- はじめに
- 第1章 仁先生の臨床覚書 〜日々の実践から〜
- 1 医学から見た発達障害の子どもたち
- ◇発達障害の概念と診断◇
- 1.発達障害は歴史的かつ包括的な障害概念と理解すべき!
- 2.自閉症スペクトラムは障害か?
- 3.DSMとは何か?
- 4.DAMP症候群とは?
- 5.ADHDを再考する
- 6.診断はLD? 医学はみなし診断
- ◇発達障害の近接領域と併存状態◇
- 1.チャウセスク・ベイビー ――虐待と類自閉パターン
- 2.未熟児出生とADHD
- 3.併存状態としての学習困難――それはLD?
- 4.トゥレット症候群と発達障害の関係
- 5.精神運動発達遅滞――知的障害の原型
- 6.発達障害と睡眠
- 2 高機能自閉症・アスペルガー症候群の考え方
- 1.発達障害としてのアスペルガー症候群
- 2.高機能自閉症とアスペルガー症候群は連続的か?
- 3.アスペルガー症候群と暴力
- 4.幅広い自閉症の表現型(BAP)とは?
- 3 成人期のADHD
- 1.ADHDのある子どもはどのような大人になっていくのか?
- 2.多動児は小学3年まで?
- 3.大人のADHDは突然発症しない
- 4.困った大人にならないために
- 第2章 発達障害専門医の医学的支援 〜薬物治療の効果とその限界〜
- 1 てんかんと発達障害
- 1.発達障害って何ですか?
- 2.てんかんは病気ですか? それとも障害ですか?
- 3.発達障害を早期に発見すると治りますか?
- 4.てんかんが原因で発達障害が起こりますか?
- 5.てんかんが治れば発達障害はなくなりますか? 治療薬の影響がないか心配です
- 6.発達障害はどこで診てもらえるのですか? てんかん専門医も診ているのですか?
- 7.てんかんと同じように,発達障害にも薬物治療は効果があるのですか?
- 8.療育はてんかん児にも効果がありますか? また,何歳から始められますか?
- ◇てんかんの薬物治療◇
- 9.なぜてんかん発作を止めなければならないのか?
- 10.抗てんかん薬の治療の原則と副作用
- 11.治療の継続と終了
- 2 薬物治療:自閉症とADHD
- [自閉症への対応]
- 1.抗精神病薬
- 2.選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
- 3.抗てんかん薬
- 4.中枢神経刺激剤
- 5.その他の薬剤
- [ADHDへの対応]
- 1.中枢神経を刺激する薬がなぜ過剰な行動の抑制効果を示すのか?
- 2.刺激剤の効果は非特異的――どんな子どもにも効く!
- 3.刺激剤の副作用
- 4.リタリンのその後
- 5.非中枢神経刺激剤の登場
- 第3章 「地域療育」という支援の在り方
- 1 横浜市の地域療育――過去・現在・未来
- 1.はじめに
- 2.「総通構想」誕生の時代
- 3.現在の地域療育の配置と運営
- 4.これからの療育センター ――課題と展望
- 2 横浜市の早期療育相談
- 1.原因不明の精神運動遅滞(Psychomotor Retardation;PMR)児への対応
- 2.PMRと自閉症の関係
- 3.1歳6ヶ月児健診とは?
- 4.1歳6ヶ月は妥当な月齢か?
- 5.フォローアップと相談が重要
- 6.療育相談――開始のタイミングとその後
- 7.スクリーニングする側とされる側
- 8.早期療育科の役割
- 9.早期発見から早期相談へ
- 3 子どもの特性から将来を考える
- 1.発達障害臨床の昔と今
- 2.診断――近い将来も同じ状態が続くと判断すること
- 3.どうやって子どもを診るか? 能動的診察――ソフトサインの導入
- 4.ソフトサインとは何か?
- 5.療育とは何か?「工夫した子育て」
- 6.療育センターと地域訓練会
- 7.発達障害の気づき
- 8.気づきから理解へ,そして支援へ
- 9.指導のユニバーサルデザイン化――自閉症幼児の療育から
- 10.療育のための2つの原則と3つの基本テクニック
- 11.大人になったら:安全と安心
- 12.告知は必要! 専門家が質問に備える
- 仁先生への質問箱
- Q−1:乱暴でかんしゃくを起こす4歳の男児
- A1:攻撃行動は特性であって特定の障害には結びつかない
- A2:攻撃行動にも発達がある
- A3:どのように対処するか?
- Q−2:話す意欲はあるのに何をいっているのかわからない4歳の男児
- A1:聞こえていますか?
- A2:ことばの発達の男女差
- A3:考えられる問題
- A4:保育者と保護者との関係
- Q−3:ADHDのある子どもと被虐待児の区別
- A1:ADHD児は虐待を受ける可能性が高い
- A2:虐待を受けている子どもの行動はADHD的!
- A3:どこに相談するか――虐待を疑う場合
- A4:どこを紹介すべきか――ADHDの場合
- Q−4:アスペルガー症候群と診断されている6歳の女児
- A1:アスペルガー症候群の診断は難しい
- A2:「理由もなく」行動することはない
- A3:まず注意を引き,単純で短い肯定形の指示を
- A4:善し悪しの基準を示すのは身近な大人
- Q−5:つま先歩きをする3歳の女児
- A1:つま先歩きは脳性麻痺の兆候
- A2:つま先歩きはことばの遅れの指標
- A3:なぜつま先歩きをするのか?
- A4:保育者はどう対処すべきか?
- Q−6:熱性けいれんの頻発する5歳の男児
- A1:熱性けいれんは予後のよいありふれた病気
- A2:けいれんは一瞬の「死」――診断は後
- A3:熱性けいれんは何回までが許容範囲か?
- A4:熱性けいれんへの治療の基準
- A5:熱性けいれんからてんかんへの移行は防ぐことができない
- 初出一覧
はじめに
横浜の地域療育に本格的に関わることになって8年がたちました。研究職から臨床医への転身の際に,地域療育に特段の思い入れがあったわけではありません。臨床医としての自分が生かせる場として,横浜市中部地域療育センター診療所が得られたとの認識でした。しかし,今はこの場所こそ発達障害の臨床に最適と気づかされました。そして,療育センターのスタッフとともに担う地域療育は,発達障害の臨床に欠かせない重要なキーワードのひとつなのです。
本書の第1章は,明治図書出版発行の隔月誌『特別支援教育の実践情報』に,2008年4月から2010年3月までの2年間(12回)にわたって連載したコラム「医学からみた発達障害の子どもたち1および2」を中心に構成されています。このエッセーは「発達障害専門医」としての日々の実践の中で感じたこと,気づかされたことを,発達障害に関する医学の進歩に重ね合わせて書き綴ったものです。次に高機能自閉症・アスペルガー症候群に関わる小論と注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもがどのような大人になるのかというテーマでの講演記録からの書き下ろしが続きます。
第2章は,てんかんの発達障害としての側面の解説から始まります。発達障害という用語が誕生した時期は,発達障害にてんかんも含まれていたのですが,やがて現在のように,発達障害とは異なった脳の慢性疾患と理解されるようになりました。引き続き,てんかんの薬物治療の原則を述べ,次に自閉症とADHDの薬物治療について,現状でどこまでの効果を期待できるか,そして薬物治療の限界とはどのようなものかを述べます。発達障害専門医の担当する医学的支援,いわば日常の臨床の有り様についてまとめました。
第3章は,横浜市の地域療育に対する私見を述べた小論から始まります。地域療育の全体像をご理解いただきたいと思って掲げました。地域療育の入り口に当たる療育相談事業に関する,神奈川LD協会機関誌に4回にわたって連載したシリーズエッセイも大切な視点です。次の「子どもの特性から未来を考える」は,療育センター利用児の保護者会での講演に基づいて書き下ろしました。療育とは「工夫した子育て」という筆者の持論を展開しています。最後は「仁先生への質問箱」です。これは保育士・幼稚園教諭の方々から寄せられた様々な質問に筆者が回答する型式で,『ゆずりはだより』という,筆者の友人でもある木村はるみ先生主宰の教育研究所の会報に連載した,発達障害に関わるQ&Aをまとめたものです。
以上でおわかりのように,筆者が横浜市中部地域療育センターに着任した2002年10月以降に,依頼原稿として執筆したものから選択し,さらに講演原稿から書き下ろした部分も含めて,多くの皆さんにお読みいただきたいと願って,拙文を集めて構成したのが本書です。ただし,研究として学会誌に投稿した論文や,依頼原稿でも専門医向けの論文は除いて,子ども,特に発達障害のある子どもに関わる保育士・幼稚園教諭,小中学校教員,保護者の方々を読者として意識した,いわば一般向けのエッセー集といたしました。発達障害の臨床の一端をご理解いただければ幸いです。
2011年4月 横浜市中部地域療育センター 所長 /原 仁
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- 明治図書