くことは多い。それはそのまま,学習者である子どもたちの多くも,説明文の授業はつまらない,嫌いだと感じることにつながる。力がつき,そして楽しい説明文の授業はできないか。教師も,子どもたちも,説明文の授業を心待ちにするようにならないか。いつも,そう考えている。
力のつく,楽しい説明文の授業とは,当初読んで「わかったつもり」でいた内容や書き表し方に,新たな発見(見方,捉え方)ができるようになる授業である。自分のことばで,新たに意味づけや価値づけができる授業である。書かれていること(内容)を確かめ,それをそのまま単純に短くして要約するような読みに終始する授業ではない。
本書では,そうした説明文の読みを実現するために,筆者が書いた文章の内容や書き方(形式)をクリティカルに,すなわち批判的に評価して読む活動を授業の中核に位置づけることを試みた。そして,その過程や結果において論理力が育つことを意図した。
クリティカルに読むことは,PISA型読解力の育成が叫ばれるようになって注目されてきた読み方のように捉えられがちだが,これまでにも同様な読みのあり方は多くの研究者,実践者において提唱され,実践されてきている。それらでも明らかなように,クリティカルな読みは,粗探しの読み,文句をつける読み,ないものねだりをする読みではない。
本書では先学に学びながら,クリティカルな読みとして,なるほど,そういうことだったのか等の納得を含む読みを位置づけた。また,これはどういうことなんだろう,意味がよくわからないな等の疑問,問いをもつ読みも置いた。さらには,私ならこのように考える,書く等の新たな文章内容や書き方を創造する読みも設定した。総じて言うと,筆者に立ち向かっていくような読みを想定したということになる。
またこうしたクリティカルな読みは,言語活動(=学習活動)として設定されないと,授業の中では機能しない。何を,どのように読むか,その観点が必要である。本書では,文章全体の構成のあり方や,本論のあり方,とりわけ事例の内容や順序,取り上げ方等に着目させることなどに意識を向けた。
その際,本文のことばを手がかりに,ことばに基づいて内容を具体化して捉えることを重視した。なぜなら,これが表現活動(書くこと)の際に学習者自身が工夫し,吟味,検討できるところでもあるからである。
また内容や書き方について,自己の考えをもち,それを表明し伝える場と時間を大事にするようにもした。
本書では,上述したような趣旨を踏まえたワークシートの開発を,もう一つの大きな特色としている。具体的には2種類のシートを掲載した。一つは,クリティカルな読みを保障するためのワークシート,もう一つは,読み取った内容や書き方を活用して表現する(書く)ことを順調に実行させるためのワークシートである。実践においては他にもワークシートを開発し,授業では使ったわけだが,今回はいわゆる習得段階のシートと,活用(表現)段階のシートの2種類は,特に工夫を凝らして使うようにした。
掲載しているシートには,そのまま拡大コピーして使えるものと,参考にしながら作成し直さないといけないものとがある。多忙な毎日であるので,コピーしてすぐに印刷できるものは便利だろうが,実践に当たっては子どもたちの実態も考慮して,使いやすいように,より効果が現れるように手を加えていただければと思う。ワークシートの内容,形式は実践の考え方の一端を表している。その趣旨,方針のようなものをそこから読み取っていただけると,そのまま使うにしても,部分修正するにしても,その判断,改変のプロセスが授業イメージを形成することに大いに役立つだろうと考える。
本書所収の実践例においては,上述したとおり授業の実際をイメージしやすいように,また授業ですぐに使えるようにという点を配慮して,ワークシートの開発,活用を積極的に行った。しかし,思考の整理,表現力の伸長,そして準備,使用の簡便さという点で,授業の拠り所となるのはやはり基本的に冊子型ノートであろう。ワークシートは学習者や授業者の実態を考えると積極的に使うことが好ましい場合もある。ただ,丁寧すぎるワークシート,穴埋めしていくだけのワークシート,没個性的な読解や表現しか生まないようなワークシートからは脱却したい。言い換えると,いつもワークシートを完成させるための授業になるようなことだけは避けたい,ということでもある。そうした考えに基づいてワークシートの開発,活用に当たった。使ったワークシートの形式や観点が,冊子型ノートを使うときにも生かされるようなものであればと願っている。
PISA調査における読解力として熟考・評価して読む力が示されたこともあって,説明文の授業は大きく変わろうとしている。そうした折りに,本書を小学校編(低,中,高学年)と中学校編の計4冊のセットで上梓できたことは喜びに堪えない。刊行いただいた明治図書には,心より厚く御礼申し上げる。
本書企画のお話をいただいたのは前編集部の佐保文章氏からであったが,実質的な編集作業を受け継ぎ直接ご担当くださったのは編集部の木山麻衣子氏である。木山氏の丁重かつ的確なご調整,ご指示がなかったら,本書はできあがっていなかったかもしれない。記して謝意を表したい。
本書が,説明文の授業の活性化に寄与し,児童生徒のクリティカルな読解力の育成に資することを願ってやまない。
2012年7月 兵庫教育大学大学院教授 /吉川 芳則
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