- はじめに
- 序 いま,保育者に求められていること
- 第T部 かかわる
- [第1章] 子どもとかかわるということ
- 1 いま,子どもたちは
- 子どもを取り巻く環境の変化/ 環境変化と子どもの発達
- 2 かかわるとは
- かかわることと子どもの育ち/ 保育者とかかわりの関係
- 3 子どもをとらえる
- 個々の実態を把握する/ 集団の実態を把握する
- 4 豊かな保育・教育実践を展開する
- 豊かな保育・教育の前提/ 豊かな保育・教育実践の方法
- [第2章] 親子とかかわる
- ─親とともに育てる
- 1 保育園さがし……親
- 産まれたときは知らされなかった/ 出産直後に知らされた/ 母子通園を続けながら/ 保育継続の中で
- 2 受け入れと取り組み……職員
- 親も参加の職員会議/ 誰が担当するのか/ 保育者なかま
- 3 なかまとして……子どもたち
- 子どもの育ちにくさ/ みんなと食べる/ みんなで散歩/ 短いいのちだったけれど
- 4 親の思い
- 思わぬときに涙が/ 職場復帰/ 不安は人手/ 無限の可能性
- 第U部 はぐくむ
- [第3章] からだをはぐくむ
- 1 からだとこころ
- こころ・からだの発達と環境/ 現代の子どもの生活実態とからだ/ からだに関心をもつこと
- 2 からだの発達の様相
- 乳児期のからだの発達/ 幼児期前期のからだの発達/ 幼児期後期のからだの発達
- 3 からだをはぐくむ
- からだの育ちと日課/ からだの育ちと健康・安全/ からだの育ちと運動
- 4 からだをはぐくむ環境
- 5 からだとこころを育む食農保育
- [第4章] ことばをはぐくむ
- 1 ことばの発達
- ことばのとらえ方/ ことばの発達/ ことばの土台の発達/ 口腔機能の発達とことば
- 2 ことばの障害
- 言語障害とは/ 言語障害の種類
- 3 ことばを育むために
- 太郎君から学ぶ/ ことばを育むために
- [第5章] あそびをはぐくむ
- 1 子どもにとっての遊びの意義
- “縦の関係”と“横の関係”/ プロセスを楽しみ,能動的に探求する/ 意味を創り出し,イメージを広げる/ 遊びと言語発達/ ルールを学ぶ/ 遊びは「最近接発達領域」をつくる
- 2 遊びにおける保育者の役割
- 遊びは社会文化的環境の中で生まれる/ 最近接発達領域を支える足場づくり/ 共同遊びへのおとなの関与/ 相互性/ 柔軟な環境設定
- 3 障害のある子どもの遊びをはぐくむ
- 人と遊ぶ楽しさをはぐくむ/ 能動的に遊ぶ楽しさをはぐくむ
- 4 保育者による実践の共同的省察
- 第V部 つくる
- [第6章] 生活をつくる
- 1 子どもたちを取り巻く生活環境
- 生活リズムの変化について/ 家庭や地域の変化について/ 遊びの変化について
- 2 生活の構造的把握と障害児保育実践
- 障害のある子どもの生活の拠点とその組織化/ 生活内容としての障害のある子どもの活動
- 3 発達と生活づくり
- 4 生活サイクルとカリキュラム
- カリキュラムとは/ カリキュラム編成に向けて−障害のある子ども理解を中心に−/ カリキュラムを展開するなかで−指導の手順を中心に−/ 障害児保育内容の基本構造のなかで
- [第7章] なかま関係をつくる
- 1 育ちあう子どもたち
- 「なかま関係」が育つ姿/ 障害のある子どもの他者とのかかわりの課題/ なかま関係をつくるための課題/ 「共感」する力を育てる
- 2 子どもたちの集団をどう組織するか
- クラス編成と保育の形態/ 小集団保育の取り組み/ カリキュラム立案の視点
- 3 なかま関係が育つ土壌
- 子どもの「居場所」をつくること/ クラスの集団づくりと子どもの参加
- [第8章] 行事をつくる
- 1 はじめに
- 2 行事とは何か
- 3 障害のある子どもと行事
- 障害のある子どもが抱える行事への不安と期待/ ともにつくり上げていくということ/ 障害のある子どもにとっての行事の意義は
- 4 行事は誰のためにあるのか?
- 行事をとりまくさまざまな側面/ 行事を迎える保護者の不安と期待/ 保護者への対応/ 多くの人の支えのなかで育っていく/ 保育者間の連携
- 5 行事への取り組み―筆者の実践から
- 6 行事をとおして何が育つか
- 第W部 ふかめる
- [第9章] インクルージョン保育の実践
- 1 インクルージョン保育の理念
- サラマンカ声明とインクルージョン/ サラマンカ声明の特に優先度の高い分野/ インクルージョン保育の思想/ インテグレーションからインクルージョンへ/ ノーマライゼーションとインクルージョン/ ノーマライゼーションの八つの原則/ 心のバリアフリーについて/ ユニバーサルデザインとインクルージョン/ インクルージョンの考え方から見えてくるもの/ インクルージョン保育と保育者養成の役割
- 2 インクルージョン保育の方法
- はじめに/ 保育者の不安と葛藤の理由/ 保育者の不安を緩和するための実践/ インクルージョン保育はいのちの保育
- 3 インクルージョン保育の実践
- 病弱児の保育/ 包括的保育理念と病児/ 喘息等,家庭内治療をしている病児/ 病弱児保育の難しさ
- 4 インクルージョン保育推進のために
- 遅れているインクルージョン/ 効率重視の社会から脱却すること/ インクルージョンとスロー保育/ インクルージョン保育と子どもの権利/ インクルージョン保育は新しい時代を開く
- *コラム
はじめに
障害のある子どもたちの教育は2007(平成19)年,特殊教育から特別支援教育に転換されました。その理念は自立や社会参加に向けた主体的な取り組みを支援するという視点に立ち,子ども一人ひとりの教育的ニーズを把握し,その持てる力を高め,生活や学習上の困難を改善または克服するため,適切な指導や支援を行うことに現れています。この理念の実現のためには,特別支援学校のみならず幼稚園や小・中学校,高校などの通常の学級における障害のある子どもたちの指導においても,その体制づくりや内容の充実が一層,求められるようになりました。
このような障害のある子どもの教育の変革期において,健常児の教育に関しても,次の10年に向けて大きく動き出しました。具体的には中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会が,「習熟・活用・探求」のバランスが取れた学力の育成をめざし,幼稚園,小・中学校,高校の教育内容を改訂する作業を終えて,2008(平成20)年1月に文部科学大臣に答申しました。2008(平成20)年3月には新学習指導要領が告示され,幼稚園の場合には2009年度から実施,小中学校の場合には2009年度から移行措置が行われて新しい教育内容に基づいた指導が始まることになったのです。
今般の学習指導要領の改訂にあたり,特別支援教育に関してもさまざまな改善が行われる予定です。なかでも幼稚園に関しては,小・中学校,高校と同様に,障害のある子どもに対する理解と適切な指導を行うために,個別指導計画の作成や個別の支援計画の策定が求められます。また,認定こども園のように保育所と幼稚園が連携した保育・教育を行う場合,その機能を活用した早期教育の充実方策の検討なども,新たな改善点として挙げられています。
本書においてはこうした動向を踏まえながら,就学前の障害のある子どもの保育・教育の充実を図るために,先進的な方法を知りたいというニーズに応えるために企画しました。内容的には保育者を目指す学生,既に保育者として活躍されている人たちを対象に,具体的な方法論に集約し,日常の保育・教育の充実に資するものに編集しました。本書の構成としては,「かかわる」,「はぐくむ」,「つくる」,「ふかめる」となっていますが,これは実際の保育・教育に引き寄せた結果であります。文字通り内容は保育・教育の実践に直結するものばかりであり,日常の保育・教育にお役立ていただきたいと存じます。
本書は『障害のある幼児の保育・教育』(明治図書刊,2003)の姉妹編であります。合わせてご活用いただければ,一層,本書の持つ機能が明確になり,保育・教育実践が深まるのではないかと思います。しかしながら本書は,内容的にはまだまだ不十分なものであることも事実であります。先輩,諸兄姉の皆様方の忌憚のないご指導,ご批判を賜ることができれば幸甚であります。
なお,本書の編集にあたっては,構想の段階から編集に至るまで,北海道教育大学釧路校・戸田竜也先生に過分のご協力をいただきました。先生の繊細な発想と緻密な作業がなければ,本書の発行は実現しなかったのではないかと考えています。ここに記して感謝の意を表したいと存じます。
2008年3月 編者代表 /伊勢田 亮
※本書では,障害のある乳幼児のことを「障害のある子ども」と記しています。
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- 明治図書