- まえがき
- 第T章 “温かいこころ”と“冷静な頭脳”
- 1 公民学習の目標と方法
- 2 「ウソ」「ホント」から「社会の仕組み」へ
- 3 「活用」「探究」型授業に関わって
- 第U章 嫌法学習から憲法学習へ
- 1 憲法学習の留意点
- 2 基本的人権の学習
- 3 統治機構の学習
- 第V章 楽しく「経済学」
- 1 経済学習の現状
- 2 経済学習の基本スタンス
- 3 楽しく経済学 〜「習得のための5つのポイント」〜
- 第W章 「現代社会と憲法・政治」ウソ・ホント?授業
- (1) 【習得・活用】君の身近なところに世界が 〜グローバル化〜
- (2) 【活用・ワークショップ】クラブ活動の予算配分を考える 〜「対立」と「合意」,「公正」と「効率」〜
- (3) 【習得・活用】89年は人権拡大の年 〜人権の歴史〜
- (4) 【習得・ゲーム】歌とビンゴで憲法前文 〜憲法前文〜
- (5) 【習得・活用】歌から考える9条学習 〜平和主義〜
- (6) 【習得・活用】身近な事例から「平等権」を考える 〜平等権〜
- (7) 【習得】議長の給料はなぜ高い 〜国会〜
- (8) 【習得】先生は国務大臣になれるのか 〜内閣〜
- (9) 【習得】ラブホテルは立ち退かないといけないの 〜条例〜
- (10) 【習得】関西国際空港は,何市にあるか? 〜地方財政〜
- 第X章 「経済」ウソ・ホント?授業
- (11) 【習得】おもちゃが変化した理由 〜PL法〜
- (12) 【習得】模擬体験と替え歌で学ぶ契約 〜契約とクーリングオフ〜
- (13) 【習得】へっ! あれもお金になるの 〜貨幣〜
- (14) 【習得・活用】ジュースとハンバーガーで考える価格 〜価格〜
- (15) 【習得・ワークショップ】ワークショップ金融 〜金融〜
- (16) 【習得】景気って気持ちの問題? 〜景気〜
- (17) 【活用・探究・討論】「消費税アップ」と「TPP参加」の是非を問う 〜「立場」を変えて多面的・多角的に考える〜
- (18) 【習得・ゲーム】わくわく円高・円安ゲーム 〜為替〜
- (19) 【習得】君は,どんな働き方をしますか? 〜労働〜
- 第Y章 「国際社会」ウソ・ホント?授業
- (20) 【習得】国連総会,何語で話しているのか? 〜国連の仕組み〜
- (21) 【習得・活用】「粉ミルク」のパッケージから考える国連の活動 〜国連の仕事〜
- (22) 【活用・探究・討論】自衛隊海外派遣の是非を問う 〜「紙上討論」「KJ法」から「パネルディスカッション」へ〜
- (23) 【参画・発信】政党への手紙と新聞投書 〜「参画」型学習〜
- あとがき
まえがき
○子どもの現実から出発しよう!
2010年10月『塀の中の中学校』というドラマが放映された。刑務所に収監されている中学校を卒業していない服役者が,学び直す物語である。その場面で,千原せいじ演じる服役者が,「わからない」授業に耐えられず「俺をやめさせてくれ。もう耐えられない。俺はいじめなどしたことなかったが,今,俺はいじめをしている。このまま,ここにいたら,どんどんイヤな人間になってしまう(要旨)」という叫びをあげ,自殺しようとする場面があった。この“叫び”の場面を見ながら,教室の何人かの生徒の顔が目に浮かんできた。本来,「学ぶ」とは,“新たな発見”をし,“知的興奮”を喚起し,“生き方”を揺さぶるものでなくてはならない。しかし,「学力低位層」や「学習意欲のない」生徒にとっては『抑圧装置としての授業』になっているのではないだろうか。
心ある教師は,いわゆる「学力低位層」や「学習意欲のない」生徒を授業に位置付けようと興味ある教材開発や,グループでの学習形態,または,放課後補習をする等の対応をしつつ苦悩している。定期テスト前に,10点以下は「かんべんして!」と思い,放課後に補習をする。ほとんどテスト問題と同様の「穴あき問題」を手渡し,いくつかを暗記させる。それでも,10点以下の点数しか取れない。授業中,発問にはときには答えるが,漢字は書けないので板書を写そうとしない。「おい! 書けよ!」と一応は注意する。授業を受けるのがイヤで,6時限の終わりかけに登校する生徒。この生徒たちは,そのまま放置すれば,テストは0点。ますます意欲をなくすので,テスト前は自宅で学習する。いわゆる家庭教師である。学校では,勉強している姿を見られるのは恥ずかしいそうだし,家庭ではお菓子を食べながら和やかに学習できる。また授業中,元気よく発言して,なかなか絶好調だと思っていたら,発問の答えに間違ったとたんに,配布したプリントを丸めて,ふて寝。「おい! 何すねてるねん!」と渇を入れるとますますすねてる。その後は放置!
文部科学省学力調査45位の大阪府の平均よりさらに低い,東大阪市のある授業風景である。このような生徒たちが生き生きと学習できる手立てを考えなければ,授業は不成立になる。
また,一方で,「受験圧力」も存在する。いわゆる「できる生徒」は,テスト問題に出題されないような雑ネタには興味を示さない。ノートに落書きをしている生徒もいれば,教科書の他のページを読んでいる。放置すれば他教科の問題集でもやりかねない。公立中学校の授業は,この「学力差」のある生徒たちを対象に授業を展開しなければならない。
○今,付けさせたい学力とは 〜新学習指導要領の趣旨〜
平成24年度版「中学校社会科改訂の趣旨」において「基礎的・基本的な知識,概念や技能の習得に努めるとともに,思考力・判断力・表現力等を確実にはぐくむため言語活動の充実を図り,社会参画に関する学習を重視することが必要である」と書かれている。また,「改善の基本方針」には,次のような記述があり,この内容が今改定の主たるねらいと考えられる。
社会的事象に関する基礎的・基本的な知識,概念や技能を確実に習得させ,それらを活用する力や課題を探究する力を育成する観点から,各学校段階の特質に応じて,習得すべき知識,概念の明確化を図るとともに,コンピュータなども活用しながら,地図や統計など各種の資料から必要な情報を集めて読み取ること,社会的事象の意味,意義を解釈すること,事象の特色や事象間の関連を説明すること,自分の考えを論述することを一層重視する方向で改善を図る。
ここで述べられている「習得」「活用」「探究」そして「参画」が,キーワードである。前述した地理的分野においては,大幅な改定が行われた。世界地理学習においては,6州の地域を,日本地理学習においては7地方区分による学習が行われる。しかし,このことを暗記社会科への回帰と考えてはならない。特に,日本地理学習においては,「自然環境を中核とした考察」「歴史的背景を中核とした考察」など7つの基軸による,中核方式による「動態的地誌」学習が提唱されている。主に,地理的分野を中心に述べてきたが,歴史的分野においても「学習した内容を活用して大観し表現する活動を通して,その時代がどのような特色をもつ時代だったかを捉える学習」を,そして公民的分野においても「対立」「合意」と「効率」「公正」という概念から社会的事象を分析することを重視している。この改定趣旨が現場に根ざす手立てを考えることが必要である。
新学習指導要領で「習得」「活用」「探究」という学力や学習方法が強調されているが,この3つは,決して新しいものではない。しかし,社会科教育の変革にとって,このことは重要である。なぜなら,これまでの学習において,授業者は,この3つの学力や学習方法をあまり意識せずに実践してきたからである。このことを意識することで,「暗記社会科」から脱皮し,「思考力」「判断力」「表現力」を身に付ける授業へと変革できるチャンスである。
筆者が最も重視している点は,「学習意欲」と「活用」「探究」との関係である。“できる子”=「活用・探究」力,“できない子”=「習得」ということではなく,すべての生徒が“楽しくわかり”そして,「思考力」「判断力」「表現力」を付ける授業を展開する必要がある。
本書に収録された実践は,上記紹介した,いわゆる“やっかい”な生徒たちが,それなりに“くいつき”“考え”“発言”した授業である。「荒れ」や「学習意欲」のない中で,「習得」さえままならない中学校現場にあって,子どもが意欲的に取り組み,「活用・探究」力を培う授業の問題提起である。
2012年5月 /河原 和之
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- 明治図書
- 「教科書の記述暗記と憲法」「世界三大宗教比較表の暗記と宗教」「需要曲線グラフの読み取りと価格決定」「仕組み図の暗記と国連」という当たり前の「AとB」を、「クレヨンの色と憲法」「スターバックスと宗教」「マクドナルドと価格決定」「粉ミルクと国連」という、アッと驚く「AとB」にしてしまった先生の発想力に圧巻です。まさに、社会科教材の錬金術です。熱心に討議に参加する生徒の様子もよく伝わってきます。授業に参加する生徒を育てることがまず、社会に参画する公民的資質を持つ生徒を育てることの第一歩になるのだと感じさせられました。2012/8/25khunyuri