特別支援教育の教師のための授業づくり
5つの具体性原則を学ぶ

特別支援教育の教師のための授業づくり5つの具体性原則を学ぶ

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授業の実際を基にした「具体的原則による授業づくり」を提案

多くの授業を参観し専門的に研究している著者が、特別支援教育で重要視されている多様な事項に授業づくりの原則を見出した。実態把握、授業目標、教材、教授行為、評価の5つを柱に、研究授業を丁寧に解説しながら、個別のニーズに合わせた今後の授業づくりを提案する。


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ISBN:
978-4-18-038411-2
ジャンル:
特別支援教育
刊行:
2刷
対象:
小・中・高
仕様:
A5判 132頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

もくじ

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はじめに
第1章 授業づくりのまえに
1 授業づくりのまえに
(1) 特別な教育的ニーズに応じる授業づくり
(2) 参観授業から考える
(3) 授業の何で応じるか
(4) 特別な教育的ニーズに応じる授業内容の選択
(5) 授業目標と授業内容
(6) 障害児教育の歴史から学ぶ
(7) 自分の授業内容表を持とう
2 子どもは何を学ぶか
(1) ある母親の電話
(2) 授業の構想をしっかりと
(3) 学習活動を見る目
(4) 何を学習するかを熟慮して
3 授業とは何か
(1) あらためて,授業って何
(2) ある研究授業から
(3) 教材を媒介しての働きかけ
(4) 教材を媒介する意味
第2章 具体性原則による授業づくり
1 授業づくりにおける具体性原則
(1) 5つの具体性原則
(2) 教材の具体性
2 指導内容に即した実態把握
(1) 指導内容に即した実態把握
(2) 実態の解釈と授業づくり
3 授業目標の具体的な記述
ある研究授業から
4 具体性の高い教材の工夫
(1) 子どもの主体性を引き出す教材
(2) 教材の代表性
(3) 教材の現実性(リアリティー)
5 的確な教授行為
(1) なぜ,教授環境が大事か
(2) 「わかる」ことを求めて
(3) 認識する力を育てる授業づくり
(4) 実践に学ぶ
(5) 「できる」と「わかる」
6 子ども自身が考える授業づくり
(1) 考えることの重要性
(2) ある研究授業から
(3) ある教育実習生の授業から
(4) 考える根拠を示す
(5) 経験を振り返る手だて
7 授業目標に即した評価
(1) ある授業参観から
(2) 評価できる授業目標
(3) 評価の方法
8 授業研究における具体性
(1) わかりやすい授業を展開する力を高めるために
(2) 授業参観の視点を再考する
(3) 授業参観のポイントをつかむ
(4) 焦点化法による授業参観@
(5) 焦点化法による授業参観A
(6) 授業記録を再考する
第3章 生活単元学習論究
(1) 生活単元学習の定義と実践上での捉え方
(2) 単元と単元学習
1 生活単元学習とは,何なのか
――その成果と課題等を問うために――
(1) 生活単元学習を見直そう
(2) ある実践研究から
(3) 授業実践の経験から
(4) どのような生活単元学習かを明確にして
(5) 授業実践から見えること
(6) 実践者自らがその成果等を問うために
(7) これからの生活単元学習
2 最近の生活単元学習をめぐって
(1) 代表的な指導の形態
(2) ある授業参観から
(3) 自立的な生活に必要な事がらの学習
(4) もうひとつの参観授業から
(5) 発想の逆転を
(6) ある研究発表から
3 生活単元学習再考
(1) 生活単元学習の定義を振り返る
(2) 考え方の変容と実践への影響
(3) 研究の方法
(4) 資料の分類と整理
(5) 生活単元学習は変容したか
(6) まとめ
4 バザー単元学習を考える
(1) バザー単元学習とは,何か
(2) バザー単元学習を問い直す
(3) 研究の方法
(4) 分析の結果
(5) バザー単元学習の特徴やその変遷
(6) まとめ
おわりに代えて――「飄々と実践する」考

はじめに

 日々,どのように授業づくりを進めていけばよいだろうかと,考え悩んでいる教師は多い。先輩教師に尋ねると,「教材研究が重要だ」と指摘を受ける。研修会では,「アセスメントをしっかりやってください」とか,「声かけや発問が大事です」と言われる。特別支援学校の研究紀要には,PDCAサイクルを活用して計画から実践,反省を繰り返しながら授業づくりをすすめるように指摘されている。あるいは,専門書では,授業研究の重要さが謳われている。このように,よりよい授業づくりのためにいろいろな指摘がある。これらの指摘は,一見別々のようでもある。

 そこに,授業づくりの原則は見い出せないのであろうか。

 筆者は,特別支援学校や特別支援学級,あるいは障害のある子どものいる通常の学級での授業研究を通して,特別支援教育の授業づくりには,「具体性原則」があることを見て取り,それに基づいた授業が有効である,と考えるようになった。


 ある小学校の教室。算数の時間に,子どもたちは計算ドリルをやっている。ひとりの子どもが,「足し算,もういやだ。足し算,もういやだ」と席を立ちかけた。先生があわてて飛んできて,「まだ半分じゃないの。最後までやるのよ」と厳しい口調で言いながら,肩を押さえようとした。

 その子は,現在,いわゆるアスペルガー症候群と言われる子どもである。先生のこのような対応に大声で「もういやだ」と席を立って教室から出て行ってしまった。

 もし,この様子を小児科医だったアスペルガーが天国から見ていたら,「そうだ。こんなことがありましたよ」と1944年に発表したフリッツのことを話してくれるかもしれない。


 「フリッツが足し算に飽きて,『足し算はもうけっこう,足し算はもうけっこう』と唱えたときは,『そうね,足し算はもういいわね』と教師は答えて,同じように落ち着いた声で,『これはいくつ……?』と続けました。素朴ですが,私たちの経験では,こうした方法がよく功を奏しました。」


 教師がどのように授業をつくり,その授業の中で子どもたちにどのようにかかわるか。4月からどのように学級づくりをしてきたか。教室経営をどうしているか。自閉症の子どもの席をどうするか。

 自閉症の子どもの授業づくりにかかわっても,いろいろと知りたいことがある。

 1953年,アメリカで自閉症の子どもの学校を初めてつくったカール・フェニケル校長もきっと「アスペルガー先生の話は参考になるね。教師は,あまりカッカしちゃだめですよ」と言うでしょう。

 言うまでもないが,授業を進める教師の態度は,子どもたちにとても大きな影響を与える。それは,自閉症の子ども本人にとってもであるが,クラスメイトにとっても大きい影響がある。1972年,東京都の通常の学級の教師たちが中心になって活動していた東京都公立学校情緒障害児教育研究会(都情研)の共同研究でも,担任教師のかかわり方が大きな影響のあることを指摘している。

 アスペルガーは,教師の態度だけでなく,その教え方もいろいろと示してくれている。日常のいろいろなことを教えるにも,直観ではなく,筋道を立てて理知的に教えることが大事だと言っている。そのためには,たとえば,家でも日課表を作って教えることをやっている。それが,自閉症の子どもにとっても,わかりやすい授業になるのである。


 一方,知的障害の教育を中心とした特別支援学校や特別支援学級では,主な指導の形態として,領域・教科を合わせた指導が長く行われてきた。特に,その中心に生活単元学習が置かれてきた。

 知的障害の子どもの授業づくりでは,これまで教材の現実性(リアリティー)が論議されてきた経緯がある。生きる力,生活力を培う授業は,「ごっこ」では駄目だというのである。教材の現実性を追求し,生活力を高める取り組みをもっとも進めてきたのが,生活単元学習であった。しかし,学習指導要領の解説では,それが改訂されるたびにその位置づけにも変化がある。何より,筆者は,教育現場で授業参観させていただくたびに,生活単元学習とは何か,と首をひねることがしばしばある。特別支援学校や学級での授業は,知的障害の子どもと自閉症の子どもが,ひとつの学習集団で,授業を受けていることが多い。自閉症の子どもの教育でも現場での学びが重要であると言われている。

 教育全般に目を移すと,コメニウス以来,直観が大事にされてきた。すなわち,百聞は一見にしかずという視点から,教材を考えることの重要性である。それを具現したのは,コメニウスの『世界図絵』である。絵による教科書である。

 障害のある子どもにかかわる職種は,医療,労働,福祉,行政など,教師以外にもさまざまある。しかし,授業という方法によってかかわるのは,教師だけである。教師は授業の専門家である。その授業の特徴は,教師が教材を媒介にして子どもにかかわることにある。それゆえ,教材は授業の成否の要であって,教材研究の重要性,必要性が叫ばれる所以である。

 授業をつくろうとする場合,教材について言えば,教材のわかりやすさ(代表性),現実性(リアリティー),直観性の三方向からの検討は欠かすことができない。この三方向は,教材研究する場合の具体性原則である。

 私たちは,新しいと言われる教育方法にはすぐに目が行くが,「歴史はどうもね」と敬遠しがちである。とくに教育方法は,古臭いものは役立たないと思ってしまうかもしれない。しかし,歴史も見直す視点によっては,現在でも十分に役立たせることができる。いやそれだけでなく,その結果までも踏まえて,参考にすることができるのである。このように教育の歴史も踏まえながら,教材に関してだけでなく,授業に関するさまざまな事柄を,「具体性原則」の視点からまとめ,今後の授業づくりを提案するのが,本書の一つの特徴である。


 授業は,今現在展開されているのである。過去の事柄ではない。

 障害のある子どもにとって「具体性原則による授業づくり」がどのようなものなのか,現状の授業を離れて語ることは有効ではない。今,それぞれの学校で展開されている授業を見据えることが重要である。

 筆者は,特別支援教育の授業づくり,授業研究を専門的に研究している。そのため,幸いにも,多くの学校から授業づくり,授業研究への協力を依頼され,授業を参観させていただく機会は多い。本書では,参観させていただいた授業をできるだけ取り上げ,それらを基にして「具体性原則による授業づくり」を考えていきたい。それが,本書のもう一つの特徴である。

 参観させていただいた授業からは,多くのことを学ばせていただいた。取り上げさせていただいた授業者の先生方へ感謝を申し上げる。


 なお,第3章の3では,学会誌に発表した論文を再掲した。また,同じく4では,未発表の論文を掲載した。そのため,これらの文章は,そこまでの文章と違い,いくぶん読み難いかもしれない。しかし,筆者の考えを伝えるためにあえて表現形式を変更していない。ご容赦願いたい。


  八科峠近くの寓居にて――   /太田 正己

著者紹介

太田 正己(おおた まさみ)著書を検索»

1953年生まれ。京都教育大学教授,同附属養護学校校長を経て,現在,皇學館大学社会福祉学部教授,京都教育大学名誉教授,中央教育審議会専門委員(特別支援教育),博士(学校教育学),学校心理士。

現在,週に1日ないし2日,特別支援学校,特別支援学級,または通常の学級に出かけ,現場の教師たちとともに障害のある子どもたちの授業づくりを行うとともに,よりよい校内研修としての授業研究会を進めるためにスーパーバイザーとして加わる。専門は,特別支援学級等での授業づくり,授業研究。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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